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第五章 仮面のない生活
突き放す優しさ
扉と同じ番号が書かれた金色のルームカード。
矢印の向きを確認してから機械に通し鍵を開ける。
日が落ちるのが遅いとはいえ時刻は六時を回っており、電気の付いてない室内は案の定暗かった。
玄関の明かりをつけ、マリモがいるであろう部屋を通り過ぎてリビングに向かう。
借りたスペアのルームカードを忘れないうちにテーブルへ置いておいた方がいいと思ったからだ。
意外にも綺麗に片付けられたテーブルの中央に置き、今度こそ部屋へと足を進める。
「入るぞ」
ノックをしてから声をかけ、返答が来る前に扉を開けて中に入る。
カーテンは締め切られており、リビングや玄関同様中は薄暗かった。
寝ているならそれで構わない。
むしろ寝ていてほしいとさえ思った。
そうすれば行ったけど寝ていたと蓮夜達に言って終われる。
何も解決はしないがこいつが傷付く事もない。
無言でベットに腰掛ける。
「……春都先輩?」
つくづく思う。
こいつが関わる事は俺の思い通りにいかない、と。
「あぁ」
布団を退かして様子を伺う事もせず座ったまま。
太腿に腕を置いて耳だけを傾ける。
気持ちに答えられないのなら優しくすべきではないからだ。
「俺さ、背が低くても容姿が良かったから昔から男女問わずにチヤホヤされててたんだよね。喧嘩が強くなってからは“黒犬って呼ばれて不良達にも興味を持たれるようになった。どいつもこいつも上辺だけの付き合いだったけど」
マリモは何を思ったのか自分の過去を話し始めた。
「両親は喧嘩ばかりで俺に興味なんてなかった。父親が暴力を振るうようになって、親が離婚して。喧嘩をする事も嫌になってた頃にこの学校に来ないかって言われた。見た目が違うだけでこれだけ蔑まれるんだなと感じていた時に蓮夜達と出会ったんだ。
上辺じゃなくて俺を見てくれた。好きだと言ってくれた。それが嬉しくて周りの声なんか気にせず側にいた」
ここまで聞いていると、さくらから聞かされた王道ストーリーのように三馬鹿トリオの誰かとくっつく流れだというのに。
「最初は政宗先輩がかっこよくてこの人が好きだ!って思ってたのに、仕事をしながらも俺の方を時折見ている春都先輩が気になって気づいたら目で追ってた」
どうしてこうなってしまったのか。
「口調は緩いのに俺を見つめる目はどこか冷めていて。それなのに何故か嫌な感じはしなくて、むしろ優しさの裏返しなのかもしれないと思うようになった。勘違いかもしれないのにね」
そのまま蓮夜達の誰かか、もしくは全員を好きになっていれば総受けハッピーライフがお前には待ち受けていたというのに。
俺の存在がそれを邪魔してしまった。
「ねぇ、春都先輩」
マリモは被っていた布団を手で押しやり、ベッドに座る俺に後ろから抱きついてきた。
首に回される手。
蓮夜の服をきているからか袖が何度か捲られており、ワンピースのような形できているのか裾から白い足が見えている。
「助けてくれてありがとう。やっぱり俺、春都先輩の事が好きだ」
俺の背中に囁くマリモ。
「お願いだから……俺を抱いて。気持ちが無くてもいい。何でもいいから、あいつらの記憶を上書きして…っ、ほし……。側に…っ、いて」
首に回された手も必死に訴える声も震えていて。
あの日の記憶を思い出しているのは容易に想像できた。
特定の人を作らず親衛隊に望まれれば新人でも構わず抱いていたけど、あの時とは心境が違う。
そう簡単には頷けない。
「俺さ、好きな人ができたんだよ」
酷い奴だ。
泣いてお願いしているんだから一度ぐらい抱いて慰めてあげればいいじゃないか。
世間の奴らはそう言うのだろうか。
「お前が俺を好きなように、俺もそいつが大好きだ。そいつ以外は抱かない。例えそいつに良いと言われても、絶対に」
慰めるのも一つの優しさ。
それでも、突き放す事も優しさだと思うから。
「ごめんな」
そう言ってマリモの手を軽く叩くと、首に回されていた腕は解かれた。
「慰めて……くれないの」
「俺には大切な奴がいる。だからできない。でもお前のことを大切だと思っている奴等もいる。それはわかってやってほしい」
「……っ、…ぁ」
俺はそれだけ口にして、泣き崩れるマリモを置いて部屋を後にした。
昔も今も泣かれるのは……苦手だ。
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