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第三章 狂い始め
水も滴る…?
ーーー……バシャッ!
それは突然の出来事だった。
親衛隊の子がテーブルに置いてあったマリモの水を持ち、豪快にかけた。
頭上から垂らすのではなく、顔面だけを狙って。
余すことなく顔にかかった水。
頰を伝ってポタポタと流れ落ち、ワイシャツの襟を濡らした。
「だから調子に乗んなって言ってんだよブスが!これに懲りたら、蓮夜様達に二度と近づくな!さっさと消えろブス!死ね!」
手にしていたグラスをテーブルに乱暴に置き、水をかけられ放心するマリモを睨みつけて去っていった。
親衛隊の子が人混みに紛れ、周囲の人間達が動き出そうとした時。
「おい。これはどういうことだ」
「正人!大丈夫ですか?」
「どうしたのこれ!?濡れちゃってるじゃん……タオル持ってくるね!」
いつの間にかやってきた蓮夜達が騒いでいた。
もう少し早く到着していれば現場を抑えることがでいてきたというのに、マリモも蓮夜達もタイミングが悪いというか……。
携帯小説のように現実は甘くないのだと、さくらに教えてやった方がいいな。
「おい。そこの黒髪のチビ。お前だよ、お前」
濡れたマリモを見て歯を食いしばり、怒りに震えた蓮夜が、人混みの最前列にいた一人の男に声をかけた。
ビクッと肩を震わせ、恐る恐る目線を合わせており、その姿はまるで肉食動物に襲われかけている草食動物のようで。
「お前が正人に水をかけたのか!?あぁ!?」
「ひぃっ!」
胸ぐらを掴み顔を近づける蓮夜。
恐怖のあまり質問に答えるどころではないのか、声を漏らして震えていた。
蓮夜が声をかけた男は水をかけた男とは全くの別人で、似ているのは身長の低さぐらいだった。
つまり、的外れ。
無関係の人間を問い詰めているということになる。
そして悲しいことに、標的になっているのは俺の親衛隊の子だった。
「とばっちりー。てかあの子って春都の所にいなかったっけ?」
隣にいた類が横から抱き、俺の体越しに二人を覗き込み、問いかけてくる。
「そー。怯えちゃって可哀想。間に合わなかったからって、うちの子に八つ当たりすんなよなー」
ため息をつきながら項垂れる。
次から次へと、俺にとって良くない方向へと向かっていく。
俺の親衛隊はいい子ばかりだというのに、いつも何らかの形でとばっちりを食らう。
勘弁してほしいものだ。
「聞いてんのか!」
「っ!ち、違います!僕じゃ……僕じゃありません」
涙目になりながら必死にそう訴える。
真偽を確かめるために、蓮夜は穴が空くほど見つめていた。
ーーー……ブーッ。ブーッ。
するとバイブ音が鳴り、胸ぐらを掴まれていた子が慌ててスラックスのポケットを抑え、「す、すみません」と謝る。
犯人が目の前の男ではないと思ったのか、それともバイブ音に気が削がれたのか。
掴んでいた手を離し、「チッ」と舌打ちをしてマリモの元へと帰っていく。
解放された男は床にへたり込み、安堵の表情を浮かべていた。
隣にいた友人が「大丈夫?」と声をかけ、立つのを手伝っている。
「蓮夜!タオル持ってきたよー!」
「悪いな。正人、これで顔拭け」
「……あ、うん」
蓮夜達は蓮夜達で、マリモの後処理に追われている。
被害にあった小柄な男は、友人に支えられながらもポケットからスマホを取り出し、数秒操作した所で勢いよく顔を上げた。
そして友人と言葉を交わしてからゆっくりと歩き出す。
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