「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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久遠 4 ♯ルート:Sf

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~シファル視点~


アレクのどこか楽しげな表情にムッとしつつも、その後にもう一つの頼み事についての相談をし、退室。

「さー…て、と。次に行くか…」

アレクのところで結構な時間を費やし、すこしだけ肩が凝ったななんて思いながら首をコキコキ鳴らしつつ廊下を歩いていく。

カルの部屋に今日中に行くことは伝えたけど、すぐに行くとは言っていない。

(カルの部屋に行くのは、どうせなら遅い時間の方がいい。今日の終わりに、アイツが安心して眠れるように…)

なんて、過去には一時抱けなかった感情を、今は素直に認められるようになった。

今回ひなの世界に行ってみて、自分が手にしてきたいろんな知識と能力を、弟のカルにも活かせるものが多い気がしてちゃんと話をしたいと思った。そして、俺が知っている…どこか考えが幼かったカルを成長させられるような気もしている。

俺たちが浄化に関してのメンバーに選ばれたのは、未来を見据えてのことだったんじゃないかと思えるほど偶然にしては出来過ぎたメンバーなんだと、今更だけどそう思えてならない。

本人がこの場にいないから思うけど、シューヤがこうなるように導いたんじゃないかと思える。冗談抜きで。

ひながこっちに来ることになるのも、予め先見していたようだったから、そうなった時にこの場所のためだけじゃなくひなのためにも必要なメンバーを彼の能力で見極めたんじゃないかと。

(……って考えれば考えるだけ、彼の存在がまるで神か何かのような感じになってしまうな)

ひなが育った世界で、いつまでも繰り返される時間を過ごしていれば本来ならば気が狂ってしまってもおかしくないはずなのに、彼は自らその時間を過ごし続けている。

ひながいつ戻ってきても離れていた時間なんかなかったかのように、きっと彼はいつものようにひなに言うんだろう。

『おかえり、ひな』

って。

彼がしていることを自分に置き換えてみるけれど、何度考えてみたっておかしくならない方が難しい世界じゃないか。

ひなにはひな自身がいなくなった後の自分がいた世界の話を、どこまで話そうか。……という悩みへの正解が、いまだに導き出せないでいる。

あっちに戻れるよと話すことすら、散々悩んでためらって。それでも口が滑っていったのに合わせて、言える範囲の話をして、ひなが気持ちを落ち着けたい時に向かい場所へと背中を押して。

俺がいた場所への、ほんのちょっとヒントを置いて部屋を出て。

きっと困惑も混乱もしているとわかっているけど、ひなの中で俺が土産として渡した言葉についてちゃんと向き合うキッカケを手渡したかった。

泣かしちゃっただけじゃなく、俺が口にしたことが現実味を帯びているということに目を向けてほしかった。

スタスタと足を速めて、長い廊下を歩き続けていく。

「さすがに腹減ってきたな」

長いこと話してただけに、腹の虫がクゥ…と鳴っている。

「厨房に寄って、軽食でも作ってもらって……。それ持って、ジークんとこに行くかな」

行きかけていたジークの部屋への曲がり道を逆に向かい、さっきよりも足を速めた。

なるべく今日中に全員と話した方がいいということくらい、わかってるんだ。……ただ、一人一人と話す内容が多いやら濃いやらで、最後にしようと思っているカルのところに行くのが日付を跨ぎそうな勢いで。

「なにもかもを俺一人で伝えなきゃいけないっていうのがな」

そのサポート的な意味合いで渡されたのが、シューヤからの手紙だった。その手紙があってもそれでも時間は結構かかるだろう。

もうすぐで厨房に辿りつくと思った手前で、ドアから見慣れた顔が出てきた。

「……ジーク?」

その手には、左にサンドウィッチが数種類、右にチョコケーキか何かかな。

「それは?」

どこかに持っていくのかと思って聞けば、三年経っても変わらぬ食えない笑顔で俺を見てうなずく。

「次は俺…だろ? 腹減ってるだろうなって思ってね。薬草茶じゃない茶葉も受け取ってきたから、部屋で一緒に食おう」

みんなのところに行くとは言ったけど、その順番なんか一切ハッキリしていなかった俺。

というか、アレクと話をして、ジークとも早めに話をした方がいいなという結論が出た。だから、次はナーヴかと考えていたのをやめて、ジークを先にしたんだ。

「……よくわかってるね。さすがジークって言った方がいい?」

なんて嫌味も込めて言えば、目を瞬かせてから「あったりまえでしょ?」とか返してきた。

スキルで見たのか、それともジークの気づかいか。

なんにしても軽食を頼む手間も、ジークに自室と執務室のどっちがいいのか聞く手間も省ける。

ほんのすこし気楽になった気がして、ジークの隣に並んでから手を差し出す。

「片方持つよ」

そう言えば、右手のチョコケーキを手渡してきた。

「…うん。いい匂い」

匂いが体内に入ると、体が素直に反応して低い振動音のような音を立てた。

「ぷっ。……そんなに腹減ってたの? シファル」

からかうような声で問われて、「うるせぇ」と返す俺の話し方は、まるでナーヴみたいな感じで。

「くっくっくっくっ。…いいんじゃない? シファル。そういう感じのシファル、俺は好きだよ」

それを肯定してくれたのが嬉しくて、二人で見合って同時に笑って。

浄化の前にはなかった関係に近づけた気がしたのが、心底嬉しいんだ。

「手紙に書かれていたことについての話だと思うんだけどさ、先にこっちから質問ってあり? なし?」

まもなく執務室の方にたどり着くだろうあたりで、ジークから質問をされる。

「別に構わないよ、俺は。現段階で話せるだけのことは話すつもりだったし」

と俺が返せば、ふわりとやわらかく微笑んで「よかった」と言いながら執務室のドアを開けた。

「鍵閉めとく」

さっきのアレクとのやりとりを思い出して、カチャリと鍵をかける。

ジークはうなずき、テーブルにトレイを置くとカーテンを閉めた。

「紅茶淹れるまでの間、俺に渡された手紙でも読む?」

手紙に関しては、大体の内容は知っていても読んではいない。必要ならば、読みながらの話を…とは言われていただけで。

「ジークがいいなら、読ませてもらおうかな」

「どうぞー。…はい、これね」

封筒から取り出して、テーブルの上にポンと置かれた手紙。

アレクの手紙には、あのスキルについての話もあったけど、王族二人の手紙にだけは今後のひなの選択肢次第では頼みたいことがあるっていうのがメインだったりした。

聖女召喚そのものを行なったのは教会の連中だったけれど、率先して召喚までの準備を進めたのもメンバーを選抜したのも国王その他諸々で。

イコールそれ自体を推し進めたのは、王族……ってことで責任者なんだから、ひなのことをよろしくねという感じの内容。

この二人の内容は、他の二人と比べると気が楽な方かもしれない。

(――ただし、責任は重大だけどな)

なんてったって、託されるのが元とはいえ聖女なのだから。

「……はい。お待たせ。シファルがいなかった三年で、淹れられるようになったんだよねぇ。カルナークばっかり役に立つのが、なーんか腹立たしくって」

愚痴のようなそれを耳にしながら、ジークが淹れてくれた紅茶に口をつける。

ふう……と長く息を吐けば、そんな俺を口角を上げて眺めていたらしいジークと視線が合った。

「…なに」

意味ありげな視線にチラッと横目で一瞬視線だけ投げて、サンドウィッチを手にする。

パクッと大きく一口かぶりついたら、ジークも同じようにかぶりつきながら呟いた。

「なんかさ、いろんな意味で大人になって帰ってきちゃったなぁって気持ちで見てただけだよ」

って。

「大人に? ……どこがだよ。俺がいなくなって三年経過したって聞いているけど、俺自身の方は三日しか経過してなかったからな。成長も減ったくれもなかったっての」

指の腹についた白いソースを舌先でペロッと舐めてから、チョコケーキを取り分けてフォークで一口に切り分ける。

一口食べて、ジークが淹れた紅茶を一口。

「はー……、めちゃくちゃ胃にしみる」

頭を使い続けているのもあってか、糖分チョコケーキがものすごく美味く感じる。

「それはよかったね」

ジークは俺が読み終えた手紙を折りたたみ、封筒に戻してテーブルにポンと放った。

「…で、さっき言っていたけど、質問って?」

二つめのチョコケーキを皿に乗せ、紅茶を半分ほどまで一気に飲んでから声をかけた。

「あ。…もう、話をしても大丈夫? 空腹を埋めきってからでもいいんだけど」

ジークなりに気を使ってくれていたようで、さっきの腹の音を思い出すと顔が熱くなる。

「悪いな? 気を使わせたようで」

そう返しながら、二つめのケーキの残りを大きく切り分けて口へ。

「ぷっ…。そこまで甘いもの好きだったっけ? ほんと、ちょっと合わないうちに俺の知らないシファルになっちゃったなぁ」

「むぐ……ん、ゴク……ゴクッ…。ぷは。え? 俺、昔っから甘いものは嫌いじゃないけど?」

「いや、ほら…ひながここに来た時に一番食べていたのがカルナークだった印象が大きくって、他に誰か手をつけていたかって記憶がね」

「あの時はなんていうか…様子見していたところもあったし」

「まあ、みんなそうだったよね。……って、なんか懐かしいね。ひなの食べっぷりがよかったのを憶えてる?」

「……ふっ。憶えてる、憶えてる。マカロンだったか? こっちのご令嬢がさもお上品に食べている姿のイメージしかなかったからな。まるで子どものように無邪気な様子は、今でもすぐに思い出せる」

「だよね。……はー…なっつかしいよねぇ」

なんてあの頃のひなを思い出して、一緒に笑いあってた俺たち。

……だったんだけどな、なんでだ。

「それはさておき。俺ね、質問っていうか……シファルに怒ってるんだよね。ずーーーーーっと」

ジークが纏う空気が一変する。部屋中がヒンヤリしている気がするほどに。

「怒って…って、俺が消えたのは俺の意思じゃなかったし、いつ戻るとかも俺がどうにか出来たわけじゃなかったんだから、そのことで怒りをぶつけられても」

ジークが怒るって言ったらそのあたりだろうと思っていた俺がそう言い返すと、ジークは何も言わずに俺を冷たい視線で見つめてくる。

「違うのか? 違うなら、ジークが怒っている理由をハッキリ言ってくれても」

アレが理由じゃなきゃ、他が浮かばない。言ってくれなきゃわからない。察するなんて無理だ。

「――アレ。なんなの? どういうつもり? というか、俺だけじゃなく…多分アレクも怒ってたはずだけど、何も言われなかった?」

「は…。アレクも怒ってた? どういうことだ。さっき話してきたけど、特にそれらしい話はされなかったぞ」

アレクと過ごした時間を思い出してそう話せば「アイツ…」と苛立った声色でもらすジーク。

「アレクから話がなかったのなら、俺がすべきということなんだろうな。……シファルは手紙の内容を読んで、俺たち二人がひなにとってどういう存在であってほしいということを書かれていたかを把握してるよね」

「…あぁ」

久々に触れた、王族独特の威圧。それに圧されたように、一瞬返事が遅れた。

「だったら今から話すことは、俺たち二人の総意と思ってほしい。……シファルはひなへの気持ちを失くして戻ってきたの?」

ひなへの気持ち? 今、する話か? それ。

「そういう話、ジークに伝える必要ある? っていうか、ひなには戻ってすぐに…一応言わなきゃなことは言えたかと思ってるけど。……ただ、どうしても俺の気持ちだけ優先させて、ひなにあるはずの選択肢を見せないのは嫌だった。…だから、ひなが戻りたいっていうなら戻る手伝いを。そうじゃないなら……ひなと添い遂げたい。そういう気持ちはあるよ。……でも、戻れる話を後出ししたから、ひなと二人っきりの時にした話は、ひなの中でどっちが本音? とか思わせているかもしれないって自覚はある」

ひなのベッドの上に送り出された格好になって、ひなに跨るようにして抱き合って伝えた気持ち。

それは俺たち二人だけのモノだって思っているから、その瞬間を見られていなかっただけに心配をかけたんだとは思うけど、父親じゃあるまいし…そこまで口出されるとかは。

「シファル。忘れないでほしいんだけど、ひながここに来てからも、浄化が終わってからも、俺とアレクはひなの保護者でもあるからね。ましてや、こうして手紙に書かれていたことに納得した俺たちは、これからも変わらずひなを害するありとあらゆるものから護っていく。だからね? シファル。……ひなが戻らない場合、結婚相手を選ぶ時に、他の誰よりも口出しもすれば手出しだってするからね」

なんて目を吊り上げているジークに、釘を刺されまくる俺。

「ジークさ」

そんなジークを見ながら、ため息まじりに呟く。

「そのうちお父さんとか言われそう。ひなに、何の気なしに」

俺のその言葉に、ジークは顔を引きつらせて。

「…………せめて兄貴がいい」

そう言ったジークの目は、すこしだけ悲しそうだった。


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