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第一章 お転婆娘

失言

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「なんとなく、何?」
「なんとなく……触った感じで」
「ぶち殺す」


 百分の一秒の間も空けずに言ってのけ、ゲイルの首に両手を伸ばす。


「ちょ、たんま。それは色々と問題がある」
「大丈夫。処理は私がするから。Go heaven」


 ニコリと笑いながら抵抗する手を払いのけ、片方の手が首に触れそうになった時、不意に視界が揺れ、目隠しをさているかのように闇に染まった。


「あれ?何も見えない」


 軽いパニック状態になった私は、近くの床に手をついて顔を上げた。
 そして気付く。


「っ!……ちか、…え?」


 視界が真っ暗になった原因が、ゲイルに抱き締められていたからだということ。
 床だと思って手をついた場所が、ゲイルの肩だということに。
 そして表情一つ変えずに見下ろす彼。

 あんなにも優勢だったというのに、一瞬で形勢逆転である。
 悔しい。
 屈辱的と言ってもいい。

 しかし、そんな感情よりも私の胸中を占めているのは、


「っっっっ!ご、ごめん」


羞恥心だ。

 どんなに文句を言おうと彼は私の夫で、夫である以前に男なわけで。
 しかもただの男ではない。
 お世辞を抜いたとしても相当かっこいい。
 惚気ではない。
 いや、自分の夫を褒めているから惚気の内に入るのかもしれないけど、俗に言う“イケメン”というやつなのだ。


「顔、赤いぞ」


 気持ちを知ってか知らずか、目を細めて私の頰を優しく撫でてくる。

 ゲイルさん、少しでもいいので待ってはくれませんか?
 あのですね、今はえーっと……そう!
 心の整理をしていますので!
 交通整理みたいなものですよ。
 安全に生活する為にはとても大切なことですね。


なので、その……

「見つめないでもらえますか!」


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