右見ても左見てもクズ男とチャラ男!愛され迷惑!

有沢真尋

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第2章

6 第二回配信に向けて反省会!

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*街のひとの声*

“これまで遠い存在だった第一騎士団の皆様が大変親しみやすく感じられて、とても良い試みだと思いました。これからも末永く番組を続けていただけますように。毎日神に祈りを捧げています”

「神……? 出だしと空気変わりすぎじゃないか」

“ヴィンセント様お顔が良すぎて神”

「え、神はヴィンセントなのか!?」

“ヴィンセント×ニコラスお兄様胸熱。もっといちゃいちゃして欲しい”

「私はべつにいちゃいちゃなどしていない。いったい、何が見えているんだ」

“ランドルフさま推し……! 張り付くシャツに浮かんだ筋肉よすぎる寿命のびるありがたい”
“レインくんとの体格差やばい”
“見ているだけで肌が潤うたすかる”

“今回セリフはなく、端に映っていた黒髪の騎士さま、誰かに似ていたように思います”

“クライヴ様ほとんど声だけだったけど、魔道具の前で顔出ししてアイザック様と絡んでほしい~~~~~~~”

 * * *

「肌は……潤わないですよ?」

 第一回「第一騎士団の日常」の配信を受け、第二回に向けての会議が開かれた。
 配信後にしかるべき手段で集められたという街の声を記したメモを見ながら、訝しげな顔をしたランドルフが発言をする。
 ヴィンセントも真面目な顔で「ですよね」と相槌を打った。

「配信というのは、画面に映る映像を受信機を通して視聴するものですよね。いくら魔道具だからって、遠隔操作で回復魔法を放出するような超技術は搭載されていないはずです。そもそも現在の第一騎士団には回復魔法を持っているのは二人しかいませんし第一回には顔を出していなくて」

 任務時間外で手のあいている者としてその場に呼ばれた他の団員たちも「どういうことだ?」「意味がわからない」と言い合って首を傾げていた。
 特別参加のアイザックが、くすっと笑いながら言う。

「私が思うにこれは『若い男たちが仲良くしている光景を見ていると、老化が止まりそう』とかそういう意味なんじゃないのかな。実際の効果は知らないけど」

 まだ納得いかない様子の面々を見回しつつ、手元にあったメモを持ち上げて目を通す。にこりとしながら、声に出して読み上げた。

「“騎士なのにクズ男とチャラ男エロい最高すぎる。妊娠させられる”これはランドルフとニコラスのことかな?」

 すぐさま、眼鏡の奥の目をひん剥いたニコラスが反応した。

「はーっ!? どんな妄想ですかそれ。俺がいつ誰を妊娠させたって。な、ランドルフ!!」
「そうですよ。エロいって俺のどこが……」

 いかにも心外そうに反論しかけたランドルフであるが、表情を暗くして俯いた。「どうした?」とニコラスが声をかけると、深刻そうな声で答える。

「配信されていることをすっかり忘れて、上着を脱いでしまった。とても……とても淫らな印象を与えてしまったことだろう。俺はあの一件で、誰かを妊娠させてしまったかもしれない」
「そんなわけないだろ? お前はいったい何を言っているんだ?」

 冗談も休み休み言え、とニコラスは肩をそびやかした。その様子をまるで微笑ましいものを見るような目で見ていたアイザックが、別のメモを手にして口を開く。

「第一回は、ニコラスが大活躍で出ずっぱりだったせいか特に反響が大きい。“眼鏡のお兄ちゃん騎士さま顔面強。ヴィンスくんのお兄ちゃん? それとも弟か妹が実際にいるのかな? 絶対兄弟で美形。共演してほしい”」

 めきっと音が鳴る。下を向いたニコラスが拳を卓にめりこませていた。
 ぶつぶつ言いながら眼鏡のブリッジを指で支えつつ顔を上げ、アイザックに凍てついた視線を投げかける。

「家族の詮索って最低では? 俺に弟がいようが妹がいようが関係ないですよね? 俺が画面にいるときは俺だけを見ていればいいんですよ」

 あれ~? とアイザックは笑顔のまま間の抜けた声を上げた。隣に座っているクライヴに「キャラ変わってない? 彼、もう少し礼儀正しい感じだったよね?」と尋ねる。

「たぶんあれがニコラスの本性なんだが、無礼講の場でも滅多に見せない。珍しい」

 それを聞きつけたランドルフが「ん?」と不思議そうな顔をした。

「学生時代はいつもこの感じでしたよ。たしかに、騎士団所属になってから猫かぶってあまり見なくなりましたが。俺の前ではいまでも大体こうです。あれ、俺だけなのか?」

「それ、採用」

 アイザックが素早くその発言を拾う。「採用?」と聞き返したランドルフと、苛立ちを隠さないニコラスへ向けて計算高さを感じさせる表情で言った。

「『みんなには礼儀正しいあいつが俺にだけ見せる顔、くだけた態度』はポイント高い。第二回はそのへんフォーカスしていこう」

 待ってください! と、ヴィンセントが焦った様子で割って入る。

「ニコラスお兄様がチャラ男からちょい悪にキャラ変ですか? じゃあ、自分チャラ男やります。やらせてください! ニコラスお兄様の分まで俺がチャラく頑張りますんで!」

 食い気味で発言をするヴィンセントに対し、ニコラスが嫌そうな顔で「お前には無理だ」と牽制をした。

「おとなしく普段通りの弟キャラでいろ。チャラ男は俺だ俺、いいからおとなしく任せておけ」
「お兄様……」

 きゅんとした表情のヴィンセントに対し、ニコラスは深いため息をついて「お前の兄貴じゃねえよ」とぼやきつつ、アイザックとクライヴへ目を向ける。

「ここに集められた『街のひとの声』がどの程度実際の視聴者の趣味嗜好を反映できているものかわかりませんが、レインくんへの注目度は高くないみたいですね。元々正規の団員でもないですし、このまま人気が伸びないようなら配信メンバーから外してしまっては?」

 その鋭い指摘に対し、アイザックは「それなんだけどね」と苦笑いを浮かべて切り出した。

「レインくんはレインくんで注目を集めてしまっていて……。ちょっと頭を悩ませていたところなんだよ。その……上着を脱いだのがかなり効いてしまったようで」

 言い淀むアイザックの横で、クライヴがメモを手にして読み上げる。

「“色白の頬を真っ赤にして腹筋していたレインくんエロ可愛い。華奢過ぎる。あのままランドルフさまに押し倒して欲しかった”と……こう、それ以外にも他の団員との絡み熱望論がすごくてな……。配信はご家庭向けだし普及しているといっても現在のところ貴族階級か富裕層までで、視聴者は『第一騎士団に興味津々』のご令嬢方のつもりだったんだ。ここまで露骨な感想がくるのは少し予想外で」

 ガタッと音を立てて椅子を蹴倒し、ニコラスが立ち上がる。

「うちの……うちのレインくんをエロい目で見てんじゃねえよ!」

 うぉぉぉぉ、そうだそうだ!! と他の騎士たちまで立ち上がった。全員体格に恵まれた戦闘職で、本気の殺気を放つとそれだけで凄まじい迫力がある。

「レインくんは俺たちが守る!!」

 一致団結し心をひとつにした様子の団員たちを、クライヴは生温かい目で見ていた。
 その勢いで修練場まで走り込みに行きそうな空気の中で、アイザックが釘を刺す。

「ひとまず、レインくんにこの内容を伝えるとショックを受けるかもしれないから、まだ伝えないつもりだ。ただ、思った以上に危険性があるのはわかったので、ぜひとも団員たちの奮起に期待したいところだ。大切な新人騎士レインくんを守れるのは、お兄さんたちだけだ。頼んだよ」

「全力を尽くします!!」

 ニコラスが力強く宣言し、敬礼をした。他の者たちも同じく誓いの言葉を口にする。レインことルイス本人が不在の場で「騎士の誓い」叩き売り状態である。全員叫ぶだけ叫んでから「よし、今日もやるぞ!」と勇ましく声をかけ合って出て行った。体を動かさずにはいられない熱気そのままに、トレーニングを始めるらしい。

 見送ってから、クライヴが腕を組んで「ふーむ」と声に出して言う。

「その『街のひとの声』の入手ルートだが」

 アイザックは「副団長にだけは教えておきますよ」とすぐさま返事をした。

「私の年の離れた妹が協力を申し出てくれまして、女性たちの集うサロンで番組の宣伝をしてくれたんです。皆さん必ず視聴すると言ってくださったそうで、配信後の反応を聞いてきてくれたんですけどね……。こう、女性だけの場という油断なのでしょうか。大胆な発言も多かったみたいで。入手ルートは、騎士団員たちへは明かしません。女性たちもまさか本人に知られるとは思わず話していたのでしょうし、これはあくまで匿名で処理ということで」

「そうかそうか。まあ……もともと女性ウケを計算していたとはいえ、ここまでドンピシャな反応だと複雑な気持ちもあるが。女性の目で見てもレインくんの正体が見破られていないなら、そこは良かったのかな」

「そうですね。華奢な美少年だと思われているからこそ、嫉妬されることもなく受け入れられているのでしょう。このまま、素性は絶対に隠し通さねばなりません」

「了解。前回は俺もあいつの大胆さにびっくりした。今後、不用意に薄着になるなとあらかじめ言っておいたほうがいいだろうな。あいつは危なっかしい」

 ですねー、と言いながらアイザックは笑った。「真面目で周りが見えなくなるタイプだから、こっちが気をつけていないといけないですね」と。
 その笑顔を見てから、クライヴは何気なく手にしていたメモ紙に目を落とした。

“副団長とアイザック様の掛け合い好きすぎる。絶対付き合ってる。年長組の濃厚な絡みも見せて欲しい~~!!”
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