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終章 輝きを増す銀獣
愛する銀獣
「おい。まだ買うのか」
紫外線、日差し、汗、熱気、人混み。
そんな中連れ回されている俺達。両手には大量のショッピングバック。滝のように流れる汗を拭うこともできない。
「あと二件!あと二件だけ!」
陳列された商品を眺めながら言う。
店に入れば冷気が俺達を迎えてくれるが、決断が早いさくらのせいで長居できない。汗が引く前に移動するので涼しさを堪能できずに終わる。
さすがの太一も笑顔が崩れており、ふーっと息を吐きながら空を仰いでいた。
「太一。もう移動っぽいぞ」
「もう?……あんなに買うの?」
「使い切れんのかよ、あれ」
「合わなかったやつ、回ってくるんじゃない?」
「……俺達の肌艶もよくなりそうだな」
買い物カゴに放り込まれた商品を見て溜息をつく。
パック、化粧水、乳液、コスメ。さっき買ったのと何が違うのか、男の俺にはわからない。
高校生がそんなに買っていいのか。さくらにとっては愚問である。
「カードで」
普段ショタ攻めは地雷だとか、強面受け最高だとか、涎垂らしてよがる男は神への供物だとかわけわからないことを言っているけど、都内のお嬢様学校に通うご令嬢である。
両親はお金持ちで、やる事さえやっていれば口出しはしてこない放任主義。だからこうして長期休みに爆買いを決行する。
「あー!買った買った!」
「こんなに買うなら執事呼んどけよ……」
「迎えにはくるから大丈夫!」
「それまで俺達が荷物持ちか」
「そういうことー!」
最後の店で買い物を終えたさくら。自由に座れる椅子に座り、俺達二人はようやく一息つく。
さくらも常に動いているはずだが、首から下げている小型扇風機みたいな物でマシなのだと自慢げに話している。
「飲み物買ってくる。何が良い?」
「スポドリ」
「炭酸!」
「わかった」
荷物を俺の周りに置き、自販機がある店の入り口へと向かった。
「いいじゃん。銀髪」
足をバタつかせながら言う。
前回会ったのが春休み。そこから久々に会うのだから当然か。
「ねぇ、春都」
「なんだよ」
「太一と付き合ったの?」
小型扇風機を顔面に向けながらこちらを見ている。
疑問形ではあったけど、どこか確信があるような声色だった。
「あぁ」
「そっか」
電話では今日もヤったの!?と遠慮なく聞いてくるのに、今日は違うようだ。何度もそっか、と噛みしめる様に頷いている。
「太一はね、昔から春都のこと好きだったんだよ」
「知ってる」
「うん。そうだよね」
さくらのいう昔からというのがいつなのかはわからない。少なくとも、太一が高校生で俺が中学生の時は確実にそうだった。
太一から向けられる視線が、表情が、あいつが俺に向けてくれていたものに似ていたから。
「ようやくか」
「ようやくだな」
「大切にしないと殺すから」
「……太一強火担?」
「その単語よく知ってたね。えらいえらい」
汗でどうせ落ちるからとノーセットの髪を乱暴に撫でる。汗が完全に乾ききっていないのに、嫌な顔せずに手を乗せたままだ。
「さくら。それ、俺の特権」
「はーい。ごめんごめん」
戻って来た太一がさくらを咎める。会話を聞いていたのか、隠そうともせず俺のすぐ隣に座った。
「近い」
「いいじゃん」
「暑い」
「涼しくなるよ」
荷物を床に置いているのをいい事に、人目も気にせず手を繋いでくる。
「ほー!イケメン同士の絡み。眼福眼福」
「写真を撮るな腐女子」
「イケメンカップルの需要をご存じない?今夜のおかずにします」
「やめろ。気色悪い」
言い合いをしている間もニコニコと笑っているだけで手を離す気配がない太一。きっとさくらが行こうと口にするまでこのままなのだろう。
「ねぇ、春都。太一」
ペットボトルのキャップを閉めたかと思えば、真剣な表情で俺達の名前を呼ぶ。
「二人は今、幸せ?」
質問の意図は何なのか。目を反らすことなく考えてみたけど思いつかなかった。
繋いでいる手を更に強く握る太一。
視線を向ければ、不安そうではあるが、太陽にも負けないぐらい熱のこもった目でこちらを見ていた。答える気配のない俺を心配したのだろう。
垂れた耳と尻尾が見えた気がして、思わず微笑む。
そこでようやく太一が表情を崩した。嬉しくて仕方がない。そんな顔。
「「幸せだ(よ)」」
喧嘩して、すれ違って、気持ちをぶつけ合って、ようやくこの関係に辿り着いた。幸せ以外の言葉で表す方が難しい。
「それならよ、ゲフゥゥゥ!」
満面の笑みのさくら。よし、と言い切る前に女性らしからぬゲップが出た。
「しまんねーな」
「うるさいな!炭酸飲んだから仕方ないの!」
「三口飲んだだけで出すなや」
「出ちゃったんだもん!」
「空気よめねーな」
「生理現象!」
「はいはい、うるさいよ。少し黙ろうか」
睨みあう俺達を引きはがす太一。文句を言おうと振り向くと、唇に柔らかい物が触れた。
何度も経験したことだけど、ここは寮部屋でもなく同性愛が多いうちの学校内でもない。公共の場だ。
「ひぇ。イケメン同士のキス。尊い……」
「静かになったね。ほら行くよ」
自分の分の荷物を持って歩き出す。
「……後で覚えてろよ」
「後で!?寮に帰ったらムフフ、アハハ、イヤーンな展開があるってこと!?ちょ、テレビ電話、」
「「しません」」
「なんでー!?!?!?」
シリアスな空気は俺達には似合わない。
「好きだよ、ハル」
「俺も」
背を向けたまま呟く太一に、駆け寄ることもせず同意する。
走って回り込まなくても、照れているのは耳を見ればわかる。
「はぁ……壁になりたい」
さくらの言葉は無視し、太一の背中に改めて好きだと告げる。耳だけでは収まらず、首まで赤くなった。
そんな太一が、世界で一番愛おしい。
-Fin-
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