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第一章 転校生
おねだり
突如、俺が座っている側のドアが開かれ、
「春都様。第一校舎に到着いたしました」
運転席にいたはずの太一が頭を下げ、降りるの待っていた。
着いていたことに気付かなかったため、少し面を食らったが、お礼をいってから車から降りる。
俺に続いて野山が降りたところで、扉を閉じる太一。
「中に入ったらエレベーターが三つあるから、真ん中のエレベーターに乗って六階までいってねー。着いたら、派手な花が飾られた扉が見えるまで真っ直ぐ進むこと。わかったー?」
理事長室がある第一校舎を指差しながらそう言えば、口をだらしなく開けてこちらを見ていた。
「鵤先輩は一緒に行かないんですか!?」
急に覚醒し、詰め寄ってくる。
「理事長に“建物の前まで車で送ったら、後は一人で来させるようにって”ってきつく言われてるからさー。一人で頑張ろー」
「無理です!無理です!僕、極度の方向音痴なので、迷子になる自信しかありません!」
「でもエレベーター降りたら一直線だし」
「僕もなんでかわからないですけど、簡単な道でも迷子になっちゃうんです!理事長には僕から言いますので、案内してもらえないでしょうか!?」
俺のYシャツを掴み、必死に縋り付いてくる。
駄々をこねられているような感覚に陥り、どうしたものかと頭を悩ませる。
助けを求めて太一を見やるが、俺と同じく困ったような顔をするだけで、いい案は出てきそうになかった。
「わかったよ。ちゃんと理事長に言ってよー?」
「はい!もちろんです!ありがとうございます!」
「声がでかーい」
「すっ、すみません。嬉しくてつい!」
「はいはい。荷物取ってくるから、先に入り口のところで待っててー」
「わかりました!早くきてくださいね!」
手を大きく振りながら走っていく。
途中で足がもつれ、豪快に転んでいたが、距離がある為、助けに入ることなく見守る。
入り口付近に着いたのを確認してから、体を車へと向けた。
すると太一が、タイミング良く車のドアを開ける。
お礼を言ってから車の中へと再び戻り、野山を迎えに行く最中に終わらせた書類が入ったファイルを持って降りた。
「あの、春都様……」
降りたのとほぼ同時だったと思う。
ドアの近くにいた太一が俯きながら話しかけてきた。
「どうしたー?」
首を傾げながら問いかければ、顔を赤く染める太一。
「あっ、えっと、そのー」
視線を左右に動かす。
「話しがないならもう行くよー?」
ファイルを右手から左手に持ち変え、入り口へと体を向ける。
一歩足を踏み出そうとした時。
「待って下さい!」
両手で俺の腕を掴んできた。
その体制のまま顔だけを動かし、太一の様子を伺う。
先程よりも赤さが増し、まるでリンゴのよう。
「今朝も、お聞きした……んですが、その……」
そこまで言われてようやく太一が何を言いたかったのかがわかった。
そんなに照れて言うことか?と、クスッと笑ってしまったのはここだけの秘密。
「はいよ。用事済んだから生徒会室で仕事しなきゃだから、のんびりするなり、風呂入るなりしてれば?」
俺はスラックスの右後ろポケットからある物を取り出し、それを太一の顔の前にちらつかせる。
すると嬉しそうな顔をし、「はいっ!」と返事をしてから車へと乗り込む。
渡したのはスペアのルームカード。
俺の部屋を開けるためのもの。
「可愛いやつー」
ニヤそうになるのを必死に堪えながら、車が出発するのを見送り、野山が待つ第一校舎の入り口へと足を進めた。
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