10 / 16
第10話 帝都への帰還
翌朝。薄霧の中を馬車は走り続けた。目的地である帝都まではまだ半日ほどの行程だったが、霧による視界不良で速度は落ちている。
エルナは窓から景色を眺めながら不思議な懐かしさを感じていた。聖女として帝都に向かった記憶が蘇る。
あの頃は希望に満ち溢れていた。今はどうだろう……
「何を考えている?」
隣からレオンハルトの声が聞こえる。
「昔のことを思い出していました」
「……過去ではなく未来を見ろ」
レオンハルトの厳しい口調の中に優しさを感じた。
「そうですよね……すみません」
「謝る必要はない」
馬車は山道を進む。峠を越えると霧が晴れ始め、遠くに巨大な城壁が見えてきた。帝都ウィンダリアだ。
「帝都です」
エルナは思わず声を上げた。以前も見た光景のはずなのに、まるで初めて見るような新鮮さがある。
「ここから先は慎重にいくぞ」
レオンハルトは周囲を警戒しながら言った。二人は町に入る前に一旦停車し、身なりを整えた。
「帝都に入ってからは目立たないように行動しろ」
「はい」
門に近づくと衛兵の姿が見えた。レオンハルトは通行証を見せると何事もなく通過できた。
帝都内部へと足を踏み入れた瞬間、エルナの胸は激しく高鳴った。かつて暮らした街並み。しかし今日は敵地に乗り込む心境だ。
「まずはクローゼとの接触方法を検討する」
「わかりました」
二人は馬車を置き、徒歩で移動を開始した。人混みに紛れるためだ。
「どこへ行くのですか?」
「先ずは手紙だ。落ち合う場所を指定しよう」
レオンハルトは馴染みの宿屋に入ると筆を取った。文章は非常に簡潔だった。
≪帝都北西部・老羊亭。明後日の午後二時≫
手紙を預けると二人は再度街へ出た。歩きながらエルナは人々の会話に耳を傾ける。
「聞いたか?聖女様が宮廷に召喚されたらしいぞ」
「マジかよ?なんでも奇跡を起こしたとか……」
「皇帝陛下が直接会われたって話だぜ」
レオンハルトの表情が厳しくなる。彼は静かに言った。
「気にするな」
「……そう、ですね」
エルナは唇を噛んだ。
二人はその後も街を巡り情報を集めると、夕刻になり日が落ちる頃に宿へと向かった。
■
「明日は図書館に行ってみよう。過去の文献に何かヒントがあるかもしれん」
「わかりました」
エルナは微笑んだ。レオンハルトもそれに応えるように頷いた。
不思議なことに不安よりも希望の方が大きかった。一緒にいるこの人がいれば何も怖くないと思える。
外では雨が降り始めた。静かな雨音を聞きながらエルナは久しぶりに安心して眠りについた。
そして明後日――クローゼとの接触。真実へと近づく第一歩が始まろうとしていた。
エルナは窓から景色を眺めながら不思議な懐かしさを感じていた。聖女として帝都に向かった記憶が蘇る。
あの頃は希望に満ち溢れていた。今はどうだろう……
「何を考えている?」
隣からレオンハルトの声が聞こえる。
「昔のことを思い出していました」
「……過去ではなく未来を見ろ」
レオンハルトの厳しい口調の中に優しさを感じた。
「そうですよね……すみません」
「謝る必要はない」
馬車は山道を進む。峠を越えると霧が晴れ始め、遠くに巨大な城壁が見えてきた。帝都ウィンダリアだ。
「帝都です」
エルナは思わず声を上げた。以前も見た光景のはずなのに、まるで初めて見るような新鮮さがある。
「ここから先は慎重にいくぞ」
レオンハルトは周囲を警戒しながら言った。二人は町に入る前に一旦停車し、身なりを整えた。
「帝都に入ってからは目立たないように行動しろ」
「はい」
門に近づくと衛兵の姿が見えた。レオンハルトは通行証を見せると何事もなく通過できた。
帝都内部へと足を踏み入れた瞬間、エルナの胸は激しく高鳴った。かつて暮らした街並み。しかし今日は敵地に乗り込む心境だ。
「まずはクローゼとの接触方法を検討する」
「わかりました」
二人は馬車を置き、徒歩で移動を開始した。人混みに紛れるためだ。
「どこへ行くのですか?」
「先ずは手紙だ。落ち合う場所を指定しよう」
レオンハルトは馴染みの宿屋に入ると筆を取った。文章は非常に簡潔だった。
≪帝都北西部・老羊亭。明後日の午後二時≫
手紙を預けると二人は再度街へ出た。歩きながらエルナは人々の会話に耳を傾ける。
「聞いたか?聖女様が宮廷に召喚されたらしいぞ」
「マジかよ?なんでも奇跡を起こしたとか……」
「皇帝陛下が直接会われたって話だぜ」
レオンハルトの表情が厳しくなる。彼は静かに言った。
「気にするな」
「……そう、ですね」
エルナは唇を噛んだ。
二人はその後も街を巡り情報を集めると、夕刻になり日が落ちる頃に宿へと向かった。
■
「明日は図書館に行ってみよう。過去の文献に何かヒントがあるかもしれん」
「わかりました」
エルナは微笑んだ。レオンハルトもそれに応えるように頷いた。
不思議なことに不安よりも希望の方が大きかった。一緒にいるこの人がいれば何も怖くないと思える。
外では雨が降り始めた。静かな雨音を聞きながらエルナは久しぶりに安心して眠りについた。
そして明後日――クローゼとの接触。真実へと近づく第一歩が始まろうとしていた。
あなたにおすすめの小説
さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~
阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」
婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。
けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。
セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。
「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。
――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します
青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。
キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。
結界が消えた王国はいかに?
完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。
梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。
16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。
卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。
破り捨てられた婚約証書。
破られたことで切れてしまった絆。
それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。
痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。
フェンリエッタの行方は…
王道ざまぁ予定です
出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。