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BA、聖女召喚の儀式に巻き込まれる
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◇◆◇◆◇◆◇◆
使用人用の食堂で、ミレーは約2週間ぶりの再会を果たしていた。
「ミレー、見ないうちに痩せたかい?」
「全然、痩せてなんかないですよー」
食堂で使用人用に料理を作るラミーは、メイド達の母代わりとして“ラミー婆”と慕われていた。
ミレーは今居るメイド達の中でも古株で、勤めて8年近くになる。
新人の頃、いつも泣いていた彼女にラミーは特製のスープを作ってあげる程、世話を焼いていたのだ。
「そうかい?
顔がシュッとした気がするんだがねー。
ちゃんと食べれてたのかい?」
「もちろんです。
実家でモリモリ食べましたよ~。
たぶん、トキトゥ様のおかげです」
訝し気に見ながらも、こんもり盛られた皿をミレーのトレーにドンと置き、自らはエプロンを脱いだ。
「ちょっと! 悪いけど誰か代わっとくれー!」
ラミーの大きな声に、見習いの調理場担当が走って来る。
その様子を見て、ミレーは「つかまってしまった」と、苦笑を浮かべた。
「ほれ、さっさと席に座って食べるよ、ミレー」
「はいはい、分かってます」
根掘り葉掘り聞かれる事を思い、ミレーの足取りは重たげだ。
「ーーで。どういうわけなんだい。
アンタが急にクビにされたと聞いた時、どれだけ驚いたか。
それも別れの挨拶をする間もなくだろう?」
「あはは」
「あたしゃ心配で心配で!
かと思ったら、また突然戻って来て!
いったいどうなってるんだい?
クビってのは嘘で、ただの休暇だったのかい?」
「色々あったんですよ。
それに、平民出身の私が長期で休暇なんてもらえるわけがないでしょう?
それが出来るのは、管理職か侍女様だけです」
「まーそうさな。
じゃあアンタ程しっかりした子が、何をやらかしたんだ」
その問いに答えてよいのか、彼女は逡巡した。
第二王子が保護した、異世界の客人を担当しているという事は、周知の事実だ。
しかし、鴇藤が生死を彷徨った一件は、ごく一部の者達にしか知らされていない。
当然、噂は隠し切れない為、メイド達の中では広まっていた。だとすれば頑なに隠す必要もないのだが、当事者である自分が肯定すれば、事実と認める事になってしまう。
彼女が、入れ替わりの激しい王宮のメイドとして長年勤められたのは、偏にこの慎重さがあったからに他ならない。
「お許しは頂けたので、もう大丈夫です。
すみません、心配をおかけして」
「はー。いや、いい。だいたいの事は他の子から聞いてるからね。
でも良かったよ、本当に」
「ありがとうございます。
全てトキトゥ様のおかげなんです!
だから、専属になれるかは分からないですけど……」
いちメイドにしか過ぎない自分を助けてくれた異世界の男性。
たった1日しか世話をしていない自分を。
鴇藤の事を思い浮かべ、ミレーは優しく微笑んだ。
「ーーなるほどねえ。アンタにもやっと春が来たのかい」
「ええっ? ち、違いますよー!」
「ハッハッハ! いいじゃないか!
そんで、今朝はそのトキトゥ様が何をしてくれたんだい?」
よほど愉快なのか豪快に笑うラミーを、彼女は恨めしそうに睨みつける。
「もうっ。
ハァ、嬉し泣きで目が腫れちゃったんです。そしたら、トキトゥ様が手ずからマッサージやお化粧を施して下さったんですっ!」
「はっ? アンタにかい?
王宮に住まう様なお方がかい?」
予想外の返答に、ラミーは目を白黒させている。
それは、その場で聞き耳を立てていたメイド達も同じだった。
彼女等は、泣き腫らしたはずのミレーが何事もなかった様に、むしろ顔立ちの良さが際立ったとさえ思える姿を見て、興味津々だったのである。
「そうです。それはもう、魔法の様な手で! とぉ~っても、気持ち良かったんですぅ」
鴇藤の施術を思い出し、破顔するミレーに、周囲の者はかなり引き気味でいる。
「アンタ、頭がおかしくなったのかい?」
「本当なんですよ! 疑うなら、メルンに聞いて下さい。彼女も給仕係として居合わせましたから」
「あー、あの男爵家の子か」
「ええ。この調子でいけば、いずれ侍女に上がれるかもしれません」
「おや、ずいぶんと買ってるんだねえ」
「とても良い子ですから」
「そうかい。ミレーも貴族だったら、今頃中級くらいの侍女にはなれたかもしれないのに。残念だよ」
「生まれはどうにもなりませんから。
それに、侍女になっていたら、トキトゥ様と出会えませんでした」
「ハッハ! そりゃそうだ!
まあ安心したよ。会ってみたいもんだ、そのトキトゥ様に」
ミレーは気づかなかった。
この食堂での自分の発言のせいで、鴇藤の専属希望が増え、メイド達の中でひと騒動起きる事をーーーー。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「まずは簡単に属性の説明をします」
異世界モノの代名詞である魔法の授業に、鴇藤の瞳は輝いていた。
「最もポピュラーな属性は、火・風・水・土の4つです。
次に氷・緑・光と続きます。これ等はより専門的と言えます。
最後に闇・聖属性と言うのもありますが、他に比べて保有者が少ない為、あまり解明されていません。
ちなみに、聖女様は聖属性です」
「へー。たくさんあるんですね。
何種類も使えるんですか?
火と水の2属性持ちの人が居るって聞いたんですが」
「2属性持ちは結構居ますよ。発現には遺伝が関係するので、平民では稀ですが」
「(遺伝って…だから俺の属性は分からないのか? 親は普通の地球人だし)」
「3属性持ちは有望ですね。勿論、マナ量にもよりますが、まず仕事には困らないでしょう。4属性はかなり珍しいです。国からスカウトされます。
それ以上は滅多にお目にかかれません」
滅多にかかれないと言う事は、居ると言う事。
俗に言うチートタイプかと鴇藤は勝手に納得していた。
彼が爺さん呼ばわりしている、魔術師団団長ウイリアムが6属性持ちの人物である事を知り、猛反省するのは、その数秒後であった。
「あ、属性鑑定受けたら教えて下さい。
異世界の人間が我々と同じなのか、とても興味があります!
いつでもご連絡下さいっ!はぁはぁっ」
「…まじか」
何事もなく授業は進んだが、講師の去り際の言葉にドン引きした彼は、冷めた顔で見学する宰相に目を向ける。
しかし、スッと宰相が視線を逸らした為、鴇藤の中で“楽しみな授業No.1”から、“憂鬱な授業No.1”に格下げされた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ーーコンコン
「入れ」
「失礼致します」
ベイリー王子に与えられた執務室にやって来たのは、執事長のダルマンだった。
「どうした」
「はい。トキトゥ様の世話係の事で、少し問題が」
「レンの?」
書類に視線を落としながら、話を聞いていたベイリーは、鴇藤の名前に顔を上げて執事長を見た。
「はい。殿下に命じられた通り、貴族出身の優秀なメイドを集め、相性を見ていたのですが、その…」
「なんだ。まさか家の者から抗議があったのか?」
仮とは言え、自分が保護下に置いた者に対する不穏な動きを見逃すつもりはなかった。
秘密裏に警護も付け、報告をさせていたはずなのに何故だ、という疑問が彼の頭を巡る。
「いいえっ、その様な事はっ!
(先の一件でも感じたが、殿下のこのこだわり様。トキトゥ様は保護下と言うより庇護下に近い存在なのだろうか)」
「では何だ」
苛立ちを隠しもしないベイリーの様子に、ダルマンは萎縮しながら答えた。
「実は、希望が殺到しておりまして」
「は? ……それは、良い事だろう。何が問題なんだ」
想定外の答えに、ベイリーは困惑した。
陛下の信頼も厚い執事長が何故困るのか、彼には理解出来なかったからだ。
「担当した貴族出身のメイドは勿論、対面したはずのない、中級メイドまで希望しております。
それならば、予定通り選べば良いだけでした。
それがまさか、侍女達から希望が来るとは思わず…」
「侍女が?
だが、レンは男だ。
そもそも王宮にフリーの侍女なんかいないはずだ。侍女見習いか?」
王国において、侍女とメイドは差別化がしっかりなされている。
メイドが各担当に分かれて、王宮内の全ての雑務を任されているのに対し、侍女は高貴な女性の世話をする為だけに雇われている。
雑事はメイドが担当し、基本的には話し相手や秘書の様な役割に近い。
侍女自身も貴族令嬢や夫人である為、宮内での立ち位置は格段に高いのだ。
王妃や側室達の侍女は侯爵夫人や伯爵夫人も居り、執事長には難しい問題だった。
「侍女見習いもそうなのですが、フランシア様の侍女が担当したいと」
「フランシア王女のところか。なるほど、それは困ったね」
「どう致しましょうか」
「しばらくは、今のままで行く。
ミレーと言うメイドは固定で良い。
レンが希望したと言えば、侍女も文句は言わないはずだ。
何か言ってきたら、私の名前を出して選考中だと言えば良い」
「承知致しました」
ダルマンが去った後、ベイリーは頭をかかえた。
名前が上がったフランシア王女とは、小国の第三王女であり、支援と引き替えに半ば人質の役割で送られて来た人物だ。
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侯爵令嬢と伯爵令嬢の1人が、完全に見下しており、ぞんざいに扱っていると言う噂があるのだ。
「参ったな。彼女の担当は姉上なのに。
姉上がきちんと侍女を選別しておけば、こんな問題が噂される事もなかっただろう。
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はぁ、何故なんだ。レン。
どこで貴族令嬢に気に入られたんだ」
その日は1日、ベイリーの執務室からため息が聞こえたという。
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