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DLC本編
文化祭初日②
しおりを挟む「地獄はここにあったのか……」
「何言ってんの、田中君が来たいって言ってたんでしょ」
「まあそりゃあ男子校のメイド喫茶って、どんなもんかは気になるじゃん。だけどさ…」
可愛く飾り付けられた空間に似つかぬ熱気が伝わってくる。
メイド達はテキパキと働いているが、その様は給仕というより鍛錬だ。
メイド喫茶なんて美しい園が、柔道部のやってる出し物だなんて知らなかったんだよ…!!
「オカエリナサッセェー!!」
「うわぁ…運動部丸出しだぁ」
「今にも首を折られそうだね」
「オススメはコーラフロートですッ!」
「メニューは普通だ」
「じゃあコーラフロートとアイスコーヒーで」
「アリアトシャーッス‼︎」
筋骨隆々なメイドさんは、俺たちのオーダーを受けると、風のように立ち去った。
その衣装は安っぽいペラペラな布ではなく、キチンとした厚みのある服で、あまりの気合の入りっぷりに感銘を受けてしまう。
江隅も珍妙なものを見るかのように、あたりを慎重に観察している。
「メイドさんっていうか、謎のSP集団って感じだね」
「全面的に同意するよ」
俺たちは屈強な萌え萌えキュン!を頂戴したのち、来る前に持っていたはずの大切な何かを失って教室を後にした。
(こういうのも醍醐味…なのかな)
「次はここ、バスケ部の屋台!」
「へぇ…結構本格的だね」
「あっ!田中だーっ!」
「おっ、里田着物じゃん~さすが似合う!」
里田は部活の出し物に合わせて、和装をしている。
よくある祭りの屋台の雰囲気で、浴衣っぽい服装だ。
輝く金髪も浴衣に映え、周りの視線を掻っ攫うのには十分すぎるほどの存在感だった。
「この前のキラキラな人だ…やっぱり友達だったんだね」
「ん~?田中のクラスの人?」
「どうも」
江隅は素気なく挨拶を返すと、スッと俺の背後に下がる。
…あれ、あまり関わりたくない感じなのか。
(まあ確かに、モブ顔の俺たちからすると、里田のようなドイケメンは異次元の存在だしね。うんうん)
「里田は今接客担当?」
「そそ。ご案内しま~す!」
里田も江隅から視線を外し、俺の案内をすると申し出てきた。
(折角だしお願いしようかな!)
気を抜くと江隅が教室から出て行ってしまいそうなので、袖をそっと掴み誘導する。
「ッ!」
「江隅、こっち」
「…うん」
まずはこれ!と連れて来られたのはヨーヨー釣りだった。
「実は俺ヨーヨー釣り初めてやるんだよね!これ引っ張り上げればいいんでしょ?」
「そうそう!糸濡らさないように上手くやってね!頑張れ~」
里田の緩い応援を受けながら、糸を垂らして持ち上げる…が、ヨーヨーの重みでプツリと糸は切れてしまった。
「あ~!残念…ていうか到底持ち上がらなさそうだったんだけど」
「俺は成功したよ~!ふふん、練習が必要かもね」
ドヤァと得意げな顔をした里田。
(キィィィ…!正直ヨーヨーはどうでもいい。でも得意げな顔をされると悔しさがッ!)
何をしても大体熟せるという器用さを見せつけられ、悔しさに歯軋りしてしまう。
(お、俺だって練習すれば…!)
と、意気込み新たに釣り糸を掴もうとするが、横から腕をひかれる。
「ほら、コレ」
ズイッと差し出されたのは、ビタミン系の配色が目立つ彩り豊かな球体。
俺が悪戦苦闘していたヨーヨーだった。
「欲しかったんでしょ」
「え、江隅取れたの?!しかもくれるの?!」
「別に…たまたま取れただけ、そんな目で見ないでよ」
プイ、とそっぽを向いてしまった江隅だが、その耳がほんのり色付いているのを見ると照れているらしい。
(俺がヨーヨーを欲しがっていると思って取ってくれたのかな…良い奴!)
しかし、どうやら江隅もこれしきのことは簡単に出来てしまう部類で、事もなげにヨーヨーを寄越してきたのは気に食わない。
「ありがとう、憎い」
「情緒どうなってるの、君」
「え~田中ヨーヨー欲しかったの?!俺のもあげる」
何かを勘違いした里田が俺の手にヨーヨーを握らせてきた。
(いらんッ…けど無下にも出来ない!!)
結局、俺は欲張りな子供みたいに両手でヨーヨーをつきながら屋台を満喫し、次の展示に向かうことになったのだ。
…すれ違う人たちにチラチラと見られて笑われたことは俺の記憶から消そう。
思わぬ事故で両手が塞がってしまった俺は、活気ある人混みの中で、どうにか江隅についていく。
「次はどこに行きたいの?」
「え、次?あ、あぁ美術…っぶ!」
突然走ってきた生徒にぶつかってしまい、結構な強さで舌を噛んだ。
ぶつかってきた生徒は急いでいるようで、俺を振り返りもせずに、すみませ~ん!と声高らかに立ち去っていく。
(誠意!謝罪に誠意が足りないって!!)
「いひゃい…」
「田中君って落ち着きが足りないよね」
「うぅ…」
舌を噛んだ上に、年下に落ち着きについて説かれてしまった…悪い事は重なるって本当だね。
踏んだり蹴ったりで、目を潤ませずにはいられない。
そんな哀れな俺を見かねたのか、江隅が近寄って来た。
その勢いのまま、俺の手から里田に貰ったヨーヨーを奪い取る。
「…僕、場所分からないから教えてよ」
突然のことに驚いて固まっていると、江隅は空いている方の手で俺の手を握る。
「美術部の出し物、見に行くんでしょ」
「あ…うん」
(江隅が俺と手を繋いでいる…?!)
あの、髪を触られるのも嫌がる江隅が自ら…?!?!
衝撃で茫然自失のまま、ふらふらと記憶を辿るように美術室へと歩みを進めた。
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