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第五章 仮面のない生活
感謝の気持ち
「強面執事……長いから執事でいいか。色々あったのに昼食は今まで通り弁当なんだな」
全員が食事を終え、飲み物を口にしながら微睡んでいると、唐突に隼人が太一の話題を振ってきた。
言い出すタイミングを見失っていた俺に、話すきっかけを与えてくれたのだろう。
「朝起きたら朝食と一緒に準備されてた。顔会わせないように、朝早く部屋に来たんだろうな」
購買で食後に飲もうと買ったコーヒー牛乳に、ストローを刺しながら答える。
先端を口に含んで息を吸うと、コーヒーという文字が入っているというのに、甘みのある液体が口内へとやってきて、喉を通って胃へと送られる。
やはりコーヒー牛乳は美味しい。
製作者に全力で感謝を伝えたい。
ありがとうございます。
「でもさ、主人とトラブルがあったら辞表とか出してもおかしくないのに、ご飯用意したりするって異常だよな?ただの喧嘩ならまだしも、レイプだぞ?」
「自分から辞めるって言い出せないんでしょ。春都の事がすきだから、側にいたいって気持ちがあるんだよ。きっと、春都から辞めるように言われるのを待ってると思うんだよねー」
「メンタルが強いのか、春都の事を心底好いているのか」
「どっちもだよ。メンタル強くなきゃこうして続けてないだろうし、好きじゃなきゃ暴走して襲ったりしないでしょ」
座っていて腰が痛くなったのか、うつ伏せで寝転がり、頬杖をついて会話をする類。
二人も真剣顔とは裏腹に、片膝をついたり、仰向けで寝転がっていたりと、それぞれ楽な姿勢で話に参加していた。
「で?今朝、俺が同意の上?って聞いた時、微妙だなって言ったのはどうしてなの?春都くん」
胡座をかいている俺を、頬杖をついたまま鋭い目つきで見上げている。
嘘や誤魔化しは許さないと、言葉にしなくとも、目で訴えかけているようだった。
手元の紙パックに視線を落とし、秒針が動く僅かな音を耳にしながら考える。
なぜ無理矢理犯されたと言っても過言ではないのに、“微妙”などと口にしたのか。
自分のことだというのに、いざ面と向かって聞かれると、すぐに答える事が出来なかったのだ。
数十秒か、数分か。
必死に考えを巡らせていた俺には短く感じた時間も、三人にとってはそうではかったのかもしれない。
「襲われるまでの過程は聞かない。二人の問題だろうし」
痺れを切らしたのか、それとも手助けをしようとしているのか、そう前置きをしてから話し始めた。
「質問の仕方を変えるよ。春都は執事に犯されて嫌だった?それとも、嫌じゃなかった?」
どう思った?ではなく、嫌かそうでないかの二択で答えられるような聞き方。
状況を整理しきれていない俺に対する優しさなのだろう。
「嫌……ではなかった」
俺がすぐに考えを纏められず、言葉にして答えられなかった大きな理由。
紙パックを床に置き、未だに消えずに残っている手首の痕を指で撫でる。
そう。
嫌ではなかったんだ。
手を縛られ、慣らすこともせず、無理矢理犯されたというのに。
解いてほしい。
痛い。
抜いてほしい。
と考えていたし、口にした。
しかし、“嫌だ”という思いは一切抱かなかった。
それが何を意味するか。
俺にはわからなかったんだ。
「それってさ、執事のことが好きだからじゃないの?」
「は?」
しかし、類はすんなりとその答えを導き出したようだった。
そして黙って聞いていた二人も。
「……あいつを好き?」
思いもよらぬ回答に、唖然とした表情で同じ言葉を繰り返した。
俺が、太一の事を好き?
信じられなくて類の顔色を伺うが、ふざけて居る様子も、嘘をいってる様子もない。
寧ろ呆れて居るようにも見える。
「いくらずっと一緒にいた執事だったとしても、無理矢理犯されて嫌だと思わないなんてあるわけないでしょ。嫌なものは嫌って春都は口にできるし、行動にも移せるタイプでしょ。違う?」
「……違わない」
「なら、答えは出てるじゃん」
足を規則正しく上下に動かし、バタつかせている。
そういえば、あいつに“好き”と言われた時、どう思った?
犯されているというのに、必死にそう口にしていた太一を見て、痛みを感じながらも歓喜していなかったか?
「……好きだったのか。あいつを」
言葉にしてみると、心にあった靄のようなものが、綺麗に晴れた気がした。
「春都って人の心に敏感なくせに、自分の事には鈍感だよね。転校生のせいで仕事が忙しくて溜め息ばかりついてるのに気付いてないし、疲弊してるって俺らでもわかるのに、自分では大丈夫とか思ってるし。意外とバカなのかな?」
「バカなんだろ」
「バカ春都降臨!」
「潤。黙れ」
「はいはい黙るよ。ごめんってば」
散々ひどい事を言われている気もするが、嫌な気はしなかった。
これもきっと、こいつらの事が好きだから。
もちろん、太一のような恋愛対象としてではなく、親しき友として。
「お前らの事も、好きだよ。ありがとう」
俺の素直な気持ち。
自然と出た言葉。
三人は顔を赤らめながら、
「俺も大好きー!」
「好きに決まってんだろ。今更だな」
「好きじゃなきゃ一緒にいないっての」
笑いかけてくれた。
三人は大切な友人。
そして、太一は俺の大切な人。
この僅かな時間で気付くきっかけを与えてくれた事。
そして気付かせてくれた三人に、心から感謝した。
「ありがとう」
仮面を外してから初めて、満面の笑みを浮かべたのだった。
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