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第1話 じぶんはだあれ?

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瞼の奥から感じた光と熱に目を眩ませながらも起き上がる。瞼を開けた先にあった光景は記憶にない光景だった。


「……ここは」


辺りを見回して見ると西洋風の一室らしく、今は煌びやかなベッドにかけている。それ以上の思考は進まない。
寝起きだからだろうか。ズキズキと頭に響く鈍痛も拍車をかけていた。

白を基調とした豪華な衣裳棚、ティーポット、装飾が施されたカーテン。ベッドも部屋に一つであることから誰かの私室に思える。どれも触ることを躊躇ってしまうような品々が並んでいる。その中でも1つ、異風を放つモノが目に留まった。


「緑の灯のランプ? この部屋なら白の方が似合いそうだけど……わっ⁉」


ランプに手を伸ばした途端、ランプが独りでに揺れ出す。思わず肩をびくりと跳ね上がらせ手を引くと、ランプの灯は灯を囲っていたシェードを飛び出し扉をすり抜け何処かへと消えていった。

正直怖い。目茶目茶に怖い。右も左もわからない状況に加えて心霊現象みたいなのも目撃してしまった。こんな状況夢に違いない……よな。


そんな風に考えていると、部屋をノックする音が聞こえた。護身用に近くのグラスでも……と思ったが、何故かグラスまで手は届かず、違和感を覚える間もなく扉は開かれた。


「コート‼」


長身(のように思えた)女性が誰かの名前を叫びながら自分に抱きつく。金髪長髪に青い瞳、ハリウッドに勝るとも劣らない美貌だ。再度部屋を見回すも他に人は女性に続いて入ってきた男の子2人、目線の先にいる人は自分一人。やはり『コート』というのは自分のことらしい。

見知らぬ女性に抱きつかれたことに驚いているけども、何かドキドキしてはいけないという罪悪感がどことなくある。それ以上に初めて聞いた筈の『コート』という名前にどこか安心感、居心地の良さを感じていることが何より驚きだった。


「あんなに普段元気にしてるのに、急に倒れるだなんて。本当にびっくりしたわよ……」

「心配かけてごめんなさい、……」


反射的に出た言葉にハッとする。

お母様? 自分の母はこんな西洋美人じゃ……いやこの人が母で当然という思いもある。
一体ここはどこで、この人たちは何なんだ?


展開についていけない自分を置いて、推定母の後ろに立っていた男の子の一人が前に出てくる。金の短髪にあれは……ロン毛というのだろうか。ウェーブが掛かった髪をいじいじと、初対面の筈なのに目の前の男にはどこか嫌悪感があった。


「こんな奴心配する必要ねェよお母様! 森に入って岩にぶつかって気絶ゥ?……どんくせぇ‼ アハハハ!」

「こらザック。あんまりコートを悪く言うもんじゃないよ。今日は神託の儀、神様が見てる日なんだ。そんなこと言ってるとバチが当たるよ」

「チッ……わかったよガブ兄。頭ぶつけてこれ以上馬鹿になってないことを祈ってるぜ、コート」

「コート、あまり気にしちゃだめだよ。今日気を遣うべきことは他にあるからね」

「ありがとうガブル兄さん……」


もう一人の兄の優しさに暖かさを感じる。ザックと同じく金の短髪、THE優等生といった風貌をしている。……こんな容姿端麗な兄は、いやそもそも兄はいなかった筈なのだが。
ザックのことも兄と認識しているし、この人らが家族じゃないなら他に誰が家族なのだろうか。思い起こそうとすると頭が締め付けられるように痛む。アメコミにもこんな状況のキャラいた気がするな。



……アメコミ? 先ほどからよくわからない単語が頭に浮かんでくるが、一体何の単語なのか。


不思議に思っているとベッドに腰かけた母に頭にポンと手をのせられた。


「お父様は先に神殿で待っているそうよ。もう少しで儀式の開始時刻だけど……大丈夫?」

「大丈夫。頭はまだ痛いけど……もう歩けるよ」

「2人はお留守番お願いね」

「わかったよお母さま。コート、頑張ってね」

「どんなクソ魔法を授かるか楽しみにしてるぜ? コートォ?」


ザックのめんどくさい絡みを気にせず母と共に部屋を後にする。

廊下も案の定見知らぬ場所だ。気のせいか空気はうまい。
それ以外のことはてんでわからないが……1つわかったことがある。
ザックとは仲良く出来ないだろうということだ。

多種多様な不安を抱えつつ母親と神殿に向かうのだった。






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