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第四章 転機
どうやら王道の時もあるようで
ーーー……ブーッ、ブーッ、ブーッ。
腹の辺りで振動を感じ、目を開けたところで自分が眠りに落ちていた事に気付く。
日陰だったはずのベンチも、時間が経ったせいか日向になっており、太陽の光が差し込んでくる。
寝起きで浴びるには刺激が強すぎて、思わず手で視界を遮る。
その間もバイブ音は容赦なく鳴っており、自己主張が激しいな……と思いながらも、すぐに出る気にはれなかった。
左手に握られたままになっているスマホを暫く放置していると、数秒ほど鳴り止んでから、再び音が発せられた。
仕方なく顔の前にスマホを持っていくと、ディスプレイには“いっちゃん”の文字が。
潤達か政宗だと思っていた俺は、首を傾げながらも通話ボタンを押した。
眩しく感じていた光は、もう気にならない。
「もしもーし。出るの遅れてごめんね」
「あ!春都様!何度も電話して申し訳ありません。今よろしいですか?」
「大丈夫。どしたのー?」
体をゆっくりと起こし、ベンチから立ち上がる。
左手から右手にスマホを持ち替え、グラウンドに戻るべく歩きながらいっちゃんからの返答を待つ。
「先程、最後の競技が行われたのでご報告をと思いまして」
「わざわざありがとー。で、どうだった?予想通り?」
「……はい。残念ながら」
思い出しているのか、電話の声がワントーン低くなる。
「スタートして一番に仮設更衣室に入ったんですが、出てきたのは一番最後。着る予定だったであろうセーラー服は、胸元とスカートの前後二ヶ所。計三ヶ所、刃物によって大きく切られていて、下着が僅かに見えていました」
「切り刻む所までやらなかったのは、あえてだろうね。着れる余地を残すことで、更衣室から出てくる可能性は高いし、公開処刑できるもんなー」
「はい。笑いが起きるというよりは騒ついてましたね。靴を隠したり、教科書を切り刻んだり、大きな動きをしていなかった分、誰がやったのかが気になっているようでした」
「まぁ、そうだよねー。笑ってしまったら最後。野山目線ではその場にいる全員が加害者になるもんなー。蓮夜達が黙ってないでしょー。野山や生徒会の動きは?」
「閉会式がある為、生徒会の皆様はテントの中に。転校生は実行委員の一人と使用されていない部室棟の一室で着替えているみたいです。一人になると危ないからと、佐伯様が実行委員の方に見張りも頼んだようです」
「そっかそっかー。じゃあ今は閉会式の為に整列を開始した感じ……」
電話をしながら来た道を戻っていた俺。
マリモが着替えているという部室棟を通り過ぎれば、グラウンドがもうすぐ見えてくる。
「……春都様?どうされましたか?」
「いっちゃーん。ちょいと胸騒ぎがするんだよなー」
しかし無意識に足が止まり、先に進む気にはなれなかった。
日当たりの悪い方の部室棟を見ながら、口元を手で隠して目を細める。
何かが見えるわけでも、聞こえるわけでもない。
本当に“なんとなく”だ。
「俺が話しかけるまで、電話切らずに少ーし静かにしてて」
それだけ口にし、息を潜め、足音を消し、一番日当たりの悪い奥の部室に向かう。
気のせいならそれでいい。
無駄足になったとしても、このまま放置してモヤモヤするよりはいい。
「……わかりました」という小鳥のような声が聞こえた気もするが、返事はしなかった。
かつて日本に存在したとされる忍び……忍者のように、気配を消して足を進める。
身を屈め、扉のすぐ横にある窓から中を覗く。
「いっちゃん。生徒会メンバーと風紀委員。あと先生もいたら呼んできてー。場所は部室棟の一番奥ね。空いてる方」
「わ、わかりました」
「よろしくー」
互いに声を潜め、目の前にある光景については一切伝えず、指示だけを出して電話を切る。
「勘弁してくれよ……」
すぐに行動する気にはなれず、壁にもたれかかるようにして座り、最近発覚した己の巻き込まれ体質に呆れながら一人呟く。
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