姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

1◆ラピスラズリ視点

私は魔王ラピスラズリ。

人間の国には、美しい姫がいるらしい。

だから私は、魔王らしく姫を拐うことに決めたのだ！

そしてそんな私と、姫を救いに来た勇者がバトルする。

カッコよく勝利する私をみたら、姫はきっと私に惚れて嫁になるだろう。

私の計画は完璧だ！

………と、思っていた時が私にもあった。

私の一つの失敗から、計画が粉々になった話をぜひ聞いてくれ。



あの日は、ちょうど姫を誘拐するのに相応しいほど曇天の日だった。

「我が名は魔王ラピスラズリ！姫は貰っていくぞ！」

「姫ーっ！」

私は姫と思わしき美しい人を袋に詰めて、それを片手に空を飛ぶ。

悔しがる人々を見下ろし、我が城へと飛び立ったのだ。

早く姫の美しい美貌を拝みたい。

ドキドキとした気持ちで、私は城に帰宅した。

そして、早速袋を開けて姫とご対面………しかし。

「………姫じゃなくて、勇者なんだが」

「え？」

袋の中に入っているのは、拐ってきた美しい人。

それに変わりはない。

ちょっと死んだ魚のような目をしているが、美しい人だな。

しかし、それは女ではなかった。

美しいけれど、それは男だった。

………そして、まさかの勇者だった。

姫は！？

一番美しい人を姫だと思って拐ってきたのに、なんで姫じゃないんだ！？

私は混乱した。

しかし、現実は変わらない。

拐ってきたのは勇者だ。

………姫ではない。

私の立てていた計画が、音を立てて粉々になってしまった瞬間だった。

「なんというか、ドンマイ？」

「ふえぇ！」

勇者に慰められてしまい、私は泣き出してしまった。

今はそっと泣かせてくれ！



ということがあって、今の私はこの勇者をどうしたらいいのかに悩んでいる。

拐ってきたのに、倒すわけにはいかないよな。

そして拐ってきたんだから、囚われ人としてもてなすべきだろうか。勇者だけど。

とりあえず、勇者は牢屋代わりの客室に通している。

………けれど、これでいいんだろうか？