7 / 19
5月
第六話「ゴールデンウィーク明けの嵐」
大型連休が終わった翌週月曜日。
登校するだけで疲弊してしまう。
理由は明白――スマホの通知が止まらないのだ。
「ねえ拓海今日会える?」「日曜日の練習試合来てほしいな」「映画のチケット取ってあるのだけれど……」
佐藤千春、天宮瑠璃、白石澪……そして意外にも冬月凛からも。
それぞれが独立してメッセージを送ってくるため、一日100件超の通知に対処できない。
「……これが“モテ期”ね……」
手のひらサイズの端末を眺めながら独り言を呟く。しかし画面に映るのは親切なメッセージではなく、無限に増殖する未読通知の恐怖図だった。
特に喫茶店事件以来、千春と白石さんの雰囲気が急激に変化したのが気がかりだ。互いに牽制し合っているのだろうか?その渦中に自分がいると思うと胃が痛む。
---
ホームルーム直前に教室に入ると、いつも通り静まり返った空間だった。
ただし男女ともに奇妙な熱気を感じる。
男子生徒たちの冷ややかな視線と女子たちの眼差しが交錯する。
(マジで勘弁してくれ……)
「おはようございます」
白石澪が教室に入ってくる。
教科書の隙間から覗き見た瞬間、教室の空気がピンと張りつめた。
戸口に佇む白石澪はまさに女王のごとく荘厳だった。金糸が入った黒髪を今日も完璧にまとめている。すっと伸びた背筋と理知的な瞳――入学当初から敬愛を集め続けていたカリスマ的存在だ。
だけど今の彼女はどこか違って見える。
「澪ちゃんおはよう!」
隣の席から天宮瑠璃が飛びつくように挨拶する。屈託ない笑顔がまぶしい。
「おはようございます天宮さん」
白石さんの声にはわずかに湿り気が混じっていた。
俺は思わず固唾を飲む。
彼女はゆっくりと俺の方に視線を移した。
「山田君……おはようございます」
その目には期待と羞恥の入り混じった色が浮かんでいる。
返事をする暇もなく先生が入ってきた。
ざわめきが一斉に収まる。
先生が出席簿を開く音だけが響く教室で、俺はちらりと確認した。
白石さんが熱に浮かされたような頬と潤んだ瞳でこちらを見つめている。
心臓が警報のように鳴り続ける中、俺はただ教壇を見つめることしかできなかった。
■
昼休みのチャイムが鳴ると同時に椅子を引く音が教室全体から湧き起こる。
みんな一斉に弁当箱を広げたり購買に駆けだしたり、いつも通りの騒々しい日常だ。
「……山田君」
突然耳元で名前を呼ばれて跳ね起きる。
視界に飛び込んできたのは白石さんの顔だった。
距離が近いぃ。
教室のざわめきが一瞬で遠のき、二人の間だけ真空状態になるような錯覚。
「ど、どうしたの?」
反射的に答えながらも全身の毛穴が開く。彼女の吐息が前髪を揺らすほどの距離だ。
白石さんは少し俯いた。
長い睫毛が影を作り、血の気の無い頬が更に蒼くなる。
「お昼……一緒にどうでしょう」
蚊の鳴くような声。
しかしその内容に教室中の会話がピタリと止まった気がした。実際周りの男子たちが凍りついた視線を向けてくる。
(これはまずい)
「えっと……俺は弁当持ってきてないんだ」
必死で言い訳を搾り出すと白石さんはぱっと顔を上げた。
「待ってます」
「え?」
「お待ちしていますので……」
「……」
あまりの押しの強さに呆然としていると、白石さんが開いている俺の前の席に座った。
お弁当は広げず、本当に俺を待つつもりらしい。
「わ、分かった。ちょっと待ってて……」
俺は席を立ち購買へ向かうしかなかった。
その道中何度も振り返ってしまう。白石さんが小さく頷きながら微笑んでいるのを見てはドギマギし、廊下を行く女子たちが怪訝そうな視線を投げるのも感じる。
購買で手早くパンを買い教室に戻る。
教室に戻ると白石さんは俺が教室を出て行った時と同じ姿勢のまま待っていた。
「待たせてごめん」
「いえ……それじゃあ頂きましょう」
彼女がお弁当を開ける。彩り豊かで栄養バランスの整った完璧なランチ。
一方俺はサンドイッチとお茶を机の上に置いた。
「いただきます」
「いただき……ます」
白石さんは箸を手に取るとおかずを一つつまんだ。
唐揚げ?鶏肉の衣が黄金色に輝いている。
「山田くん……」
「うん?」
「これ……美味しいからどうぞ」
そう言って箸を差し出してくる。
眼前に差し出される唐揚げ。
教室中の視線がさらに鋭くなるのがわかる。
「いや……白石さんのだから……」
「美味しいんですよ?」
畳み掛けるような微笑み。
断れない圧力だ。
「そ、それじゃあ……もらう」
口を開けると白石さんがそっと唐揚げを入れてくれる。
鶏肉の味わいが口内に広がる。
「美味しい?」
「うん……最高だね」
白石さんは心底嬉しそうに微笑んだ。
その表情があまりにも可憐で鼓動が乱れる。
「じゃあ次は卵焼きを……あ~ん」
「あ、あ~ん……」
拒否する勇気もなく卵焼きも食べる羽目になる。教室の男子からは殺意にも似た視線。女子は好奇心いっぱいに見守っていた。
登校するだけで疲弊してしまう。
理由は明白――スマホの通知が止まらないのだ。
「ねえ拓海今日会える?」「日曜日の練習試合来てほしいな」「映画のチケット取ってあるのだけれど……」
佐藤千春、天宮瑠璃、白石澪……そして意外にも冬月凛からも。
それぞれが独立してメッセージを送ってくるため、一日100件超の通知に対処できない。
「……これが“モテ期”ね……」
手のひらサイズの端末を眺めながら独り言を呟く。しかし画面に映るのは親切なメッセージではなく、無限に増殖する未読通知の恐怖図だった。
特に喫茶店事件以来、千春と白石さんの雰囲気が急激に変化したのが気がかりだ。互いに牽制し合っているのだろうか?その渦中に自分がいると思うと胃が痛む。
---
ホームルーム直前に教室に入ると、いつも通り静まり返った空間だった。
ただし男女ともに奇妙な熱気を感じる。
男子生徒たちの冷ややかな視線と女子たちの眼差しが交錯する。
(マジで勘弁してくれ……)
「おはようございます」
白石澪が教室に入ってくる。
教科書の隙間から覗き見た瞬間、教室の空気がピンと張りつめた。
戸口に佇む白石澪はまさに女王のごとく荘厳だった。金糸が入った黒髪を今日も完璧にまとめている。すっと伸びた背筋と理知的な瞳――入学当初から敬愛を集め続けていたカリスマ的存在だ。
だけど今の彼女はどこか違って見える。
「澪ちゃんおはよう!」
隣の席から天宮瑠璃が飛びつくように挨拶する。屈託ない笑顔がまぶしい。
「おはようございます天宮さん」
白石さんの声にはわずかに湿り気が混じっていた。
俺は思わず固唾を飲む。
彼女はゆっくりと俺の方に視線を移した。
「山田君……おはようございます」
その目には期待と羞恥の入り混じった色が浮かんでいる。
返事をする暇もなく先生が入ってきた。
ざわめきが一斉に収まる。
先生が出席簿を開く音だけが響く教室で、俺はちらりと確認した。
白石さんが熱に浮かされたような頬と潤んだ瞳でこちらを見つめている。
心臓が警報のように鳴り続ける中、俺はただ教壇を見つめることしかできなかった。
■
昼休みのチャイムが鳴ると同時に椅子を引く音が教室全体から湧き起こる。
みんな一斉に弁当箱を広げたり購買に駆けだしたり、いつも通りの騒々しい日常だ。
「……山田君」
突然耳元で名前を呼ばれて跳ね起きる。
視界に飛び込んできたのは白石さんの顔だった。
距離が近いぃ。
教室のざわめきが一瞬で遠のき、二人の間だけ真空状態になるような錯覚。
「ど、どうしたの?」
反射的に答えながらも全身の毛穴が開く。彼女の吐息が前髪を揺らすほどの距離だ。
白石さんは少し俯いた。
長い睫毛が影を作り、血の気の無い頬が更に蒼くなる。
「お昼……一緒にどうでしょう」
蚊の鳴くような声。
しかしその内容に教室中の会話がピタリと止まった気がした。実際周りの男子たちが凍りついた視線を向けてくる。
(これはまずい)
「えっと……俺は弁当持ってきてないんだ」
必死で言い訳を搾り出すと白石さんはぱっと顔を上げた。
「待ってます」
「え?」
「お待ちしていますので……」
「……」
あまりの押しの強さに呆然としていると、白石さんが開いている俺の前の席に座った。
お弁当は広げず、本当に俺を待つつもりらしい。
「わ、分かった。ちょっと待ってて……」
俺は席を立ち購買へ向かうしかなかった。
その道中何度も振り返ってしまう。白石さんが小さく頷きながら微笑んでいるのを見てはドギマギし、廊下を行く女子たちが怪訝そうな視線を投げるのも感じる。
購買で手早くパンを買い教室に戻る。
教室に戻ると白石さんは俺が教室を出て行った時と同じ姿勢のまま待っていた。
「待たせてごめん」
「いえ……それじゃあ頂きましょう」
彼女がお弁当を開ける。彩り豊かで栄養バランスの整った完璧なランチ。
一方俺はサンドイッチとお茶を机の上に置いた。
「いただきます」
「いただき……ます」
白石さんは箸を手に取るとおかずを一つつまんだ。
唐揚げ?鶏肉の衣が黄金色に輝いている。
「山田くん……」
「うん?」
「これ……美味しいからどうぞ」
そう言って箸を差し出してくる。
眼前に差し出される唐揚げ。
教室中の視線がさらに鋭くなるのがわかる。
「いや……白石さんのだから……」
「美味しいんですよ?」
畳み掛けるような微笑み。
断れない圧力だ。
「そ、それじゃあ……もらう」
口を開けると白石さんがそっと唐揚げを入れてくれる。
鶏肉の味わいが口内に広がる。
「美味しい?」
「うん……最高だね」
白石さんは心底嬉しそうに微笑んだ。
その表情があまりにも可憐で鼓動が乱れる。
「じゃあ次は卵焼きを……あ~ん」
「あ、あ~ん……」
拒否する勇気もなく卵焼きも食べる羽目になる。教室の男子からは殺意にも似た視線。女子は好奇心いっぱいに見守っていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする
エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》
16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。
告白されて付き合うのは2か月後。
それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。
3人のサブヒロインもまた曲者揃い。
猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。
この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?
もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!
5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生!
※カクヨム、小説家になろうでも連載中!
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた
里奈使徒
キャラ文芸
白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。
財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。
計画は完璧に成功し、絶世の美女は彼を慕うようになる。
しかし、彼女の愛情が深くなるほど、翔太の罪悪感も膨らんでいく。
これは愛なのか、それとも支配なのか?
偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?
マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。
「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。