18 / 37
歩き出す、恋心 4
しおりを挟む「……絶対にマズい」
ここ数日の記憶がない。
俺の中に記憶すら残す気ないってことなのか? 作者。
盛大なため息を吐きながら、俺は横を見る。
「……なーにやってんだよ、俺」
自室、
ベッドのそばの時計を見れば、今日は日曜。
時間は夕方五時半を過ぎている。
日付を見たら、今日はバスケの交流試合があって、二時くらいで終わったはずだった。
「一体、なにがどうしてこうなってんだ」
作者よ。
現状を中途半端に把握させるなら、全部把握させてくれ。
それか、まるっきり無責任なくらいに俺の意識を奪ってほしい。
こんな中途半端な状況じゃ、俺の心がそのうち折れそうだし、神田にとって無責任な男というか、無責任な教師になりそうで。
「はあ……」
何度目かわからないため息を吐き、ベッドから出る。
そうして、振り返って。
「……どうすっかな」
呟きを落としつつ、冷蔵庫へと足を向けた。
ペットボトルから炭酸を取り出し、グラスへと。
一気に飲み干した時、寝室から物音がした。
踵を返し、寝室へ。
寝室の入り口で足を止め、壁にもたれかかる。
「目が覚めたか」
「…うん」
自分がしている格好にまだ気づいていない神田が、半身を起こす。
部屋に入って、傍らにあるシャツを放った。
「とりあえず、それ着ておけ」
そういうと、自分がどんな格好をしているのか気づいたようで。
「あっ! や…やだっ! み、みた?」
とか、今更なことをいう。
多分俺は半身どころじゃなく、全身見ているはず。
(俺は見てないけどな)
真っ赤な顔をして、きょろきょろと何かを探しているのをみて。
「あぁ、これか?」
ベッドの下に落ちたんだろうそれを拾ってやったら。
「きゃあっ」
俺の手からものすごい勢いで奪って、布団の中に潜り込んだ。
「出て来いって」
布団をはぎ取ろうとすると、ものすごい抵抗してくる。
「多分、今更だと思うけど?」
ほんと、それ。
きっと今更。
(俺の知らない、今更なこと)
「出ておいで、神田」
出来る限り優しい声色で話しかける。
ややしばらくして、布団から顔だけを出す彼女。
「だって、はずかしいんだもん」
真っ赤な顔して、そう呟く。
「あのな、そういうことするなって」
腰に手を当て、やれやれといった風にそう言ってから続ける。
「これ以上、可愛いって思わせてどうする」
とかなんとか。
(あぁ、もう、諦めるしかないのか? この流れ)
またそのうち記憶がなくなってしまうんだろうか。
「どうするって、どうにかなっちゃうの?」
俺の言葉に対して、すこし不安げに言葉を返す彼女に。
「……さっき貸したシャツ、また脱ぐことになってもいいか?」
とか返している時点で、俺じゃない。
こんな俺でいいのか? 神田。
まだ生徒と教師の間なのに、ヤッたってことだろ?
俺の中じゃ線引きする気満々だったってのに、どういう流れでこうなったんだ。
どこか朦朧としつつ、自分が吐いたんだろう言葉の返事を待つ俺。
「…………あの、ね」
「ん?」
こんな俺に、神田はどこか嬉しそうにはにかんでから。
「明るくしないって約束してくれたら、いいよ」
そういった。
(なーにやってんだ、俺)
恥ずかしい思いをさせたんじゃないのか? もしかして。
(俺の性癖って、どういう設定になってんだろ)
内心ドキドキしながら、自分じゃない自分がお膳立てした未来を待つ。
「また先生が脱がせてくれるの? それとも」
体を包んでいた布団をそっと外し、シャツと下着姿の彼女が俺へと両手を差し出す。
ベッドに右膝をつくと、ギシリとスプリングの軋む音がする。
ここはベッドの上なんだっていうリアル感が一気に増す。
彼女は差し出した両手をそのまま俺の体に巻きつけ、優しく抱きしめてきた。
「……ふふ。先生の匂い、好き」
胸元に顔をすり寄せられた瞬間、ドクンと心臓が強く脈打った。
そのままベッドに彼女を押し倒し。
(そして……そして……)
そこでまた、テレビをブツンと消したように俺の意識は俺じゃない俺のものになっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる