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終章 輝きを増す銀獣
★復帰、そして変わらぬ光景
「あーーーーー!!!春都!春都だ!おはよー!!!!」
開けっぱなしの扉から教室へと一歩足を踏み入れると、すぐさま名前を呼ばれる。あまりの大きさに思わず足が止めた。
視線を向けると、類が満面の笑みで手を振っているのが見えた。
「はよ」
俺の席に群がる三人を押し除け、机に鞄を置きながら挨拶を返す。
事前に連絡していたのだから来ることはわかっているし、叫ばなくてもいいだろうに。
心の中でそう呟くが、“待ち侘びたぞ”と言われた気がして嬉しくもある。
「久々に顔色いいな」
「うんうん!たっぷり寝れたみたいだね」
「目の下の隈はまだあるけどなー」
それぞれが俺の顔を覗き込み、頭や肩、背中を撫で回してくる。
「一日中ベットにいたからな。久々にゆっくりしたよ」
「でも今日からまた生徒会だろ?」
「……まぁな」
見慣れたくもない光景を思い出す。
どうやら顔に出ていたらしく、「皺」と眉間を突かれる。些細な動きだろうに、よく気づくなお前たちは。
自分が思っている以上に三人が俺を見てくれていて、仮面を外した後の僅かな変化さえ気付いてくれる。それが何よりも嬉しい。
「あ、喜んでる」
「慣れればわかりやすいよ、春都は」
「うんうん。風紀委員の奴も何だかんだ気にしてたし、わかってると思うぞ?」
「へー」
「照れてる」
「解説しなくていいから」
席について一時間目で使う教材を準備する。
昨日もあった教科だが、昨夜のうちに誰かがノートを持ってきてくれていた。そのお陰で内容は把握できたので不安はない。
「隼人、ノートさんきゅ」
春都って意外と照れ屋だよなー、なんて類と話している隼人にノートを差し出す。何度か目を瞬かせて頰を書いた。
「おう。よくわかったな」
「お前、意外と字綺麗だよな」
「ちょっと?意外って言うのやめて?わかるけどさ」
受け取ったノートで俺の頭を叩く。わざとらしく痛いと口にすれば、嘘つけと返される。
隼人は雑そうな雰囲気……いや、実際大雑把なんだけど、その割に字が綺麗だ。
類は見た目に反してミミズみたいな字を書く。丸くて可愛らしい字を書きそうだと予想していたので、期待を大きく裏切られたのを覚えている。
「見やすかった」
「……おう」
叩いた名残で近くにあった手をポンと叩けば、照れくさそうに離れていく。照れ屋はどっちだ、と言いそうになるのをグッと堪えた。
「……チッ」
隼人のノートで問題なく授業を受けられた俺は、一日振りに魔の空間に足を踏み入れていた。
舌打ちは空気に溶け、まるで何もなかったかのように消えていく。
俺は終了のチャイムが鳴ってすぐにここへ来たはずだ。ということは、それよりも前からということが理解できてしまって頭が痛い。
「奥!奥…いぃ…んぁっ…あぁっ!」
「……っ、ここ好きだよな?」
「すぎぃ……あひっ、あっ…っ、イっちゃ、イっちゃう!」
勝手にイけ、と心の中で悪態をつく。
俺が休んでいた日も授業や仕事なんてお構いなしに盛っていたのだろう。今日のように。
入り口から自席へ行くまでの道のりで、蓮夜のブツを飲み込んでいる部分が見えた。
隙間から溢れる液体がソファにシミを作っている。一回でそうなるはずもないので、抜かずの何回戦目かを目撃させられているのだろう。
「……チッ」
何度目かわからない舌打ち。
苛立ちを隠す気も、そうする必要さえも感じない俺は、淫らな音が響く部屋を早々に立ち去るべく状況把握に努めた。
テーブルの上に置かれている紙の山。
一昨日かなりの量を風紀室に持ち込み、倒れた後も風紀委員と政宗が処理してくれたはずなのにこの有様。
三人の机は数日前から何も変わっていない。状況が、ということだけではない。一番上の内容も、だ。
それが意味するのは仕事が何一つ進んでいないということで、追加書類は俺の机に全て置かれているという最悪な現実が目の前にある。
増えた山から適当に選んだ一枚を手元に引き寄せる。
“終業式までに頼む”
俺が使っているメモ紙に殴り書きでしたであろうそれを見て、呼吸と同じぐらい自然に舌打ちした。
自分の仕事を押し付けたり、ミスしたものをバレないように訂正させたりするハゲ教師の字。無能な癖に見栄ばかりはりたがる糞みたいな男。
仕事に追われている風紀委員も政宗も捕まらなかったのだろう。
直接ここに来たことがメモ紙でわかる。
「教師も容認……か」
理事長と仲がいいからどうにもできないと諦めているだけか、仕事さえ滞らなければなんでもいいのか。
この地獄のような日々は、いつまで続く?
「正人……っ、俺の後ろにも……早く」
床に両膝をついたあおちゃんが、前屈みになりながら両手で尻を掴んで強請る。
息絶え絶えな正人は狂気的な笑みを浮かべてソファから立ち上がった。
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