BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

文字の大きさ
138 / 145
DLC本編

モブ(俺)、見つかりました。

しおりを挟む

えすみ?誰の事だっけ。

知らないはずなのに、口からはスルリとその名前が出て来た。

目の前の生徒は、本当に"えすみ"というらしく、矢継ぎ早に話し始める。


「お前、戻ってきたのか!目の前で消えたあの日から、半年以上も音信不通だったのに」

「音信不通?何を…い、痛ッ!」


(音信不通っていうことはもしかして、知り合いだった?)

俺といえば、目の前の人物のことをすっかり忘れてしまっている。

それがどうしても思い出さないといけない事に思えて、糸を手繰り寄せるように記憶を振り返ると、突然堪え難い頭痛に襲われた。

鈍く響くような痛みに、ついに耐え切れずその場に倒れ込んだ。


「っ、田中?!…全く、心配かけさせやがる」






夢を見ていた気がする。

俺は高校の時のいじめが原因で挫折を経験し、引き篭もるようになった。

なんとか大学は出たが、結局就職も上手くいかずニートになる。

…そんな俺が、ゲームの世界に入り込んで、"皆"と出会う夢だ。


「いや、それも現実だって!!!」


全ての記憶を取り戻した俺は、この世界のあらゆる現象にツッコミを入れながら飛び起きた。


「うわっ!田中が飛び起きた!」

「田中君、身体は平気?頭痛くない?」

「ま~た急に来やがって……もしかして、学園のこと家か何かだと思ってんのか?」

「え、待って待って、あれ…皆いる?」


目を覚ましたら俺は保健室のベッドに横たわっていて、周りには皆が集まっている状態だった。

黒木、主人、里田、江隅、皇先生というキラキラ爆イケメンツが、皆心配そうにこちらを見ているのだ。

(いや、皆って、それはゲームの中だけの話で…。)

そこまで考えが纏まると、手が自然と震え出す。


(…あれ、俺って今、何歳だっけ?)


冷静になれ、漢田中よ。
ここは一度情報を整理しなければ。

今の俺は、大学を4年前に出たただのニート…ではない。
この世界で紛れもなく17歳として生きている。

(じゃあ、このあるはずもない記憶は…何?)


「あー、田中君。混乱してる?
目の前で倒れた君を僕が保健室まで運んでるうちに、ここに居る皆さんに見つかったの。

君が帰ってきた事を喜んでいたから、一緒に目が覚めるのを待ってもらってたんだ。

…ひとまず、お帰り」


「お帰りぃ~!」

「あれ、また制服着てるってことは…編入とか?」

「そのつもり、なんだけど…ね、先生?」


俺は唯一の教員である先生に目線を向けると、深くため息を吐かれた。


「昨月、急にな。まさか本当にお前とは思わなかったが…この唐突さが逆に田中らしいな」


先生が気怠げに話した内容を考えると、今までゲーム内でしてきた事は確かにこの世に反映されている。

(そうだよ、おかしいって!どう考えても、あれは夢じゃなかった。)

今だって、大学生として生きていた時間も鮮明に思い出せる。
そもそも、なんでこんな大事なことを忘れてたんだろう…俺の馬鹿!

そうなると、俺と妹が若返っている時間軸である今が信じられなくなる。
ここがゲームだとしたら、妹と皆が同じ次元に存在している筈がないじゃん。


「…確かめなきゃ」

「あ、おい田中!来て早々帰るの?!」

「ちょっと忘れ物~!!また戻って来る!」



ドタバタと走り続け、新居にUターン。

急いで引っ越しの際に元の家から持ってきた机の引き出しを開けまくる。


「…ない。あのゲームのソフトがない!」


開けた引き出しには紙類しか保管されておらず、ゲームらしきものは見つけられなかった。


「じゃ、じゃあ!パソコンに何かあるかも!」


パソコンを立ち上げてみると、案の定見慣れない"レポート"という名前のフォルダが作られていた。

フォルダを開くと、いくつかのファイルが残されている。


「タイトルは1日目、2日目…これ、あの世界で書いたレポートだ」


探究心に突き動かされるように、ファイルを開封した。


「1日目 転んだで頭を打ったら、ゲームの世界に入っちゃった…俺、こんな馬鹿そうなレポート書いてたのか。園児か!」


でも、それがこのパソコンに入ってるってことは…やっぱりここはゲームの世界なのか?

まだ確信は持てなくて、というか俄には信じられなくて、またデスクトップを弄る。

すると、"マップ"と書かれたアイコンを発見した。


「これ、向こうでも時折見てたやつかな。あのぉ~あれ、アバターがいたヤツ」


アイコンをクリックして開いてみるが、何の変哲もない地図情報が出るだけだ。

しかもちゃんと現在地を指し示しており、地図上には勇都陽亜学園まで存在している。

(これじゃあまるで、ゲームの機能が丸っと使えなくなったみたいな…ハッ!)

ここで、俺はある一つの可能性に辿り着いた。


「もしかして、2つの世界がくっついちゃった…とか?」


いやいやそんなわけ…と思ったが、そう考えると全て辻褄が合う。

これってつまり、高校生に戻って、まだ仲良かった時の妹とも一緒に生活できて、皆にも再会できて…。


「…そんな、そんなのって」


「最ッッッ高じゃん!」


俺は思わず拳を天高く突き上げ、雄叫びを上げた。

(これからまた頑張ればニートさえも卒業することが出来る!いや、せねばならない!)


「そうと決まれば、また登校しなきゃ!」


俺は家に帰ってきた時よりも、数倍は軽くなった足取りで学園までの道のりを急ぐ。


……今度こそ、皆にちゃんと自分の言葉で 「ただいま」と「待っていてくれて、ありがとう」を伝えるために。


しおりを挟む
感想 194

あなたにおすすめの小説

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は未定 ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い ・本格的に嫌われ始めるのは2章から

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

処理中です...