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第一章 お転婆娘
謎の訪問者
しおりを挟む動植物の気持ちがわかるのだ。
“わかる”というより“聞こえる”という言い方が正しいかもしれない。
日によって変化する動植物の姿を見て気持ちを感じとっているこではなく、本当に思っていることが声となって聞こえてくるのだ。
私には静かな場所にお花が咲いているように見えるが、ルーにとってはそうではない。
あちこちから話し声が聞こえ、いろんな人の噂話や他の花達と様々な情報交換をしていたりするのだという。
ルーにとっての当たり前は、他の人にとって当たり前ではない。
昔はそれで随分と苦労していたと、本人が言っていた。
私の夫達は、王女である私と結婚するだけの地位がある。
性格に難ありだが、三人とも王家の血を引いており、ルーは同盟国であるリヴァディ王国の第三王子。
つまり、王家の直系である。
元々国を継ぐ予定ではなかったが、昔から動植物の声が聞こえていた為、イグニース王国に婿養子として出すことにした。
ルーは実の父親に厄介払いをされたのだ。
気味が悪い、と。
私の父も、その事実は伝えられていない。
知っているのは私とゲイル、ファーレス、マナ、アデルの五人。
そして庭師の師匠であるベラノだけ。
イグニース王国は知らずのうちに、ルーの父親に面倒なものを押し付けられた形になったのだ。
何も面倒だとは思わないけどね。
害があるわけでもないし、動植物達の話は聞いていて面白い。
私にとってはいい刺激である。
楽しそうに霧吹きで花達に水を上げる姿を見ていると、花壇の間から可愛らしい黄金色の狐が頭だけ出してこちらの様子を伺っていた。
「ルー。狐さんが遊びに来たみたいよ」
花がくすぐったいのか、時折ブルブルと顔を震わせては負けじとその場に留まっている。
イアンよりも細くて長い鼻。
縦に立っている小さな耳。
横から密かに詰め寄っていたルーが、花を傷つけないように優しく持ち上げた。
最初は暴れていた狐も、危害を加えないとわかったのか抵抗をやめて大人しく抱かれている。
その間もずっと私から目を離すことはなかった。
「ジャスミンの事が好きみたい。この子」
少しムッとした表情で狐と一緒に私の隣に来たルー。
人間である貴方が動物と競ってどうするのよ。
呆れる一方で嬉しいと思った。
ルーに限らず、私の夫達は私に愛情を注いでくれる。
受け止めきれないほど、沢山。
「あら、そうなの?どこかで会った事があるのかしら?」
狐の頭に触れる。
野生とは思えないほど柔らかい毛並みに、ベッドに入って一緒に寝たいとさえ思った。
今は夏だから秋か冬にでも。
想像しただけで暖かそうだ。
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