残業リーマンの異世界休暇

はちのす

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2章 新生活スタート

46 優しさ


授業を終えると、気が重くなりながらもとある教室へと向かっていた。

そう、次なる目的地…バールさんの特別授業だ。

(勿論とてもありがたいんだけど、どんな授業になるやら…)

錬金術の研究助手として全く活動できていない事を思い出し、少し胃がキリキリする。

いや、活動はしてるんだが、その内容がな…先生を足蹴にすることくらいな訳だ。

そういえば、錬金術も禁忌の分野と言われているなんて、ダリア先生に聞いて初めて知ったのだ。

その辺りも含め、今日こそ問い詰めてみよう。


そんな事を思いつつ歩みを進めていると、ふと周りの景色に意識が向かった。


校舎の随所に、日本建築とは異なる意匠が凝らされている。

所々にステンドグラスが嵌められていたり、蛍光灯ではなく洋燈が灯されていたり…。
さらにはそのいずれもが、意志を持ったかのようにゆったりと光り揺れていた。


初日に見た彫像だって、その後すれ違うたびに『やぁ!』と声をかけてくるのだ。

動くものと動かないものの判別がつかないから、声をかけられるたびに漏れそうになる。これ秘密な。


「こうして見ると、何もかも違うんだなあ…」

「ほう、何がだ」

「いや、家具とか………バールさん。居たのなら声をかけてくださいよ」

を迎えに出るのは当然のことだろう」


フン!と鼻を鳴らす姿は、気高い黒猫のようで、あの痴態と頭で結びつかない。


「そもそも、家具と魔具の違いは分かるのか。」

「魔具?」

「やはり、持たざる者の世界には無いようだな…まあいい、早速授業を始めよう」


「本日の授業は薬学。これは有事の際に役立つ学問だ。しかと学べ」

「…よろしくお願いします」


予想に反して、バールさんの授業は一切の澱みがない進行をしていた。

途中でなんらかの暴力的な行為が始まるかと思ったが、そんな素振りは一切なく、杞憂だったことが分かる。


「学院外を駆け回っている魔獣がいるだろう。奴らの体組織や、その餌となる植物を活用するのが薬学だ。」

「体組織…まさか、あのギョロロロって鳴く鳥とか、ラビッツとかを屠って使うんでしょうか?」

「ギョロ…あぁ、そうだ。落とし物の爪や毛や羽、薬のランクによっては皮や肉なども使用する」


うわぁ、これぞ異世界…。

現代の薬の精製方法も詳しくないが、さすがに血みどろになるようなものではない事は分かっている。


「そして、一度薬のレシピを知れば、量産することが可能だ。素材さえあればな。」


バールさんはそう言いながら、教卓の上にある草や毛に手を翳す。
ポフッ!っと音を立てて、素材は緑色をした固形物に変わった。

なるほど、ゲームなどにもよくある調合的なシステムなんだろう。

目の前の突飛な状態にも驚かなくなったのは、ここ数日で成長できた証かもしれない。


「とても便利ですね…これが薬学の手法ですか?」

「いや、錬金術だ」

「…は?」


バールさんはなんてことない、と言った表情で続ける。


「先ほどの工程を手作業で地道に行うのが薬学。その工程を錬成として行うのが錬金術だ。」

「それ、禁忌の術とかって聞きましたけど…」

「ああ、魔人はそう言うな…だが、錬金術自体の完成度は高く、ただ捨て置くには惜しいのだ。

原理さえ理解できれば、様々な労力を削減できる訳だが、魔人特有の選民的な思想が成長を阻害している。」


バールさんはそういうと、出来上がった固形物を俺の目の前に翳した。


「これ一つで、剥がれた皮膚組織を再生し、回復力を高める。
それがどれだけ大切なことか、傷を負ってからでなくては分からないんだ」

「バールさん、」

「これは君が持っていてくれ」


細い指を絡ませるように、ペンを握っていた俺の手を開かせる。
空いた隙間に、錬金術で生成された回復薬を握らされた。


「何かあった時に使え。魔力は跳ね返す体質なんだろう?」

「っ、ありがとうございます…」


ここまで来て、ようやくバールさんの真意に気が付いた。
俺が持たざる者と知って、そちらの世界でも生きていけるようにこの知識を与えてくれているんだ。

魔力を必要とせず、持たざる者の力になる錬金術。


「…本当に、ありがとうございます」

「何度も言わなくても、聞こえている」

「ですよね」

「素材の組み合わせは無数だ。薬学には今分かっているだけでも数百のレシピがあるが、それでもまだまだ序の口だろう。」


その探求が私の使命だ。
そう締め括られた授業は、今の自分にとってなくてはならない時間だった。

(もし、帰る術がなく、この世界で生きていくことになったら…)

この生き方は強い後ろ盾になる筈だ。

バールさんに後光が差し始めたと思ったその時、流れるような動作で俺の足元に傅いた。

痛々しい傷が広がる指で、スルリと足首を撫ぜられる。


「さて、授業も済んだことだ。この後は…分かっているよな?」

「…感動を返してくださいよ」
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