「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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手をのばせば、きっと… 6 ♯ルート:Sf

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――あれから、3年。

多分、あたしがここに来るまではこんな感じだったんだろうなという日々が繰り返されている。

ナーヴは、平常運転。瘴気のことがあってもなくても、いつも通りで研究に忙しい。

ジークとアレクは、王族ということで浄化が終わったら次は後継者としてのあれやこれやで忙しくなった。

カルナークは、あたしから聞いた元いた世界のいろんなレシピで、時々だけど懐かしい料理やお菓子を食べさせてくれる。

瘴気の浄化の永続魔法みたいな仕組みをシファルとナーヴと三人で考えていたのに、一番重要なシファル担当の部分が滞ったまま…まだ完成していない。

もしもまた召喚をしなきゃいけないほどの瘴気が集まってしまうとしても、ゆるやかに集まるのでまた100年後くらいだろう。…過去の記憶でもそうなっていたし。

髪はすっかり真っ黒で、カラコンなんかもう使えないし聖女の役目もなくなったから瞳の色を変える必要もなくなったので黒目だ。

日課のように一番空に近そうな丘に散歩をして、帰ってきて。みんなと食事をして、お風呂に入って、カルナークの水を飲んで。

ベッドにダイブしてから、仰向けになって寝転がる。

最初は慣れなかった天蓋つきのこのベッドにも、すっかり慣れてしまった。小説やマンガの中だけのベッドだと思ってたから、自分が使うようになってみてどこか落ち着かなかったっけな。

「あの狭いベッドが懐かしいな」

こっちで、三年。あたしがいたあの世界では、どれくらいの時間が経っているのかな。時々思い出しては、お兄ちゃんたちに心配をかけていなきゃいいなと、連絡が出来ない状況を切なく思っていた。

「すっかり伸び切っちゃったなぁ、髪。前髪だけはなんとかしてるけど、ハサミってものがないんだもんな。ここ」

ハサミさえあれば、どうにか出来そうな気がするんだけどね。

ぼんやりと思い出す、柊也兄ちゃんに髪を切ってもらった日のことを。

クラスメイトに誘われて浮かれていったお祭りで、ただただ悲しい思いだけをして帰るところだったのを、偶然公園で会った柊也兄ちゃんにお願いして髪を切ってもらった。

髪と一緒にすこしだけ軽くなった心。気分転換っていうのかな。あのタイミングでそれが叶ったのは、きっと悪いことじゃなかったはず。

結局は不登校になったけど、それでも前向きになりながら生きられた気がした。

あれ以降も、時々髪を切りに来てくれたっけ。柊也兄ちゃん。

「ジークに顔がそっくりすぎて、こっち来てからもいない気がゼロじゃないのが救いかも。…性格は違うから、柊也兄ちゃんじゃないんだけど…」

わかりきったことを口にして、ため息をついた。

「どうしてかな。…大切なものばっかり、離れていっちゃう」

高校生になったら、今度こそ頑張って友達を作ろうと意気込んだのは、こっちで活かされた格好になったからまだいいとして。

お兄ちゃん。柊也兄ちゃん。お父さん。お母さん。シファル。

指を折りながらカウントしてて、親をお兄ちゃんたちよりも後にしている自分に気づき、薄情だなと失笑する。

「シファル……」

どこに行ってしまったのかわからなくなった、大好きな人。

今でも…想いは残っている。この胸に。

何も出来なかった後悔だけ、ナーヴとあたしの胸に残ってる。目の前で消えちゃったからね。

消えてしまう前にシファルは、教会の方からの攻撃を受けていた。

あのままだったら、その傷を癒すことも叶わないままいなくなってしまったんだ。

どこへ行ったの? もう、死んじゃったの? そんなのヤダよ。これからのこの国を一緒に見守るって決めたのに。

「一緒に頑張るって、約束したじゃない……」

国王とその側近、そして今は権力をかなり削がれた教会の方から言われた。

三年も経過しましたよね? と、事実だけを。

彼らがどういう意味を持ってその言葉を言ったのか、あたしだってわかってる。

これまでの聖女たちは、浄化が終わった後には王族と添い遂げてきたこともあった。

そうじゃない人もいたとして、国としては王族とつながっていてほしいと願うのでしょ?

ジークもアレクも、あたしの気持ちを優先してその話に関しては一切持ち出してこない。

本当はものすごく急かされているって聞いてるのに、あたしが困らないようにしてくれている。

たとえ、自分たちの立場が悪くなるとしても、あたしの方が優先順位が高いって言ってくれている。

あたしじゃなくても、他の高位貴族とか、高魔力持ちを対象にするから気にするなって。

それでも、気にしないわけにはいかない。

たしかにあたしはこの国を護ったのかもしれないよね。でも、結果的にいえばあたしだってみんなに護られたようなもの。

「恩返しになるのかな…そういうのって。王族との結婚って、そういう始まり方でも…いいの、かな。二人のことは好き……だけど、恋じゃ…ないもん。……それくらいの愛情でも、結婚ってしちゃって…いいもの?」

あたしは19になり、来年には成人だ。元いた世界なら、そういう扱い。いっぱしの大人だよね。

挙手をして、結婚しますと言えばきっと…困った顔をしながらも二人は受け入れてくれる。喜んで…くれるかな。どうだろう。

「結婚……かぁ」

ベッドに寝転がったまま、天蓋へ向けて手を伸ばす。いつも、丘の上で寝転がって空へ向かって手を伸ばすように。

「あっちでは恋愛結婚が普通だったけど、こっちはそればっかりってわけにいかなさそうだもんね。…結婚……お嫁さん……かぁ」

来年成人だっていっても、自分的には結婚なんてまだまだ先と思っていた。現実感が湧かない。

それに、ウエディングドレス姿を見せたい人がそばにいない結婚式なんて、ちっともときめかない。

「……こんな気持ちで、ジークかアレクのお嫁さん…なんて」

じわりと目尻に涙が浮かんで、こぼれて流れていく。

「シファルが…いい、のに……」

伸ばした手の先には、何も触れるものがない。なのに、手を伸ばさずにはいられない。

「幽霊になってもいいから…会いたいよ。…シファ」

愛おしい彼の名を泣きながら呼んだ、その時だった。

「……!! ひな!」

天蓋から出てきたように、あの時と変わらない姿の彼がふわりと浮いてそこにいた。

いなくなった日に着ていた服とは違うけど、出会った時に着ていた服によく似てる。

白いシャツに薄茶のロングジャケット…なのは一緒だけど、下が黒いスラックス。ここでは、白いスラックスだったはず。だいたいが白衣姿だったんだけど、この姿もどこか懐かしい感じだ。

よく見れば、シファルはすこし大きめの肩掛けバッグを手にしている。いなくなった時には持っていなかった物だ。

ゆっくりと降下してきた彼の手が、あたしの手をしっかりつかんで引き寄せてくる。

それに合わせるように体が起き上がり、ベッドの上にL字の格好で座っているあたしの脚の上に。

「…ただいま」

彼がまたがるようにして乗っかり、そのままギュッと抱きしめられる。

(今、何が起きてるの? この人は本当のシファル?)

確かめるように彼の背に腕を回して、手のひらで背中を上下にさすってみる。

(…あたたかい。それにこの匂いは…)

細身の彼の胸元に顔を埋めて、くん…と息を吸い込む。

(……シファルの…匂いだ)

あの頃と変わらない彼の匂いがする。

光に包まれていた彼のまわりから、その光が霧散して消えていく。

シファルがあたしの肩に頭をのせて、グリグリとおでこをこすりつける。

首元へ唇を寄せて、ちゅ…と小さく音をたててキスをされて、思わず首をすくめた。

「くすぐったいよ」

文句のように照れ隠しの言葉を言えば「いいじゃん」と、どこかいたずらっ子みたいな顔をされる。

いなくなる前よりも、すこしだけ…砕けた感じのシファルに安心も不安も混在してしまう。

会えて嬉しいのに、それだけで満たしてしまっていいのか迷う。

この人は、あたしが欲しいと願っていたシファル? と、ためらうあたしが心の中で問いかける。

彼の体との間に腕を割り込ませて、そっと体を離す。

「ひな?」

彼の瞳が不安げに揺れているのが見えるけど、今は先に確かめなきゃダメだと唇を引き結ぶ。

「…あのっ」

口を開きかけたあたしに、シファルが「あ」と何かを思い出したかのように声をあげてから、肩に掛けていたバッグを開く。

「これ…お土産。さすがにもうサシェの効力なくなったかなって思ってさ。……うん、いい香り」

バッグの中から出してきたのが、彼からもらったサシェと似たモノ。

「っていっても、もう…眠れないほどの頭痛とかの原因は無くなって………って、ひな?」

いなくなる前と何も変わらない彼の言葉、行動。懐かしさで胸がいっぱいになって、涙があふれてしまう。

「え? あ…ハンカチ……は、ないな。…っと、袖でごめん」

彼の袖でグイグイと涙が拭かれる。

「泣かしたかったわけじゃないのにな。……心配、かけた…よね?」

「…した」

子どものように泣きながら、かろうじて返事をする。

「ん……多分、いっぱい待たせたんだよね? ひな、いくつになったの?」

「じゅーく…ぐすっ」

「そ……かぁ。三年か。…100年とか経ってたらどうしようって思ってたから…みんながいるうちに戻れて…よかった」

ってシファルは言うし、それもわかるんだけど、わかりたくない。

「長かった…待ったもん…待てなくなるとこだったもん……。誰かと…結婚」

そう呟けば、シファルが強く抱きしめてきた。

「待たせといてアレだけど、嫌だしダメだよ。…ひなは俺の…でしょ?」

なんだろう。戻ってきてからのシファルが、どこか甘くなってる気がする。彼の言葉にドキドキして、抱きしめられたままでコクンとうなずいた。

「…うん。じゃなきゃ、嫌だ。ひなは、俺と」

そういいかけて、シファルが体をすこしだけ離すと両頬に手をあててきた。

まるで包み込むように触れてきた手はあたたかくて、やっぱり目の前の彼はシファルなのかもしれないと思いはじめる。

「ね…、何か他のこと考えてる?」

面白くなさそうに呟く彼に、「違う」と返すと彼の眉間にしわが寄った。

「シファルのことばかり、だよ」

勘違いをさせたくない気持ちで、即答する。

その瞬間、シファルの目が大きく見開いた後で、ふわりといつもの笑みを浮かべた。

「よかった…」

安心したように微笑み、そのまま彼の顔が近づいてきたのに合わせてゆっくりと目を閉じた。

彼の唇の先がふにゅ…と触れたと同時に、バターン! と勢いよく部屋のドアが開かれる。

「シファ!!!!」

城中に響き渡りそうなほどの大声でシファルの名を呼ぶナーヴが、ドアのところに泣きながら立っていた。


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