BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

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DLC 前日譚

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グラグラと揺れるような頭に走る衝撃と、違和感。

何が起きたかも分からず、瞼を開けてみると目に映り込んだのはシンプルなトーンで統一された家具。
ふわりと甘く漂う香水の香り。

そこは一時俺の住まいとなっていた、あの部屋だった。


「……マジか。」


このゲームから離れて丸一年、俺は意図せず“モブ(俺)”の世界へと迷い込んでしまったのだった。


******


俺は取り敢えず一通り部屋の中を見て回った。

名残惜しく思いながら去ったあの日から全く変わりなく、埃の一つもなかった。
冷蔵庫の中には、最後に買った牛乳まで残っていた。

香ってみたが、中身に特に腐っているという事なく、普通の牛乳のようだった。
…もちろん秒で捨てたからね!!


状況から判断すると、綺麗なまま保たれていたってよりは、この部屋の時間が止まっていたの方が近いかもしれないな。


「リアルの家もこんな感じで時間が止まっちゃえば、掃除の必要もなくてめっちゃ楽なのになぁ~!」


呑気にそんなことをぼやきながら、再び目覚めたあたりまで戻る。

さっきはゲームの世界に戻ってきてしまった事に気を取られ過ぎていて全然気が付かなかったけど、1年前とてもお世話になったパソコンが相変わらずの存在感で鎮座していた。

キーボードを少し弄ってみると、起動音と共に、セットアップの画面が表示される。
俺はやった覚えはないけど、あの日を最後にシャットダウンされてたみたいだ。

明るくなった画面には、あの時と同じスタート画面が表示されていた。


「今回も何かしらのミッションをクリアしなきゃって事なのかな…もうお腹いっぱいなんだけど…」


今回は前回とは違い、この世界がゲームの中だということもわかるし、このパソコンが帰るためのキーになっていることも知っている。

さらに、このカードを渡された時に“1週間”という納期を言い渡されていたし、それまでにクリアしなければいけないことがある事もわかる。

…でも


「肝心なミッションが分からないんだよなぁ!!」


俺は、ゴロリと寝転がりながら両手をバタつかせる。


(クリア条件不明とか、暴れないとやってらんねぇぜ!!)


何を隠そう、今回はDLCがどういうストーリーなのかすら情報がないんだ。
今がどういう設定で、俺がどんな立場なのかも分からない。

何かヒントはないかとパソコンを弄り始めた俺の目に、見慣れないものが飛び込んでくる。


「“gacha!”と、“移動マップ”…なんだこれ?」


前回まではレポートや、アーカイブの閲覧などの機能しかなかったはずだが、今回はポップなイラストのアイコンがデスクトップに表示されていた。

“gacha!”と書いてあるアイコンには、ゲームセンターなどでみるあのカプセルトイのイラストが書かれている。
最近のアプリでよく見るあの機能のようだ。


「これ、推しのいるオタクたちが課金しまくって阿鼻叫喚するやつだよな…」


俺はアプリゲームには手を出していないから、その感覚は味わったことがない。
お金は無限に溶けていくというし、味わいたくないものの一つでもある。

その地獄を、怖いもの見たさで覗きたい…と好奇心がかなり刺激されたが、まずは一通り見てみようと、もうひとつの“移動マップ”アイコンをクリックしてみた。

すると、表示されたのは街の地図っぽいものだった。
各所にピクトグラムが表示されており、何かのアバターのようなものも表示されている。

マップ上に主張強めに表示されているアバターを発見し、よくよく見てみると…


「これ、俺のアバター…?」


髪型や顔つきがなんとなく自分に似ているアバターを見つけた。
これといって特徴がないアバターだが、それがかえって俺らしい気もする。


「ってことは、これはこの街のマップなのか…」


ここの土地では2週間ほど生活していたけど、全体像は把握できていなかったからこうして眺めるのも面白いな!

他にも何かあるかなとあたりを散策する気持ちでマップをみていると、俺の家から少し離れた学校あたりで集結しているアバターを見つけた。

そのアバターは、走っていたり本を読んでいたりと自由に動き回っていた。


「これは…主人か!先生と里田もいるっぽいぞ…!!」


(このアバター、皆が何してるのかわかるようになってるんだ!ゲームみたいで楽しいな!!)


いや、この世界がそもそもゲームだから!!とセルフツッコミをいれつつ、動き回るアバターを微笑ましく見ていると、学校にいないアバターに気がついた。


「あ…そっか。先輩達は卒業しちゃったのか。」


前回ここに迷い込んでから、1年は経っている。今は9月らしい。
部屋の時間は止まっていたようだけど、ゲーム世界自体の時間は進んでいたのかもしれない。

帰った時に時間経過としては現実世界と同じくらいだったから、前回3年生だった先輩達がいないことはこれで説明がつく。


「このマップに表示されてすらいないってことは、街を出てっちゃったのかな…」


ということは、DLCにはあの二人は関与してこないんだろうか。
それはちょっと、というか…かなり寂しいな。

何もかもが新し過ぎて、ストーリーがどんな展開になっているのか、まだ想像できない。


「でも、黒木も学校にいな…あれ?家にいる??」


黒木のアバターは、前にお邪魔した黒木家の位置で横たわっていた。

これは…ベッドで寝てる?


「カーッ!!アイツ、サボりかよ~!1年ですっかり不良になっちゃったな!」


黒木のアバターは夢でも見ているかのようにスヤスヤと肩を上下させていた。

…なんかちょっと可愛い。


これで一通りは見れたとページを閉じるが、やはりやるべき事が分からないままだった。


「この“gacha!”ってやつ、引いてみようかな。」


抑えていた好奇心に負け、アイコンをクリックする。

すると表示されたのは、妹から手渡されたカードのイラストと、“初回特典!1回無料!”という謳い文句だった。

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