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第十章 食事は大切に
物理で女子会(前編)
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「きちんと応答はあるんですね。無ければ無いなりのことをしないといけないかと思っていました」
ドアの前でロイドに声をかけ、「ほっといて」という返事を聞いたジュリアの一声であった。
(アゼルこっち見ないで)
アレ連れてきたのあんただよね? と言わんばかりの目が痛い。厳密にはアレクスがどこかから見つけてきた人だが、すでにジュリアの身元を引き受けた立場として、それは言い逃れでしかない。
「無いなりのことって」
クライスはずきずきする額を手でおさえつつ確認する。
コツン、と手首のスナップきかせた拳で軽くドアを叩いたジュリアが、表情も変えずに言った。
「簡単に壊せますよ、これ」
「壊せ……っても、壊さっない、よね? 高いからね? 弁償しきれないからね? しかもいま微妙に勤務中とも言い切れないから、任務遂行上やむを得ずって言い訳が通用しない。ただの破壊行為」
王宮勤めが長い先輩として、こういうところからちゃんと教育しないと、とクライスは言い募る。
ジュリアがほとんど瞬きもせずに見下ろしてきた。
「ここ、第二王子の部屋なんですよね。王子ではない人に占拠させておいていいんですか? 一日中、王宮の衛兵は何をしていたんですか? 全員、城下の鎮圧に出ていたわけじゃないでしょう。通常業務にあたっていた者はきちんと業務を遂行すべきでは?」
クライスは、笑みを顔に張り付けたまま、よろっとよろめいてアゼルにぶつかった。「ちょっと」と言いながらも受け止められたので、そのまま肩に顔を埋めてみた。
「泣いていい?」
「だめよ。なんでよ。あのくらいちゃんと反論しなさいよ。当の第二王子が『彼女がいいようにして』って言い残して行ったから、誰も手出しが出来ていないわけ。でもさすがに周りが困っていて、わたしが『あー、わたし知り合いなんだよね』って言っちゃったから頼み込まれたけど、全然説得聞かないし。で、あんたよ。『クロノス王子』を女のロイドと取り合っているわけでしょ? なんか言ってやったらどうなのよ」
アゼルにまくしたてられて、クライスはゆっくりと顔を上げた。
「取り合っているわけじゃないんだけど……」
途端、アゼルががしっとクライスの両肩に手を置いて力強く自分からその身を引き剥がし、目を見て言った。
「そうなの? ちゃんと振ったの? 自分は恋人がいるんで他あたってって『クロノス王子』に言った?」
「クロノス王子、知ってるから。僕のそのへんのこと。べつにいまさら言わなくても」
「あんたのそういうとこ!! 前から思っていたけど、そういうところほんっとうに嫌!! 『気の無い相手を振るのは優しさです』ちょっと復唱してみて!!」
「言わなきゃだめ?」
「だめに決まってるでしょ、わかるまで十回は言ってよね!!」
クライスは迂闊にも口を開きかけた。
ひゅうっと冷気が頬に吹き付けてきて、そのまま硬直する。
なんとか振り返ると、無言のジュリアと目が合った。
――暇なの?
(怒ってる。あれ絶対怒っている。復唱二回目あたりでブリザードがくる。むり。アゼルよりあっちが怖い)
放置したが最後、「廊下に立っていても先に進みません」の勢いでドアを壊される。
それが一番やばい。
「ロイドさん、僕です。少し話しませんか。クロノス様もルーク・シルヴァも姿が見えないんですけど、何か聞いてません?」
ドアに声をかけると、即座に返事があった。
「クロノスの恋人じゃないオレが行先聞いていないのはさておき、なんでお前はルーク・シルヴァに大切な話をしてもらってないの」
(うわぁ。普段大人なひとがこじらせると、こんなに抉りにくるものなの?)
「そもそも、その二人が一緒にいるとも限らないと、僕は思うんですが」
「この状況で? それはないよね。別々に出て行く理由がないし」
「リュート、ええとルーク・シルヴァはさぼり癖があるから!! 裏庭で寝てるかもしれないし!!」
「この状況で? 日中、襲撃もあったのに? そこまであいつ馬鹿じゃないよ。そこはわかってあげなよ、恋人なんだから」
(いちいちつっかかるなぁ)
普段のロイドなら絶対言わない気がする。よほどクロノスとの仲がよろしくないのか。
そこまで考えて、よせばいいのに、思ったままのことが口をついて出てしまった。
「ロイドさん昨日一晩殿下と一緒だったんですよね。何もなかったんですか? 発情していたのに?」
ジュリアに、身体の前にぐいっと腕をまわされてその場から退避させられた。
もちろん、クライス自身も空気が変わったのは気付いていたが、魔法の素質があるジュリアとアゼルの反応がより早かった。
ドアが青白い冷気を放ちながら、パリパリと音を立てて氷結していた。
「あんた喧嘩売りにきたの?」
薄い光の膜を展開しながら、アゼルがクライスを見る。
クライスは、ここぞとばかりににこっと笑ってみた。
「僕とロイドさんの今の関係性なら、こうなっても仕方ないよね?」
「ロイドが余裕ないのは見ての通りなんだから、あんたが気遣わなくてどうするの?」
「正論だね」
「殺す!!」
やりあっているアゼルとクライスをよそに、ジュリアはドアに向かって進み、肩越しに振り返る。
「面倒くさい」
「ごめん」
「私は無関係の通りすがりみたいなものですし、事情もわかっていません。『問題の解決だけ』なら余計な心情を挟まないので適任では? 上司、一言命じてくださればいいんですよ。中の奴を黙らせろと」
「命じないよ~~、命じないからね~~!? 黙らせついでに息の根を止めるつもりだろうけど、そういう不慮の事故はやめてね!! あと、ロイドさん強いから!!」
ジュリアのまなざしに、剣呑な光が宿った。
「面白いですね。強い人は好きですよ」
「僕が悪かった!! ごめんなさい、いってきます!!」
今さらながらに、ノックしようと拳を振り上げた。
瞬間、ジュリアのブーツを履いた足がズバン、とドアを蹴り上げた。
「手、凍りますから。素手じゃまずいです」
「あ~~う~~ん? そうだね~~?」
たまりかねたアゼルが、口の両側に手を当てて、声が響くようにしながら言った。
「もうやだーーーーっ!! ロイド、美味しいもの食べよーーーーっ!! アレクスにお願いして豪勢なご飯用意してもらうから、女子会しよーっ!!」
一方ジュリアと言えば、急に眉をきゅっと寄せて切ない表情になって頷いていた。
「本当に、お腹空いた……」
「あっ!! そうだよね!! 確か旅の途中で王都入りしていきなり戦闘だった上にまだご飯食べてないんだよね!! 死んじゃうよねっ!! ごめんねっ!!」
こんな美人部下にひもじい思いをさせて悪かった、という思いで叫んでしまった。
女性や儚げなひとに優しくしたい気持ちはふんだんにあるクライスである。ジュリアは儚くはないが、お腹を空かせた状態で長く置いておきたくない。
世の中にはお腹が空いてイライラしてしまう人もいるので。
ジュリアがそうである可能性は捨てきれないが、先程から何事も「物理」で解決しようとしているのを見るに、もしかしたら。
(ジュリア、お腹が空いて、ちょっぴり短絡的になっているだけかもしれない。魔物を一人で十数体撃破すればお腹空……)
思考がそこで一時停止した。
「ジュリア、元気だよね。体力無尽蔵……?」
そもそもなんでまだ動けているの、この人。
万全の状態ならどれだけ強いの。
笑顔で言ったクライスに対し、ジュリアは落ち着き払った声で、答えた。
「ごくごく普通の人間ですよ」
ドアの前でロイドに声をかけ、「ほっといて」という返事を聞いたジュリアの一声であった。
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「簡単に壊せますよ、これ」
「壊せ……っても、壊さっない、よね? 高いからね? 弁償しきれないからね? しかもいま微妙に勤務中とも言い切れないから、任務遂行上やむを得ずって言い訳が通用しない。ただの破壊行為」
王宮勤めが長い先輩として、こういうところからちゃんと教育しないと、とクライスは言い募る。
ジュリアがほとんど瞬きもせずに見下ろしてきた。
「ここ、第二王子の部屋なんですよね。王子ではない人に占拠させておいていいんですか? 一日中、王宮の衛兵は何をしていたんですか? 全員、城下の鎮圧に出ていたわけじゃないでしょう。通常業務にあたっていた者はきちんと業務を遂行すべきでは?」
クライスは、笑みを顔に張り付けたまま、よろっとよろめいてアゼルにぶつかった。「ちょっと」と言いながらも受け止められたので、そのまま肩に顔を埋めてみた。
「泣いていい?」
「だめよ。なんでよ。あのくらいちゃんと反論しなさいよ。当の第二王子が『彼女がいいようにして』って言い残して行ったから、誰も手出しが出来ていないわけ。でもさすがに周りが困っていて、わたしが『あー、わたし知り合いなんだよね』って言っちゃったから頼み込まれたけど、全然説得聞かないし。で、あんたよ。『クロノス王子』を女のロイドと取り合っているわけでしょ? なんか言ってやったらどうなのよ」
アゼルにまくしたてられて、クライスはゆっくりと顔を上げた。
「取り合っているわけじゃないんだけど……」
途端、アゼルががしっとクライスの両肩に手を置いて力強く自分からその身を引き剥がし、目を見て言った。
「そうなの? ちゃんと振ったの? 自分は恋人がいるんで他あたってって『クロノス王子』に言った?」
「クロノス王子、知ってるから。僕のそのへんのこと。べつにいまさら言わなくても」
「あんたのそういうとこ!! 前から思っていたけど、そういうところほんっとうに嫌!! 『気の無い相手を振るのは優しさです』ちょっと復唱してみて!!」
「言わなきゃだめ?」
「だめに決まってるでしょ、わかるまで十回は言ってよね!!」
クライスは迂闊にも口を開きかけた。
ひゅうっと冷気が頬に吹き付けてきて、そのまま硬直する。
なんとか振り返ると、無言のジュリアと目が合った。
――暇なの?
(怒ってる。あれ絶対怒っている。復唱二回目あたりでブリザードがくる。むり。アゼルよりあっちが怖い)
放置したが最後、「廊下に立っていても先に進みません」の勢いでドアを壊される。
それが一番やばい。
「ロイドさん、僕です。少し話しませんか。クロノス様もルーク・シルヴァも姿が見えないんですけど、何か聞いてません?」
ドアに声をかけると、即座に返事があった。
「クロノスの恋人じゃないオレが行先聞いていないのはさておき、なんでお前はルーク・シルヴァに大切な話をしてもらってないの」
(うわぁ。普段大人なひとがこじらせると、こんなに抉りにくるものなの?)
「そもそも、その二人が一緒にいるとも限らないと、僕は思うんですが」
「この状況で? それはないよね。別々に出て行く理由がないし」
「リュート、ええとルーク・シルヴァはさぼり癖があるから!! 裏庭で寝てるかもしれないし!!」
「この状況で? 日中、襲撃もあったのに? そこまであいつ馬鹿じゃないよ。そこはわかってあげなよ、恋人なんだから」
(いちいちつっかかるなぁ)
普段のロイドなら絶対言わない気がする。よほどクロノスとの仲がよろしくないのか。
そこまで考えて、よせばいいのに、思ったままのことが口をついて出てしまった。
「ロイドさん昨日一晩殿下と一緒だったんですよね。何もなかったんですか? 発情していたのに?」
ジュリアに、身体の前にぐいっと腕をまわされてその場から退避させられた。
もちろん、クライス自身も空気が変わったのは気付いていたが、魔法の素質があるジュリアとアゼルの反応がより早かった。
ドアが青白い冷気を放ちながら、パリパリと音を立てて氷結していた。
「あんた喧嘩売りにきたの?」
薄い光の膜を展開しながら、アゼルがクライスを見る。
クライスは、ここぞとばかりににこっと笑ってみた。
「僕とロイドさんの今の関係性なら、こうなっても仕方ないよね?」
「ロイドが余裕ないのは見ての通りなんだから、あんたが気遣わなくてどうするの?」
「正論だね」
「殺す!!」
やりあっているアゼルとクライスをよそに、ジュリアはドアに向かって進み、肩越しに振り返る。
「面倒くさい」
「ごめん」
「私は無関係の通りすがりみたいなものですし、事情もわかっていません。『問題の解決だけ』なら余計な心情を挟まないので適任では? 上司、一言命じてくださればいいんですよ。中の奴を黙らせろと」
「命じないよ~~、命じないからね~~!? 黙らせついでに息の根を止めるつもりだろうけど、そういう不慮の事故はやめてね!! あと、ロイドさん強いから!!」
ジュリアのまなざしに、剣呑な光が宿った。
「面白いですね。強い人は好きですよ」
「僕が悪かった!! ごめんなさい、いってきます!!」
今さらながらに、ノックしようと拳を振り上げた。
瞬間、ジュリアのブーツを履いた足がズバン、とドアを蹴り上げた。
「手、凍りますから。素手じゃまずいです」
「あ~~う~~ん? そうだね~~?」
たまりかねたアゼルが、口の両側に手を当てて、声が響くようにしながら言った。
「もうやだーーーーっ!! ロイド、美味しいもの食べよーーーーっ!! アレクスにお願いして豪勢なご飯用意してもらうから、女子会しよーっ!!」
一方ジュリアと言えば、急に眉をきゅっと寄せて切ない表情になって頷いていた。
「本当に、お腹空いた……」
「あっ!! そうだよね!! 確か旅の途中で王都入りしていきなり戦闘だった上にまだご飯食べてないんだよね!! 死んじゃうよねっ!! ごめんねっ!!」
こんな美人部下にひもじい思いをさせて悪かった、という思いで叫んでしまった。
女性や儚げなひとに優しくしたい気持ちはふんだんにあるクライスである。ジュリアは儚くはないが、お腹を空かせた状態で長く置いておきたくない。
世の中にはお腹が空いてイライラしてしまう人もいるので。
ジュリアがそうである可能性は捨てきれないが、先程から何事も「物理」で解決しようとしているのを見るに、もしかしたら。
(ジュリア、お腹が空いて、ちょっぴり短絡的になっているだけかもしれない。魔物を一人で十数体撃破すればお腹空……)
思考がそこで一時停止した。
「ジュリア、元気だよね。体力無尽蔵……?」
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万全の状態ならどれだけ強いの。
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