私は三人の夫に溺愛されている。

第一章 お転婆娘

お手伝い

　昼食も無事に終えた私は、仕事に戻る前に城から少し離れた軍の訓練施設がある平原へと足を運んでいた。
　軍に用があるわけでも、私自身が訓練をするわけでもない。


「こんにちは、ラフマー」
「こんにちはジャスミン。用意できてるよ。いつもありがとう」
「いいの！私が好きでやってるから」


　ラフマーの手伝いをしに来たのである。

　赤茶色で猫みたいな毛質の髪を風になびかせ、暖かい笑顔で私を迎えてくれた。
　彼は軍人ではあるが、直接的に戦闘に関わることはない。
　イアン隊という場所に所属しており、その名称にある“イアン”のブリーダー……つまり、体調管理などをメインに行なっている。

　“イアン”というのは狼の一種。
　狼よりも二回りほど大きく、毛は銀色で柔らかいが自分の意思で針のように鋭く変化させることができる。
　爪と牙は鋭く、尾は三本あり別々に動かすことができる。
　皮膚は硬くて厚く、銃弾も至近距離で撃たれても致命傷にはならず、その後も数十キロ走り続けられるほど強靭な肉体の持ち主。
　しかし、腹回りの皮膚は薄く人間とそう変わらない。
　唯一の弱点とも言える部分である。

　イアン隊の他にも、騎馬隊、歩兵隊など様々な隊があり、兵隊としてもっとも最高位なのがイアン隊なのだ。
　ファーレスはイアン隊の副隊長をしている。
　あんな男でも仕事はきちんとこなしているのだ。

　そんなイアン隊のブリーダーであるラフマーさんを含めた数人は、イアンの餌やシャンプー、ブラッシング、爪研ぎなど、色々とやることが多い。

　しかも人間と同じように戦闘訓練にも参加するので、イアンも毎日泥だらけときた。
　数は馬ほど多くなく数十頭程度だが、馬と違って生肉を主食としているので更に手がかかる。
　小さい時からイアンがいる環境に慣れている私は、城にいる限りはラフマー達を手伝っているのだ。


「あれ？二頭ぐらい少なくない？」
「あぁ、多分城の方に遊びに行ってるのかな。昼食の鐘は鳴らしたから、時期に戻ってくるよ」


　ここまで話すと凶暴なイメージを持たれがちだが、基本的に温厚だ。
　こちら側から襲いかからない限り、何もしてこない。
　だから城壁の内側であれば行き来自由だし、城の廊下を歩いていることもあるぐらいだ。
　流石に街へは出さないけれど。


「じゃあ、いつも通り番号順にバケツを並べてもらえるかい？」
「はーい！」


　ラフマーと同じ作業着に着替えた私は、バケツに入ったグロテスクで血生臭い肉に臆することなく並べていく。
　感覚は約2mで、等間隔に置くようにしている。
　理由は食事中に興奮して尻尾を振る習性があり、隣のイアンにぶつかって喧嘩にならない為だ。

　そして、イアン達には名前と番号が書かれた首輪をしており、それぞれの好みに合わせて肉を準備している。
　バケツと首輪の番号はリンクさせていて、イアン達にももちろん覚えさせる。
　だから自分の番号のバケツが準備されると、何も言わずに移動して中身を食べるのだ。
　知能数が高いイアンだからこそできる食事中方法である。