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終章 輝きを増す銀獣
ちょっとした変化
「おかえりなさいませ」
パタパタとスリッパの音をたて、奥の部屋から出迎えてくれる。久々の光景に思わず笑みがこぼれた。
太一が開けたであろう扉から、僅かに食欲をそそる香りがする。
「カレーか?」
「ええ。一日しっかり休んだご褒美です」
靴を脱ぎながら問い掛ければ、流れるような手つきで学校指定の鞄を奪われる。
そこまでする必要ないのに。太一の背を見ながら思う。
着替えて奥の部屋に向かうと、テーブルの上に食事が二人分用意されていた。
首を傾げて立ち止まっていると、飲み物を持った太一が目尻を下げて微笑む。
太一は執事という立場上、一緒に食事をとることはない。俺の要望で話し相手として席にはつくが、それだけだ。基本的に俺の帰宅前か部屋に篭った後に食事をしているはず。
困惑が顔に出ていたのだろう。飲み物をセッティングし終えた太一が、動けずにいる俺を手招きする。
小走りで駆け寄り席に着く。料理と対面に座る太一を交互に見つめる。
導き出した答えが合っているのか。その一点が気になって仕方がない。
「晴れて恋人になったんですから、おかしくはないでしょう?」
スプーンを手にし、呆気からんと言う。そのたった一言で今日の心労が吹き飛んだ。
“あぁ、関係性が変わったのか”と改めて実感する。
「いただきます」
「……い、ただきます」
生徒会室と自室。感情の落差がありすぎる。戸惑いからか、言い慣れたはずの六文字を言い淀んでしまった。
大好物のカレーを口に運ぶ。文句のつけようがないほど絶品だった。
食事に集中したいのに、太一が食事をしている事実が邪魔をする。
「見過ぎです」
クスクスと口元を隠しながら笑う。
幼馴染なのだから、食べている姿だって何度も目にしている。だけど……なんというか、
「嬉しいんだ」
胸が暖かい。
心が満たされるような、そんな感覚。幸せだと即答できるほどに晴れやかだ。
「その顔は……反則ですね」
「どんな顔だよ」
「内緒です」
「おい」
教える気がない太一の脛を足先で蹴る。
「足癖が悪いですね」
「隠す方が悪い」
他愛もない会話が続き、あと少しで食べ終わる。そんな時だった。
「……っ!」
数時間前に刺激された場所を撫でられる。犯人は一人しかいない。
目線を上げれば、先に食事を終えた太一と目があった。グラスに注がれた水を口に含み、音をたてて飲み込む。
わざとらしい行動と熱のこもった視線。意味することなど容易に想像がついた。
「……太一」
「なんです?」
「足癖が悪い」
「……ええ。そうですね」
上下させるだけでなく、押し込むように指先を動かしてくる。頭に浮かんだ答えは正解なのだと確信した。
残りのカレーを押し込む。いや、飲み込んだと言ってもいい。
「っ、春都様?」
空になった二人分の皿を台所に持っていき、水につける。無言で立ち上がった俺を見て何を思ったのか、震えた声で名前を呼んだ。
並々まで注いだ所で水を止め、洗い物などせずに太一の元へと向かう。
「あの春、」
最後まで言わす気はなかった。それほど切羽詰まっていたのだ。
「んっ、……ふ…」
久々に重ねた唇はカレーの味で、満腹だというのにもっと欲しくてたまらなくなった。
「……太一」
すぐにでも触れられる距離で呼べば、潤んだ瞳で首に腕を回す。了承は得た。
再び口を触れ合わせるとゆっくりと立ち上がる。腰をいやらしく擦り付けながら片足を床から離す。
お尻の下に手を回すと反対の足も宙に浮き、腕と同じように背後で絡んだ。
体制を整えるために弾んで抱え直すと、自分のモノに刺激が加わったのか「んっ」と甘い声を漏らした。
「……っ、春都様ぁ」
「煽るなバカ」
惚けた顔で見つめてくる太一にそう呟き、俺は落とさないように気をつけながら自室へと向かった。
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