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第二章 表と裏

地獄の書類整理

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「ふぁー……。片付けるか」


 欠伸をしながら、三大欲求である睡眠を求める体に鞭を打ち、ベッドから体を起こす。
 先程まで座っていた椅子の近くには、パソコンと山積みとなっている書類が置かれた机がある。
 現実逃避をしたくなった俺は、ダメとわかっていながらも、再びベッドに横になった。

 書類の束が、十、二十、三十……。

 無いわー。
 あの量は無いわー。

 布団で顔を覆い、視界を遮る。
 見えてませんよと、誰かにアピールするかのように。
 しかし、そんなことをしても減るわけもなく。
 布団から顔を出すと、数十秒前と同じ光景だった。


「……はぁ」


 思わずため息が漏れる。
 わかってはいたさ。
 こうなるだろうと。
 しかし、いざ直面してみるとキツイものがある。

 体を反転させ、“あと五分”とよくある言い訳をして丸くなる。
 隣で寝息を立て、気持ちよさそうに眠る太一の顔が視界いっぱいに広がる。

 睫毛長っ。
 肌も綺麗だし、意外と鼻高い。
 あ、俺と同じ場所に黒子がある。

 寝ているのをいい事に、存分に観察した。
 起きてしまわないだろうか……という緊張感が、いけないことをしているみたいで興奮する。

 満足がいくまで観察した俺は、太一の顔にかかった髪の毛を退かし、頭を撫でる。
 あの後、二回もしたからか、起きる気配はない。
 溜まっていたからとはいえ、無理をさせてしまったかもしれない。
 こちらを向き、無防備な顔で寝ている姿を見て、反省する。

 マリモが転校してきてから、早三週間。
 相変わらず睡眠時間は三時間で、仕事に追われている。
 今日、太一としたのも、食堂の一件以来だから……二週間とちょっと振り。
 自慰をする暇も無かった俺は、仕事が残っているというのに、目の前の誘惑に負けた。
 健全な高校生だ。
 仕方がないことだと思う。
 自分を正当化し、うんうんと一人で頷いた。

 布団に包まって約十数分。
 時間は二時を回ったところだった。


「そろそろ起きないと、本当にやばい」


 太一を起こさぬように抜け出し、太一が寝返りを打ってズレた布団を、風邪をひかないように、肩までかけてやる。

 パソコンとスタンドライトの電源を入れ、乱暴に放り投げていたブルーライトカット効果があるメガネをかけた。
 一番上にあった書類を手に取り、内容を把握すべく読み進め、パソコンの画面を見ながら資料などを作成していく。
 完成したら印刷をし、用がなくなった書類は、パソコンの左側へ積み重ねていく。

 “部活別、新入部員数報告書“や“四月度 部費報告書”、“生徒達の深夜徘徊防止策について”など、様々な案件の書類が、生徒会や風紀委員に届けられる。
 一番最後の対策案については風紀委員に渡るはずだったもの。
 誰かが間違えて生徒会に持ってきてしまったのだろう。
 これは明日、持っていくとして……。


「あ。やべ」


 明日、持っていくのを忘れないように、ファイルに入れて鞄に入れようとした時、ある物を見つけてしまった。


「忘れてた。いや、でも一ヶ月以内って言ってたから、まだ大丈夫か」


 政宗が持ってきた、ピンク色をしたワニの形をしたUSB。
 風紀委員が活動する風紀室は、生徒会室の一つ下の階にあり、行き来は苦でない。
 しかし、日にちを開けずに訪れるのは面倒。
 また仕事を振られる可能性もあるし、できれば一度に抑えたいところ。


「急ぎのものは取り敢えず終わらせたし、頼まれたデータ整理も……これぐらいなら二十分ぐらいで終わるか。いけるな」


 カーソルを動かして内容を確認した俺は、明日書類と一緒に持っていく事にした。
 
 再び時間を確認した頃には、既に四時を回っていた。
 風紀委員が頼まれた仕事は無事終わり、鞄の中へしまった。

 二時間前、パソコンの右側に積み上げられていた書類達は、左側へと移動していた。
 怒涛の仕事振り。
 やるじゃないか自分。
 そう褒める一方で、殺意にも似た感情が込み上がっていた。


「あのクソどもめ。この二時間で片付けた九割五分はてめぇらの仕事だぞ。マリモとイチャつきやがって目障りなんだよ。仕事しろ。そして死ね」


 一呼吸で全て言い終えると、何の前触れもなく、肩が重くなった。


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