追放された聖女ですが、辺境の貴族様に溺愛されています

こうたろ

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第10話 帝都への帰還

 翌朝。薄霧の中を馬車は走り続けた。目的地である帝都まではまだ半日ほどの行程だったが、霧による視界不良で速度は落ちている。

 エルナは窓から景色を眺めながら不思議な懐かしさを感じていた。聖女として帝都に向かった記憶が蘇る。
 あの頃は希望に満ち溢れていた。今はどうだろう……

「何を考えている?」

 隣からレオンハルトの声が聞こえる。

「昔のことを思い出していました」

「……過去ではなく未来を見ろ」

 レオンハルトの厳しい口調の中に優しさを感じた。

「そうですよね……すみません」

「謝る必要はない」

 馬車は山道を進む。峠を越えると霧が晴れ始め、遠くに巨大な城壁が見えてきた。帝都ウィンダリアだ。

「帝都です」

 エルナは思わず声を上げた。以前も見た光景のはずなのに、まるで初めて見るような新鮮さがある。

「ここから先は慎重にいくぞ」

 レオンハルトは周囲を警戒しながら言った。二人は町に入る前に一旦停車し、身なりを整えた。

「帝都に入ってからは目立たないように行動しろ」

「はい」

 門に近づくと衛兵の姿が見えた。レオンハルトは通行証を見せると何事もなく通過できた。

 帝都内部へと足を踏み入れた瞬間、エルナの胸は激しく高鳴った。かつて暮らした街並み。しかし今日は敵地に乗り込む心境だ。

「まずはクローゼとの接触方法を検討する」

「わかりました」

 二人は馬車を置き、徒歩で移動を開始した。人混みに紛れるためだ。

「どこへ行くのですか?」

「先ずは手紙だ。落ち合う場所を指定しよう」

 レオンハルトは馴染みの宿屋に入ると筆を取った。文章は非常に簡潔だった。
≪帝都北西部・老羊亭。明後日の午後二時≫

 手紙を預けると二人は再度街へ出た。歩きながらエルナは人々の会話に耳を傾ける。

「聞いたか?聖女様が宮廷に召喚されたらしいぞ」

「マジかよ?なんでも奇跡を起こしたとか……」

「皇帝陛下が直接会われたって話だぜ」

 レオンハルトの表情が厳しくなる。彼は静かに言った。

「気にするな」

「……そう、ですね」

 エルナは唇を噛んだ。
 二人はその後も街を巡り情報を集めると、夕刻になり日が落ちる頃に宿へと向かった。



「明日は図書館に行ってみよう。過去の文献に何かヒントがあるかもしれん」

「わかりました」

 エルナは微笑んだ。レオンハルトもそれに応えるように頷いた。

 不思議なことに不安よりも希望の方が大きかった。一緒にいるこの人がいれば何も怖くないと思える。

 外では雨が降り始めた。静かな雨音を聞きながらエルナは久しぶりに安心して眠りについた。

 そして明後日――クローゼとの接触。真実へと近づく第一歩が始まろうとしていた。
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