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第8話:山奥の温泉宿
九月に入ったある日。
「今週末は温泉旅行に行くわよ!」
突然ひかりが宣言したのは昼食時だった。
健太は箸を持つ手を止めて呆然と彼女を見た。
「……は?」
「だから温泉よ。ツテで取れたの。とってもいい感じの旅館」
「待て待て待て! どこの旅館だよ!?」
「山梨県の奥深くにある秘湯の老舗旅館よ。雰囲気が最高だって評判なの」
「山梨……遠いじゃないか」
「いいから付き合って。それにほら」
ひかりは隣に座るメイドたちに視線を向けた。
「この人たちも気分転換が必要じゃない?」
「…………」
琴葉が僅かに目を伏せた。
「一泊二日でいいでしょ? 月曜日は互いに授業がない日だし」
「……わかったよ」
結局押し切られる形で決行されることになった。
旅程は次の金曜日の夜に車で出発し、土曜日に一日滞在して日曜日に帰るというものだ。
移動手段はもちろん例によって黒塁リムジンだ。
■
金曜日の夜――
リムジンは首都高を抜け中央自動車道をひた走っていた。
「温泉楽しみだな~♪」
真帆が窓の外を眺めながらはしゃいでいる。普段よりテンションが高いのはむしろ疲れが溜まっていたせいだろうか。
それに対し琴葉は静かに資料を読んでいる。
「……何読んでるの?」
「今回の宿泊費概算表です」
「……いくらなの?」
「一泊三十万円」
「……っ!?」
健太は自分の鼓膜が裏返る音を聞いた気がした。
「ちょ! それ個人旅行のレベル越えてるだろ!?」
「国賓クラスの待遇なので妥当な価格です」
「国賓って……誰が国の重鎮だよ」
というか、そうなってくるとひかりのツテも相当なものだ。
■
到着したのは辺りが闇に包まれ始めた頃だった。
山深い峡谷の中に佇むその旅館はまるで時代劇に出てきそうな趣を醸し出していた。
「素敵ですわ……」
静香がため息混じりに呟く。
門構えだけで格式の高さがわかる。松林に囲まれた敷地の奥に木造5階建ての建物が威容を誇っていた。
「いらっしゃいませ」
玄関先で待ち受けていたのは女将だった。丁寧な挨拶とともに一行を案内する。
通されたのは最上階の特別室「雪月花」。
和モダンを基調とした開放感あふれる空間で欄間には精緻な彫刻が施されていた。
「おお……」
思わず健太も感嘆の声を漏らす。
窓から見下ろす渓谷の夜景が美しく、ライトアップされた川面がキラキラと輝いている。
「まずはお荷物を置かれましてから露天風呂へどうぞ」
女将の案内で一同は各々の部屋へ向かった。
「……これホントに一泊で三十万なの?」
「はい」
琴葉が淡々と頷く。
■
準備を整えて向かったのは男女それぞれの露天風呂だった――はずだったが……
「ご主人様! お背中お流しします!」
湯煙の向こうから真帆の声が聞こえてきた。
「ちょ! 何してんの!?」
「サービスの一環です」
琴葉まで登場してくるとは。
「女湯はあっちでしょ!?」
「私たちはメイドですから性別に関係なくご奉仕いたします」
「いや関係あるわ!」
■
夕食は広間で和食会席スタイルだった。
漆器に盛られた旬の食材が芸術的に並べられている。
「これはサーモンの炙り焼きですわ」
静香が上品に箸を進める横でひかりがワイングラスを傾けている。
「ねえ健太。明日の朝は山登りしない? この近くに絶景スポットがあるの」
「ええ……そんな体力ないって」
「体力つけなきゃダメよ。将来のために」
「将来って……」
■
そして夜――
健太が寝室の布団で横になっていると襖がそっと開いた。
「失礼します」
現れたのは浴衣姿の琴葉だった。長い髪を片側に流しており普段よりも妖艶な雰囲気を纏っている。
「……どうしたの?」
「夜伽の時間です」
「いやいや!?」
「冗談です」
冗談じゃねえよ! と叫びそうになる口を抑える。
ここで大声を出すと周囲に迷惑がかかりかねない。
「……何の用?」
「単純に眠れないだけです」
「そう……」
珍しく素直な答えに健太は意外さを感じた。いつも完璧主義者の琴葉でもこういった不安定な時期はあるのだろう。
「というわけで一緒に寝ましょうか」
「は!?」
「冗談です」
「お前もう帰れ!!」
「今週末は温泉旅行に行くわよ!」
突然ひかりが宣言したのは昼食時だった。
健太は箸を持つ手を止めて呆然と彼女を見た。
「……は?」
「だから温泉よ。ツテで取れたの。とってもいい感じの旅館」
「待て待て待て! どこの旅館だよ!?」
「山梨県の奥深くにある秘湯の老舗旅館よ。雰囲気が最高だって評判なの」
「山梨……遠いじゃないか」
「いいから付き合って。それにほら」
ひかりは隣に座るメイドたちに視線を向けた。
「この人たちも気分転換が必要じゃない?」
「…………」
琴葉が僅かに目を伏せた。
「一泊二日でいいでしょ? 月曜日は互いに授業がない日だし」
「……わかったよ」
結局押し切られる形で決行されることになった。
旅程は次の金曜日の夜に車で出発し、土曜日に一日滞在して日曜日に帰るというものだ。
移動手段はもちろん例によって黒塁リムジンだ。
■
金曜日の夜――
リムジンは首都高を抜け中央自動車道をひた走っていた。
「温泉楽しみだな~♪」
真帆が窓の外を眺めながらはしゃいでいる。普段よりテンションが高いのはむしろ疲れが溜まっていたせいだろうか。
それに対し琴葉は静かに資料を読んでいる。
「……何読んでるの?」
「今回の宿泊費概算表です」
「……いくらなの?」
「一泊三十万円」
「……っ!?」
健太は自分の鼓膜が裏返る音を聞いた気がした。
「ちょ! それ個人旅行のレベル越えてるだろ!?」
「国賓クラスの待遇なので妥当な価格です」
「国賓って……誰が国の重鎮だよ」
というか、そうなってくるとひかりのツテも相当なものだ。
■
到着したのは辺りが闇に包まれ始めた頃だった。
山深い峡谷の中に佇むその旅館はまるで時代劇に出てきそうな趣を醸し出していた。
「素敵ですわ……」
静香がため息混じりに呟く。
門構えだけで格式の高さがわかる。松林に囲まれた敷地の奥に木造5階建ての建物が威容を誇っていた。
「いらっしゃいませ」
玄関先で待ち受けていたのは女将だった。丁寧な挨拶とともに一行を案内する。
通されたのは最上階の特別室「雪月花」。
和モダンを基調とした開放感あふれる空間で欄間には精緻な彫刻が施されていた。
「おお……」
思わず健太も感嘆の声を漏らす。
窓から見下ろす渓谷の夜景が美しく、ライトアップされた川面がキラキラと輝いている。
「まずはお荷物を置かれましてから露天風呂へどうぞ」
女将の案内で一同は各々の部屋へ向かった。
「……これホントに一泊で三十万なの?」
「はい」
琴葉が淡々と頷く。
■
準備を整えて向かったのは男女それぞれの露天風呂だった――はずだったが……
「ご主人様! お背中お流しします!」
湯煙の向こうから真帆の声が聞こえてきた。
「ちょ! 何してんの!?」
「サービスの一環です」
琴葉まで登場してくるとは。
「女湯はあっちでしょ!?」
「私たちはメイドですから性別に関係なくご奉仕いたします」
「いや関係あるわ!」
■
夕食は広間で和食会席スタイルだった。
漆器に盛られた旬の食材が芸術的に並べられている。
「これはサーモンの炙り焼きですわ」
静香が上品に箸を進める横でひかりがワイングラスを傾けている。
「ねえ健太。明日の朝は山登りしない? この近くに絶景スポットがあるの」
「ええ……そんな体力ないって」
「体力つけなきゃダメよ。将来のために」
「将来って……」
■
そして夜――
健太が寝室の布団で横になっていると襖がそっと開いた。
「失礼します」
現れたのは浴衣姿の琴葉だった。長い髪を片側に流しており普段よりも妖艶な雰囲気を纏っている。
「……どうしたの?」
「夜伽の時間です」
「いやいや!?」
「冗談です」
冗談じゃねえよ! と叫びそうになる口を抑える。
ここで大声を出すと周囲に迷惑がかかりかねない。
「……何の用?」
「単純に眠れないだけです」
「そう……」
珍しく素直な答えに健太は意外さを感じた。いつも完璧主義者の琴葉でもこういった不安定な時期はあるのだろう。
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