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はちのす

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九死に二生

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「店長!このフライパン、新しい物を買った方がいいですよって、1ヶ月くらい言ってる気がするんですけど!」

「ん?ああ、なんだか愛着が湧いちゃってなぁ…手放すのが惜しいんだよ」

「もう、そんなこと言ってたら、いつまで経っても持ち手の部分グラついたままなんですけど!!」


ああ、あの時は、結局俺が折れて、持ち手の部分を修理して使い続けたんだっけな。


「ユウト、お前いつまでウチにいるつもりなんだ。他の仕事探したほうがいいんじゃないか?」

「嫌だよ、俺が店長と一緒に仕事したいんだから」

「…はぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけどなぁ、お前も嫁さんとか……」

「考えてませーーーん」


俺は店長と一緒に過ごす時間が楽しくて、愛おしくて、手放せなかった。
だから、この時は俺が譲らずに最期まで貫き通したんだ。

俺たちはきっと友人でもあり、家族だった。

そんな、一言では言い表せない関係がきっとあったはずなんだ。
……あの日までは。

俺は暗闇を一歩ずつ進んでいく。
サラサラと冷たい感触が足にあたり、目を凝らしてみると、それは川のように流れ、過ぎ去っていった。

前方で光が溢れたと思ったら、そこに店長が佇んでいた。
相変わらず優しい笑顔でこちらを見ている。


「っ店長!!」


俺が駆け寄ろうとすると、店長は手を前に掲げて制した。

文字通り、体が動かなくなったんだ。


「て、んちょう…なんで?!」


俺もそっちに行かせてくれよ、なんで意地悪するの。店長と一緒に居たいんだ。
溢れる涙がとめどなく頬を伝い落ちて行く。

俺の必死な訴えにも動じることはなく、店長は無音のまま、口だけを動かした。


『いきろよ』


その言葉を最後に、再び視界から光が失われていった。


******


ピッ ピッ ピッ……


「ッ何故だ、何故発症しない!!」


鼓膜をビリビリと震わす怒号で目を覚ました。間違いなく、あのスーツの男だろう。

というか、俺……


「い、きて……る?」


店長と俺が合間見えたのは、多分三途の川的なやつだった。
だからこそ死んだと思ったのだが、何の因果か、まだ生きながらえているみたいだ。

動いてみようと試してみたが、全身が熱くて、重くて……指先ですらも動かすことが出来ない。
でも何故か、頭だけは十分に動いた。

いつの間にか着けられていた目隠しは外され、視界もきっちり確保できている。

俺の微かな呻き声を聞き取ったのか、男はバッとこちらを向いた。
視線が合わさり、初めて男の顔をきちんと認識することができた。

耳にかからない程度にカットされた髪をオールバックにしている人相の悪い男は、その驚愕と焦燥を隠しもせず俺にぶつけてくる。


「ッ君、喋れるのか」

「おかげ、さま……で」


俺はここにきて、初めて言葉を発することが出来た。

するりと出て来たそれが皮肉めいた言葉だったのは、発言した当事者である俺も驚いているところだ。
一度臨死体験をしたからなのか、俺のハートはひとまわりもふた回りも強くなっているのを感じる。


「何故だ、ウィルスの投与は問題なく行われたはずなのに」


さっきのスーツの男に注射されたであろう液体、今の男の口ぶりからすると、きっとなにかの変異を引き起こすウィルスだ。

なにか、なんて今の世界の状況から考えるに、答えは一つしかないんだけど。


「発熱はあるが、発症は認められない……まさか」


俺の皮肉なんて聞こえていないかのように、男は俺の血を採ると、さっさと別の部屋に消えていった。
男が消えたことで緊張の糸が切れた俺は、目だけを動かして周りを観察し始めた。

俺が寝ているベッドの他は、机と椅子しかない簡素な部屋で、俺に接続されている医療器具のようなものだけが唯一異彩を放っている。


(さっきから煩い機械音がするのは、これのせいか)


俺の命を繋ぎとめようとしているのか、それとも真逆の機能を果たしているのか。
その方面に明るくないけれど、健常な人間につけるものではないことは分かる。


(夢で、会えたなぁ……店長)


俺はこんな状況なのに、口元が緩むのを止められなかった。
スピリチュアル的な話は全く信じていないんだけど、それであっても、店長が俺を助けてくれたと思ってしまいそうだ。

一人で幸せな気分に浸っていると、大きめの足音が聞こえてくる。

……ああ、あいつが帰ってきた。


「……君、名前は何だ」

「教えるわけ、ないだろ」

「ユウトか」


突然呼ばれた名前に、俺が驚いて視線をやると、男の手にはヒーロー服が。
俺に向けて、服の裏側を見せるようにユラリと揺らした。


「刺繍がしてあった」


マニアックさん、仕事が丁寧だな…なんて思いつつ俺は男を無視するように天井を見つめていた。


「ユウト、気付いてるだろうが、お前に投与したのはゾンビウィルスだ」

「……」

「実戦に投下されてるならユウトも知っているだろうが、これは俺の生み出したウィルスだ」

「…え?」


俺は、突然の告白に耳を疑った。

え、このオールバックの人、研究者だったのか。あまりの人相の悪さと筋肉質な身体つきで、アウトローな肉体派なのかと勝手に想像していた。

俺が少しズレた衝撃を受けていることなんて知る由もない男は、微かに驚きの表情をしていた。


「なんだ、知らなかったのか。……本当にビジランテの人間なのか?」


男は俺のヒーロー服を椅子にかけると、俺の寝るベッドに腰掛けてくる。
俺に打ったと思われるシリンジを手で遊ばせながら、どこか遠くを見るように壁を見ながら独白を始めた。


「ユウトの身体が適合したのは、新しく作り出したウィルスで、前回のウィルスよりも即効性、感染力の面で強化したはずのものだった。今回が初の対人試験投与だったが……まあ、今となっては役に立たないゴミだ」


「適合、って」


「ユウトの身体が、何かの理由でゾンビウィルスに打ち勝ったんだ。全く、信じられない」


打ち勝った、その言葉を聞いた俺は今度こそ生の実感が湧いてくる。
俺は昔から身体が強かったんだ、そのおかげでバイトも5年間無遅刻無欠勤だったからな。

俺が顔つきもおぼろげになった天国の両親に感謝していると、男が俺の心臓のあたりに指を這わせてくる。
認識したくなかったから考えないようにしていたが、俺は今ヒーロー服も下着も剥ぎ取られ、完全な全裸なんだ。

胸のあたりを擽られるような感覚に、腹筋が跳ねた。


「っひ、」

「だが、この身体さえあれば、このウィルスを完全な存在に昇華出来るはずだ。つくづく良い拾い物をしたな」

「な、んでそんなこと」

「……動機の話か?まあ、簡単なことだ。
人間にほとほと嫌気がさしていたからだよ。社会的動物と言いつつも、子供一人だって助けられないような歪んだ人間にな」


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