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第二章
二話 神隠しの村 その二
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見れば燃えた後もある。火を放たれたのだろうか。
「まさか、私のせいで……」
張弦は淑の目があるのも忘れ、がっくりと膝をついた。護衛にまぎれていたものが張弦だというのは、宮廷衛兵で行方不明になったものを当たればすぐわかることだ。となれば、張弦が生きていれば、故郷であるこの村に来ることも予想できる。
となれば先回りして村を焼き討ちにしたのか?義姉たちは?村人たちは……?
動けない張弦の横から淑が飛び出す。そして、丹念にその瓦礫を調べ始める。そして、驚くほどしっかりした顔でこちらを向くと叫んだ。
「そなたのせいではない!」
そう言って、足元を指差す。張弦はよろよろと立ち上がり、淑のそばまで行き、その指先を見た。
「これは……」
指さしたあたりの瓦礫から芽が出ている。張弦はそれに触れると、淑を見上げた。
「このように瓦礫から木の芽がでるには一、二年はかかる」
「そのとおりだ。昨日今日で焼けたわけではない」
淑はそういうと、あの猫のような目で鋭くあたりを見回す。
「つまりこの村は、一、二年前にこのようなかたちとなった。張殿のせいではない」
淑は慰めるように、張殿の肩に手を乗せる。
「前にここへ来たのは?」
「二、三年前のことだ。あることで義姉上と言い争いになり、それから帰って来ていなかった」
淑が黙った。張弦は肩を落とした。
「私は義姉上たちともう会えないのか……」
「いや、まだ、そうとは言い切れない」
淑はぶつぶつと何かをつぶやきながら、瓦礫の中のものを探る。
「やはり、ない」
「何がだ」
「生活に必要なものがだ」
「生活に必要なものとは?」
「例えば、家族全員で使うような鍋、畑仕事に使うよう鍬、そういったものだ」
「もともとたいしたものは持っていないはずだ」
張弦が言い返すと、淑がすかさず切り返してくる。
「しかし、賊が鍋を持って帰るとは思えないだろう?」
そうか……
張弦はつぶやいた。
「ある方から聞いたことがある……神隠しの村だ」
「神隠し?」
淑が首をかしげる。
「突然、村が消えるのだそうだ」
張弦はまるでひとりごとのように続ける。
「いや、神隠しといっても、村が消えただけで、村びとは生きていることが多い」
「どういうことなのだ?」
淑の問いに、張弦は続ける。
「東方の乱後、戦で功績のあったもののために、戦利金が支払われた。しかし、その戦利金を払うことで、朝廷の国庫は枯渇し、税をあげずにはいられなくなった。そのような税にかこつけて、勝手に税を上乗せする地域もあったという。そういった地域では村ごと消えるということが多発したと聞いている」
張弦の言葉に、淑も納得がいったようだ。
「つまり、村全員で夜逃げをしたということか」
張弦がうなずく。
「もちろん、夜逃げしたとばかりに逃げるはずはない。だから、火を放ったり、賊に襲われたようにみせかけるのだが……」
「だが、どうしても生活に必要なものだけは持って逃げるのだな」
淑の言葉づかいはすっかり皇子のものに戻っていたが、張弦はかまわなかった。あたりを見回す淑の今の姿は、為政者の貫禄を放っている。
だてに皇族の生まれではないな……
張弦はその姿を頼もしく見つめる。しかし同時に寂しさが襲ってきた。
「義姉上の村がそんな目にあっているとは知らなかった」
自分があることで意地を張り、まさか、二度と会えなくなるとは。その時だった。
ととと……
大きな犬が張弦に近づいてくる。目が隠れるほど、むくむくとした毛の長い犬だ。張弦は思わず体が固まる。犬は張弦の匂いをふんふんとかぎ、満足したとばかりに今度は淑の匂いをかぐ。淑はかがれるだけでなく、その手を出す。
「おい、危ないぞ」
野犬に咬まれれば病になることもある。しかし、淑はやめずにさらに手を伸ばす。淑がいきなり手を出したのに犬の方も驚いたのか少し飛びのいたが、すぐに淑の手の匂いを嗅ぎ始めた。そして、ふんとばかりにこちらを見ると、背を向け走り出した。
「ついて来いと言っている」
そう言うと、淑はその後を追って走り出した。
「まさか、私のせいで……」
張弦は淑の目があるのも忘れ、がっくりと膝をついた。護衛にまぎれていたものが張弦だというのは、宮廷衛兵で行方不明になったものを当たればすぐわかることだ。となれば、張弦が生きていれば、故郷であるこの村に来ることも予想できる。
となれば先回りして村を焼き討ちにしたのか?義姉たちは?村人たちは……?
動けない張弦の横から淑が飛び出す。そして、丹念にその瓦礫を調べ始める。そして、驚くほどしっかりした顔でこちらを向くと叫んだ。
「そなたのせいではない!」
そう言って、足元を指差す。張弦はよろよろと立ち上がり、淑のそばまで行き、その指先を見た。
「これは……」
指さしたあたりの瓦礫から芽が出ている。張弦はそれに触れると、淑を見上げた。
「このように瓦礫から木の芽がでるには一、二年はかかる」
「そのとおりだ。昨日今日で焼けたわけではない」
淑はそういうと、あの猫のような目で鋭くあたりを見回す。
「つまりこの村は、一、二年前にこのようなかたちとなった。張殿のせいではない」
淑は慰めるように、張殿の肩に手を乗せる。
「前にここへ来たのは?」
「二、三年前のことだ。あることで義姉上と言い争いになり、それから帰って来ていなかった」
淑が黙った。張弦は肩を落とした。
「私は義姉上たちともう会えないのか……」
「いや、まだ、そうとは言い切れない」
淑はぶつぶつと何かをつぶやきながら、瓦礫の中のものを探る。
「やはり、ない」
「何がだ」
「生活に必要なものがだ」
「生活に必要なものとは?」
「例えば、家族全員で使うような鍋、畑仕事に使うよう鍬、そういったものだ」
「もともとたいしたものは持っていないはずだ」
張弦が言い返すと、淑がすかさず切り返してくる。
「しかし、賊が鍋を持って帰るとは思えないだろう?」
そうか……
張弦はつぶやいた。
「ある方から聞いたことがある……神隠しの村だ」
「神隠し?」
淑が首をかしげる。
「突然、村が消えるのだそうだ」
張弦はまるでひとりごとのように続ける。
「いや、神隠しといっても、村が消えただけで、村びとは生きていることが多い」
「どういうことなのだ?」
淑の問いに、張弦は続ける。
「東方の乱後、戦で功績のあったもののために、戦利金が支払われた。しかし、その戦利金を払うことで、朝廷の国庫は枯渇し、税をあげずにはいられなくなった。そのような税にかこつけて、勝手に税を上乗せする地域もあったという。そういった地域では村ごと消えるということが多発したと聞いている」
張弦の言葉に、淑も納得がいったようだ。
「つまり、村全員で夜逃げをしたということか」
張弦がうなずく。
「もちろん、夜逃げしたとばかりに逃げるはずはない。だから、火を放ったり、賊に襲われたようにみせかけるのだが……」
「だが、どうしても生活に必要なものだけは持って逃げるのだな」
淑の言葉づかいはすっかり皇子のものに戻っていたが、張弦はかまわなかった。あたりを見回す淑の今の姿は、為政者の貫禄を放っている。
だてに皇族の生まれではないな……
張弦はその姿を頼もしく見つめる。しかし同時に寂しさが襲ってきた。
「義姉上の村がそんな目にあっているとは知らなかった」
自分があることで意地を張り、まさか、二度と会えなくなるとは。その時だった。
ととと……
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「おい、危ないぞ」
野犬に咬まれれば病になることもある。しかし、淑はやめずにさらに手を伸ばす。淑がいきなり手を出したのに犬の方も驚いたのか少し飛びのいたが、すぐに淑の手の匂いを嗅ぎ始めた。そして、ふんとばかりにこちらを見ると、背を向け走り出した。
「ついて来いと言っている」
そう言うと、淑はその後を追って走り出した。
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