俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ

文字の大きさ
12 / 19
6月

第十一話「嵐のような梅雨」

 六月に入り、雨模様の日が増えた。朝から降ったりやんだりで気温も安定せず、生徒たちのテンションも低めだ。
 そんな憂鬱な一日の終わりを迎えようとしていた放課後、千春に呼び止められた。

「拓海、今日一緒に帰らない?」
「え?ああ……いいけど」

 特に用事もないしなと思い返事をする。ただ今日は最悪なことに傘を忘れてしまった。朝は晴れていたので完全に油断していたのだ。
 昇降口に着くと千春は自分の折りたたみ傘を取り出す。ピンク色で花柄の可愛い傘だ。

「ほら、入って。濡れちゃうよ」
「でも……サイズ小さくない?」
「二人なら十分でしょ?」

 確かに二人で入れないわけではない。肩が触れそうなほどだが千春は気にしていないようだ。

「山田君」

 呼ばれて振り返ると、傘を持った白石さんが立っていた。

「こんなところで立ち止まって、傘でも忘れましたか?」

「あ、はい……」

 核心を突かれて苦笑いするしかない。

「だったら一緒に……」

「大丈夫ですよ白石さん、拓海は私の傘に一緒に入れますから」

 千春が割り込んでくる。なんだか妙な緊張感だ。

「佐藤さんの傘はどうやらは折り畳み傘のようですが」
「それでも二人くらい入れますよね」

 白石さんはふぅと息を吐く。

「私の傘なら十分なスペースがありますよ」

「でも拓海は私の幼馴染ですし」

 なんとも奇妙な展開だ。二人の間に火花が散っているように見える。錯覚だよね?

「入れてもギリギリ濡れてしまいます。山田君を濡らすつもりですか?」

「うっ!」

「と、いうわけです」

 白石さんは傘を傾けて俺の方へ寄せる。サイズは大きいけどやはり男子高校生が入ると多少窮屈だ。千春は不満げな視線を向けてくる。

「濡れないようにもっとこっち来てください」
「う、うん……」

 言われるままに身体を寄せると肩が触れ合う。

「大丈夫ですか?肩濡れてないません?」
「……ちょっと濡れてるけど大丈夫」
「駄目です。濡れると風邪を引きます」
「そこまで気を使わなくても……」
「私が気にしていますから」

 白石さんは更に密着してきた。腕と腕が触れ合う。
 こうして雨の通学路をゆっくり歩くのは初めての経験だった。
 周りの景色がぼやけて見えるのは雨粒が反射しているからか。それとも自分の気持ちが乱れているからなのか。

 しばらく歩くと千春が追いついてきた。自分の折り畳み傘をさしていてムスッとしている。
 二人の視線が交錯し空気が重くなる。俺はどうすればいいんだ?

 その時、俺の肩を叩く手があった。
 振り返ると冬月凛がいた。彼女は巨大な透明ビニール傘をさしていた。

「面白そうなことしてるね。私も仲間に入れて」

 突然の参入に全員が驚く。
 凛は無頓着に傘を持ち上げてみせる。

「四人で歩こ?」

 三人揃ってため息をつく。



「ここが山田君の家?」

「うん、わざわざありがとう」

 凛は駅で別れたけど白石さんは結局俺の家まで来てしまった。千春は最後まで不機嫌顔で隣の佐藤家に入っていった。

「くしゅんっ!」

 白石さんがくしゃみをした。

「やっぱり濡れたんだよね。ごめん」

「いえ……これは山田君のせいではありません」

 そうは言うけど、彼女は結構濡れていた。それは俺も同じだ。結局一つの傘で2人はきついんだ。
 今後は忘れずに傘を必ず持ってこよう。

「白石さん……良かったら、うちでシャワー浴びていく?風邪ひいたら大変だし」

「!!」

 言ってから後悔した。女子に言うセリフじゃないなコレ。下心丸出しだ。

「あ~、ごめん。デリカシーなかったよね」

 慌てて訂正しようとすると白石さんは俯いてしまった。怒ってる?嫌われた?

「……分かりました」

 意外な返事が返ってくる。

「え?」
「ではお言葉に甘えて」

 俺の方が焦ってしまった。本当に大丈夫なのか。

「お邪魔します……」

 玄関に入るなり白石さんは靴を綺麗に揃える。育ちの良さが垣間見える。

「あ、親は留守だからリラックスして」

「あ、ありがとうございます……」

 リビングに通してタオルを渡す。白石さんは遠慮がちに受け取った。

「シャワーはこっち」

 風呂場へ案内する途中、彼女の白い太腿が水気でテカテカしていて思わず目を逸らしてしまう。濡れた衣服が身体に張り付いてラインがくっきりと見て取れる。
駄目だ落ち着け。

「あ、着替えは……」

「シャツでもいただければ結構です」

「じゃあ……俺のでよければ。濡れた服は乾燥機に……」

 と言ったところで、白石さんが制服のブレザーを脱ぎだした。
 濡れているから当然脱ぐのだけど、突然の行動に頭が追いつかない。ブラウス越しに透けた下着が見えてしまい呼吸困難になりそうだ。

「山田君」
「な、何?!」
「見ます……?」

 上目遣いで俺を見つめてくる。意地悪そうな笑みを浮かべている。その瞳には妖艶な光が宿っている。
 鼓動が急速に高まる。喉がカラカラに乾いた気がする。
 
 白石さんはシャツのボタンを一つずつ外していく。俺の視線を楽しむように。
 徐々に露わになる雪のように白い肌。胸元の膨らみに沿った布地の歪み。
 
「どうしますか?」

 挑発的な問いかけ。俺の理性は限界を超えそうになっていた。
 そして俺は逃げるように脱衣所を後にした。危険だ……これ以上の視覚情報は精神崩壊を引き起こす!
 廊下で壁に背中を預け荒い呼吸を整える。

 今起きたことは夢なのか?白石さんがあんな風に大胆になるとは予想外だった。
 何より自分の身体反応に戸惑う。下半身の血流が増加して服の内側で明らかに形状が変わっている。これを見て白石さんに気付かれたらどうするんだ……!

「あんな姿を見せられたら誰でも反応するよ……」

 そんな独り言を漏らしながら心拍数を鎮める努力をする。
 しかし女性の裸体……しかも美少女の姿を想像すれば自然な生理反応なのだが対処法がわからない。
 スマホでエロサイトでも探せば収まるんだろうけど今はそういう状況じゃないしな……

 十分ほどして落ち着きを取り戻した頃を見計らって脱衣所に戻ると、浴室からはシャワーの音が響いていた。
 薄いドア一枚隔てた向こう側には全裸の白石さんがいる……と思うとまた血流が再活性化しそうになる。
 慌ててドアから離れ台所へ向かう。

 落ち着け。コーヒーでも淹れて飲もう。カフェインでリフレッシュするんだ。
 俺はキッチンの戸棚を開けインスタントコーヒーを探す。茶色い粉末の瓶を見つけ熱湯を注ぎ淹れる。
 香ばしい香りが鼻腔を刺激し少し気分が安らいだ気がする。

 リビングのドアが開く。シャワーは終了したようだ。
 彼女は俺のTシャツを着ている。サイズが大きめなのでワンピース状態だ。裾からは白くて細い足が伸びている。

「山田君……」

 消え入りそうな声。シャワーを浴びて火照った肌。赤らんだ頬。上目使いの潤んだ瞳。
 彼女は乾かしたがまだ少し濡れた前髪を片手で押さえつつこちらを見上げてきた。
 そんな仕草だけで理性を粉砕しようとするのは止めていただきたい!!

「コーヒー……飲む?」
「……頂きます」

 ソファに腰掛けた白石さんは両手でコーヒーカップを包み込むように持ち上げる。湯気の向こうに浮かぶ伏し目がちの横顔。
 普段は知的で冷静な印象を与える彼女が今日は妙に女の子っぽく感じる。

 いや実際に女の子なんだけどさ。

「山田君」
「ん?」
「山田くん……」

 白石さんはコーヒーの入ったカップをテーブルに置いて、身体を寄せてくる。横で、寄りからは少し正面を向いてだ。
 シャツの胸元から鎖骨が見えそうだし肩もかなり露出している。谷間も見えている。
 男性陣なら思わずガン見してしまうであろう危険な魅力だ。

「な、何?」

 顔を近づけてくる白石さん。長い睫毛が震えている。唇の赤みが鮮やかに映える。
 なんだかいい匂いがしてきて鼻孔を刺激する。シャンプーと体臭が混ざった香水のような芳香だ。

 俺は息を呑んだ。

 白石さんの右手が俺の太腿に乗せられる。ひんやりとした指先の感触。
 左手は俺の襟元を掴んでいる。

「こういう時は……どうするべきですか?」

 困惑気味の微笑みがさらに俺の心拍数を上げる。

「ど、どうって……」

「濡れた身体をシャワーで温めて、下着も付けていない恰好で異性の前にいます。この後はどんな展開になるのでしょうか?」

 挑発的な質問と共に身を寄せてくる。シャツ一枚越しに感じる体温と柔らかさ。
 もう無理だ……我慢できないかもしれない……!
 心臓の鼓動が耳元で鳴り響く。

 その時、スマホが震えた。
 画面には"佐藤千春"の文字。着信だ。

 タイミング悪すぎる!いや良すぎる!
 白石さんも俺のスマホ画面に気づいたようだ。
 しばし無言の攻防が続いた後、白石さんは深く溜め息をつくと身体を離した。

「またの機会にしましょう」

 安堵と後悔の入り混じる複雑な心境だった。
 千春からの電話に出てみると不機嫌そうな声が聞こえる。

 その後、服が乾燥したころには雨も上がっていた。

「また、学園で」

 玄関先で振り返る白石さんは、さっきまでの大胆さを微塵も感じさせない冷涼な雰囲気を取り戻していた。

「う、うん……また……」

 ガチャリと閉まるドアの音と共に嵐のような訪問が終わった。

 雨上がりの夜空には雲間から星が顔を出していた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた

里奈使徒
キャラ文芸
 白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。  財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。  計画は完璧に成功し、絶世の美女は彼を慕うようになる。  しかし、彼女の愛情が深くなるほど、翔太の罪悪感も膨らんでいく。  これは愛なのか、それとも支配なのか?  偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?  マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。 「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。