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第二章 表と裏
仮面
「カードとスマホ、あとハンカチはお持ちになられましたか?」
「持った」
「あ、このスウェットお借りしますね。明日お返し致します」
「ん」
「もう。他の生徒の方もいるんですから、シャキッとしてください!」
俺の服装を細かくチェックしながら、説教にも似た言葉を吐く太一。
執事であり、幼少期から共に過ごす友であり、家族のような存在。
「あ、鵤様だ!」
「お隣の方は……鵤様の運転手兼執事でもある、佐山様!いつ見てもお美しいです!」
「鵤様ー。明日は僕とお願いしますぅ!」
「鵤様ぁー」
廊下を歩くたびに聞こえる好意の声。
それは耳が痛くなるほど大きなもので、もう少し小さな声で言って欲しいとさえ思う。
「佐山様だとよ。よかったな」
「別に嬉しくありませんよ。俺には春都様だけですから」
「あーはいはい」
太一の発言をサラリと流す。
太一が俺に対してどのような感情を抱いているのか。
一緒にいる時間が長いせいか、聞くに聞けずにいる。
この関係が崩れてしまう。
そんな気がしてならないから。
「それでは春都様。夕食お楽しみくださいませ」
俺はヒラヒラと手を振りながら、食堂の入り口へと歩いていく。
今の関係が崩れてしまうぐらいなら、いっそのことこのままでいい。
進むこともなければ、戻ることもない。
曖昧な関係。
曖昧な感情。
今はそれでいい。
そう自分に言い聞かせ、日々過ぎていく。
「ただのチキン野郎じゃん」
食堂へと繋がる扉を開けながら、俺は小さな声で、自傷めいためいた言葉を発する。
しかし、
『きゃーーーーーーーー!!!!』
それは悲鳴にも似た声によってかき消される。
「鵤様ー!抱いてー!!!」
「今夜空いてますか!?」
「俺を抱いてくれ!」
筋肉質のスポーツマンから可愛い顔した子まで、俺を見て頬を赤らめる。
抱いてくれ、と。
人から求められるのは嫌いじゃない。
今、ここに、俺は存在しているのだと感じられるから。
「やっほー。今日もみんな可愛いねー。食べちゃいたい」
俺は再び仮面を被る。
みんなが求めているチャラ男になるために。
本当の自分を心の奥底に追いやって。
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