残業リーマンの異世界休暇

はちのす

文字の大きさ
50 / 68
2章 新生活スタート

46 優しさ

しおりを挟む

授業を終えると、気が重くなりながらもとある教室へと向かっていた。

そう、次なる目的地…バールさんの特別授業だ。

(勿論とてもありがたいんだけど、どんな授業になるやら…)

錬金術の研究助手として全く活動できていない事を思い出し、少し胃がキリキリする。

いや、活動はしてるんだが、その内容がな…先生を足蹴にすることくらいな訳だ。

そういえば、錬金術も禁忌の分野と言われているなんて、ダリア先生に聞いて初めて知ったのだ。

その辺りも含め、今日こそ問い詰めてみよう。


そんな事を思いつつ歩みを進めていると、ふと周りの景色に意識が向かった。


校舎の随所に、日本建築とは異なる意匠が凝らされている。

所々にステンドグラスが嵌められていたり、蛍光灯ではなく洋燈が灯されていたり…。
さらにはそのいずれもが、意志を持ったかのようにゆったりと光り揺れていた。


初日に見た彫像だって、その後すれ違うたびに『やぁ!』と声をかけてくるのだ。

動くものと動かないものの判別がつかないから、声をかけられるたびに漏れそうになる。これ秘密な。


「こうして見ると、何もかも違うんだなあ…」

「ほう、何がだ」

「いや、家具とか………バールさん。居たのなら声をかけてくださいよ」

を迎えに出るのは当然のことだろう」


フン!と鼻を鳴らす姿は、気高い黒猫のようで、あの痴態と頭で結びつかない。


「そもそも、家具と魔具の違いは分かるのか。」

「魔具?」

「やはり、持たざる者の世界には無いようだな…まあいい、早速授業を始めよう」


「本日の授業は薬学。これは有事の際に役立つ学問だ。しかと学べ」

「…よろしくお願いします」


予想に反して、バールさんの授業は一切の澱みがない進行をしていた。

途中でなんらかの暴力的な行為が始まるかと思ったが、そんな素振りは一切なく、杞憂だったことが分かる。


「学院外を駆け回っている魔獣がいるだろう。奴らの体組織や、その餌となる植物を活用するのが薬学だ。」

「体組織…まさか、あのギョロロロって鳴く鳥とか、ラビッツとかを屠って使うんでしょうか?」

「ギョロ…あぁ、そうだ。落とし物の爪や毛や羽、薬のランクによっては皮や肉なども使用する」


うわぁ、これぞ異世界…。

現代の薬の精製方法も詳しくないが、さすがに血みどろになるようなものではない事は分かっている。


「そして、一度薬のレシピを知れば、量産することが可能だ。素材さえあればな。」


バールさんはそう言いながら、教卓の上にある草や毛に手を翳す。
ポフッ!っと音を立てて、素材は緑色をした固形物に変わった。

なるほど、ゲームなどにもよくある調合的なシステムなんだろう。

目の前の突飛な状態にも驚かなくなったのは、ここ数日で成長できた証かもしれない。


「とても便利ですね…これが薬学の手法ですか?」

「いや、錬金術だ」

「…は?」


バールさんはなんてことない、と言った表情で続ける。


「先ほどの工程を手作業で地道に行うのが薬学。その工程を錬成として行うのが錬金術だ。」

「それ、禁忌の術とかって聞きましたけど…」

「ああ、魔人はそう言うな…だが、錬金術自体の完成度は高く、ただ捨て置くには惜しいのだ。

原理さえ理解できれば、様々な労力を削減できる訳だが、魔人特有の選民的な思想が成長を阻害している。」


バールさんはそういうと、出来上がった固形物を俺の目の前に翳した。


「これ一つで、剥がれた皮膚組織を再生し、回復力を高める。
それがどれだけ大切なことか、傷を負ってからでなくては分からないんだ」

「バールさん、」

「これは君が持っていてくれ」


細い指を絡ませるように、ペンを握っていた俺の手を開かせる。
空いた隙間に、錬金術で生成された回復薬を握らされた。


「何かあった時に使え。魔力は跳ね返す体質なんだろう?」

「っ、ありがとうございます…」


ここまで来て、ようやくバールさんの真意に気が付いた。
俺が持たざる者と知って、そちらの世界でも生きていけるようにこの知識を与えてくれているんだ。

魔力を必要とせず、持たざる者の力になる錬金術。


「…本当に、ありがとうございます」

「何度も言わなくても、聞こえている」

「ですよね」

「素材の組み合わせは無数だ。薬学には今分かっているだけでも数百のレシピがあるが、それでもまだまだ序の口だろう。」


その探求が私の使命だ。
そう締め括られた授業は、今の自分にとってなくてはならない時間だった。

(もし、帰る術がなく、この世界で生きていくことになったら…)

この生き方は強い後ろ盾になる筈だ。

バールさんに後光が差し始めたと思ったその時、流れるような動作で俺の足元に傅いた。

痛々しい傷が広がる指で、スルリと足首を撫ぜられる。


「さて、授業も済んだことだ。この後は…分かっているよな?」

「…感動を返してくださいよ」
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...