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第三章 狂い始め
現実とはそういうもの
今度こそ、食堂内に音が戻ってくる。
押し寄せてくる生徒達に、料理人達は大忙し。
隼人達も「やっと食える……」と愚痴をこぼしながら、熱々というよりは僅かに冷めた料理を口に頬張っていた。
空気を読まずに食っていれば出来立てだったというのに。
可哀想な三人。
「春都様!」
残り僅かとなっていた弁当の中身を余すことなく食べ終え、一足先に片付けていると、つい数分前、蓮夜に胸ぐらを掴まれていた親衛隊の子とその友人がこちらに駆け寄ってきた。
「いっちゃん大丈夫たったー?災難だったねー」
俺はいっちゃんと呼んでいるが、本名は山中 郁人。
隣にいるのはその友人の古家 護。
二人は正真正銘、俺の親衛隊でございます。
「まさか火の粉が降りかかるとは思ってなくて……。あ、電話ありがとうございました!」
「いいえー。大好物の唐揚げ食べてたから、電子機器使っちゃったー。ごめんねー」
そう言ってニコリと笑っていると、右手で俺の腰を抱きながら、左手でご飯を食べていた類が会話に入ってきた。
器用だな、おい。
「なになに?どういうこと?」
会話の意味がわからないと、頭の上にはてなマークを浮かべながら問いかけてくる。
隼人も潤も直接聞いてこなかったが、同じことを考えていたのか二、三度頷いていた。
テーブルの上に伏せるようにして置いていたスマホを手に取り、指紋認証でロックを解除し、親指でディスプレイに触れて操作する。
そして電話の履歴を表示して、三人に見えるようにスマホのディスプレイを向ける。
履歴の一番上には“山中 郁人”の文字が。
「蓮夜の気をそらすために電話したの。血が上ってる時に予期せぬ音を耳にすると、何となく我に帰る時ない?はっ!みたいなー」
「あー……あるかも。それでか」
「そういうことー。俺ってば気が利くー」
「いや、助けに行ってやれよ」
「唐揚げもぐもぐしたまま?」
「……止めとけ」
「でしょー?」
用済みとなったスマホをテーブルに置き、再びいっちゃん達の方を見る。
「さっき野山に水かけてたの、蓮夜の親衛隊のNo.3だよね。名前知ってるー?」
欠伸を噛み殺し、頬杖をつきながら問えば、考える素ぶりもなくすぐに返答があった。
自分の所以外は興味が全くないわけなのだが、どうやらすぐに名前が出てくるほど生徒の間では有名のようだ。
「高橋 莉緒。春都様と同じく二年生で、授業の合間をぬっては頻繁に転校生に絡みに行っていると聞いています」
「まじー?暇だねー」
ここで皆様の疑問に答えよう。
前に蓮夜達が個別で教師をつけて生徒会室で授業を受けられるよう、理事長に直談判しに行ったわけなんだけど、結果は芳しくなく。
いくら親戚とはいえ、そこまで特別扱いはできないと断られてしまったわけだ。
転校初日の激甘な理事長の態度を見ていたので、てっきり許可すると思っていた。
恐らく蓮夜達もマリモも、それを見越しての行動だっただろうし。
当てが外れた、という言葉がぴったりだ。
理事長から断られてしまった以上、自分のクラスで授業を受けるしかなく、嫌がらせは継続中。
生徒会の目もある為、マリモをよく思っていない者達は、バレないよう言葉での攻撃に移行した模様。
教科書を破いたりすれば物証として残ってしまうし、蓮夜達を激昂させる材料にもなるからな。
理事長もただマリモ達の申し入れを断るだけでなく、できる限りの対策を立ててくれた。
全教員への注意の呼びかけ。
昼休みなどの見回り強化。
マリモとの定期的な面談。
確たる証拠がない以上、犯人探しのような生徒を疑う行為を表立ってできない学校側からできるのはそれぐらいだろう。
現場を押さえてしまえば早いのだが、そこまでバカではないのか、簡単に尻尾を見せることはない。
理事長も今頃頭を抱えているだろう。
ならば特別扱いにしてしまえばいいと、そういう考えが出てくるが、特別扱いしたとしても反動はあるわけで。
学校から寮までの間で事件が起きる可能性も、今以上に考えられる。
そこまで手を回すだけの人員がいないのだ。
いくら金持ちの学校とはいえ、人材は有限だ。
ほいほい湧いてくるものでもないし、お金だってかかる。
王道展開うんぬんだけでなく、現実というのは自分の思い通りになるほど甘くはないのだよ。
マリモくん。
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