霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド

リチャード裕輝

文字の大きさ
6 / 19

第6話:温泉旅館と絶望の女湯、あるいは覗きの代償

しおりを挟む
探偵は胸を揉む:『霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド』

第6話:温泉旅館と絶望の女湯、あるいは覗きの代償
1. 忌まわしき「聖域」

深夜、山奥の老舗旅館『霧深亭』。木造廊下の突き当たり、「女性露天風呂 →」と書かれた看板は湿気で黒ずみ、まるで怨念が滴り落ちているかのようだった。その先には、深い緑が夜の闇に溶け込み、白い湯気が立ち込める「禁断の聖域」が広がっている。

「ユウキくん、聞こえるだろ……? 何かいる……!」 久我奏太は岩陰でガタガタと震えていた。今回の依頼は女将の切実な訴え。

「深夜の女湯から悲鳴が続くんです……。でも中を確認しても誰もいない。代わりに、肌をなめるような執拗な“視線”だけが、満ちていて……」

「……あ、あとですね。男湯の方でも、ごく稀にですが“誰かに見られている気がする”って苦情が出ることがあるんです。まあ、気のせいだとは思うんですけど……」

ユウキは冷静に特殊スコープを調整しながら、その場の空気を読み解く。 

「最近の僕たちは霊力が上がっていますからね。視力も霊的な感度も、もはや常人の域を超えている。すべてがクリアに見えすぎてしまうのも考えものですね。……久我さん、知っていますか? この露天風呂、数ヶ月前に覗き魔の男が転落して溺死しているんですよ」

「じゃあ、犯人はその覗き魔の霊か!?」 
ユウキは首を横に振る。

「いいえ。問題は『覗かれた側』です。過去、覗かれながら恥ずかしさと恐怖、そして激しい憤りの中で亡くなった女性たちの怨念が、時代を超えてここに集まっているんです」 
久我の背中が凍りついた。 

「……そんなの、僕が覗きに行ったら八つ裂きにされるじゃないか!」

2. 八人の絶世の怨霊

ふと横を見ると、ユウキがいつの間にかバスタオル一枚になり、久我の耳に小型インカムをねじ込んでいた。 

「え、ユウキくん、なんで脱いでるの?」

 「何って、僕も調査ですよ。僕は、あちらの男湯からアプローチしますから、久我さんは、さあ、女湯で、幽霊の闇を覗いてきてください」 

「言い方が不謹慎すぎるだろ!! 探偵に覗きを強要するな!!」

ユウキに蹴り飛ばされ、久我は露天風呂へと視線を向けた。 ザッ……ザザザ……。湯煙が揺れる。最初に見えたのは、3つの人影だった。

「(……ヒッ! 本当にいた! でも……なんてレベルの高い美少女たちだ。さも、人間かのようだ……)

 久我の目は釘付けになった。現代的なスタイルの女子大生。瑞々しく張り詰めた胸元に、真珠のような湯の雫が転がり、ピンク色の尖端が湯気の中で密やかに主張している。その隣には、妖艶な色香を振りまく花魁。白塗りの肌が月光に照らされ、重厚な帯を解いた腰つきが、ありありとその肉感を伝えてくる。そして、明治の令嬢が絶望の淵で、重厚な帯を解いた腰つきを無防備に晒す。

 「……え、3人? いや……違う……」

湯気が、さらに濃くなる。
霊力が否応なく引き上げられ、久我の視界が“合ってはいけない焦点”に合わさる。

昭和の看板娘、戦後の未亡人……。
それ以上は、輪郭すら定まらない“女たちの気配”だった。年代も名も、すでに溶け合い、ただ「見られた記憶」だけが湯に漂っている。

「……まだ、いる……!」

そこに浮かび上がったのは、この世のものとは思えないほど鮮明で、艶めかしい「8体」の裸体だった。

「(やばいよ……本物にしか見えない。なんて美しさだ……)」 久我の鼻から、赤い筋が垂れた。その瞬間、インカムからユウキの声がした。 

『久我さん。鼻血を拭いてください。彼女らの恨みは“視線”に宿ります。見られる恐怖を、あなたに反射しているんですよ』 

「そんなこと言ったって……! 待てよユウキくん、なんで僕が見ている光景をそんなに詳しく実況できるんだ? お前、まさか僕の視界を共有して、男湯でくつろぎながら覗いてるんじゃ――」

その時、霊たちの目が一斉に吊り上がった。 
『……ミツケタ……ノゾキ魔……殺ス……』

3. 背徳の除霊と「八人目」の正体

久我は戦慄した。8つの裸体がズザッ!と湯面を滑りながら、一直線に追尾してくる。万事休す。完全に覗き魔として認定され、なぶり殺される――そう確信し、久我が絶望の淵に立たされたその時だった。

「ガボッ! ゴボボボッ!!」 
岩陰から、大きな泡と共にシュノーケルをつけた男が勢いよく引きずり出された! 

『アア~~~~!! 見ツカッタァア!!』

 絶叫したのは、岩の隙間に潜んでいた本物の覗き男だ。霊たちが一斉に男へと振り向いた。

次の瞬間、覗き男は悲鳴を上げる間もなく、八つの“視線”に縫い止められた。逃げ場はなかった。見られることを恐れ続けた女たちの怨念が、今度は彼を、骨の髄まで“観察”し尽くす。

霊たちが一斉に視線を向けた瞬間、男の存在は――“見られる側”として、音もなく溶けた。

『久我さん、今です。本物の覗き魔がヘイトを買っている隙に、能力で胸を触って除霊を』 

「言い方! だがやるしかない!」 久我は死に物狂いで、最も近くにいた女子大生の霊へと右手を伸ばした。

ぐにゅり。

掌に、驚くほど柔らかく、弾力に満ちた肉の感触が伝わる。久我は無我夢中で、その豊満な胸を力強く揉みしだいた。霊力が高まっているせいで、指先には彼女の肌の熱までが伝わってくる。 

「(……ッ、なんて柔らかさだ……!)」

その瞬間、サイコメトリーが発動し、脳内に生々しい記憶が流れ込む。 

「……悲しい。みんな、ただ静かに癒やされたかっただけなんだ……なのに、あの卑劣なカメラが……!」 
そこに映っていたのは、至る所に仕掛けられた盗撮カメラの映像だった。久我の共感と共に、一人が安堵の表情で光の中に消えた。 ――これで、残りは7人のはずだった。

覗き魔を瞬時に「処理」した7人は、今度は再び久我の方へと向き直る。

 『ココニモ、イル……!』 

怒り狂った霊団が、湯面を滑りように一直線に追尾してくる。 

「ダメだ、多すぎる! 蹂躙される! 殺される!!」

『返シテ。私タチノ視線ヲ。返シテ……』 
囲まれる。視線で全身を舐められる。恥辱と恐怖が混ざった呪いの感情。久我は錯乱しながらも、右手で顔を庇った。

だが、もみくちゃにされる寸前、久我は違和感に気づいた。

 「……あれ? 数がおかしい。一人消したはずなのに……なんでまた8人いるんだ?」

目の前に立つ、この中で最も発育の良い「8人目」の裸体。それは、先ほどまでいたどの霊よりも美しい乳房で、不自然なほど「実在感」があった。

その直後、湯煙を割ってその裸体が悠然と言い放った。 

「――原因の盗撮ユニット、すべて破壊したわッ!」

その声だけが、妙に“現実的”だった。

「……え?」

メイドのサヤカだった。彼女は最初から温泉の底に潜入し、怨念の核となっていた「現代の覗き道具」――盗撮カメラユニットをすべて粉砕して帰還したのだ。 カメラが壊れると同時に、囚われていた女性たちの霊は安らかな表情で夜空へ消えていった。

「サヤカさん……裸、素晴らしい……」 
完璧な肢体を至近距離で拝んだ久我は、噴水のような鼻血を出しながら「成仏……」と呟いてパタリと倒れた。

4. 逃れられない「視線」

後日。事務所でボヤく久我に対し、ユウキは笑って答えた。 

「問題ありません。今回はサヤカさんの物理除霊でしたね。健全な解決でしたよ。僕もいい湯でしたしね」

その時、ユウキの背後から、不自然なほどクリアに見える人影が這い出してきた。 シュノーケルをつけ、濡れた厚い胸板をぎらつかせる、巨大な男の霊。冒頭でユウキが語った、数ヶ月前に溺死した本物の覗き魔の霊である。

『いい体してるな、お兄さん……。男湯での裸、最高だったぜ……』 

「……は?」 
ユウキの表情が初めて凍りつく。

 「そういえば、男湯の方で死んでたという覗き魔。そいつ、覗かれるのが大好きな変態マッチョ霊だったらしいぞ。霊力が上がった今の君には、そいつの毛穴までくっきり見えるだろ?」と勝ち誇る久我。

「サヤカさん……! 助けてください、今すぐ存在ごと消滅させてください!」 
ユウキが悲痛な叫びを上げるが、サヤカは優雅にエプロンを整え、頬を染めて答えた。

「お言葉ですがユウキ様。わたくし、男性同士の……それも、このような『熱い執着』を感じる絡みは、たまらないですわ。想像するだけで、わたくしの魂も浄化されそうです。……あらマッチョ様、ユウキ様は耳の裏が敏感ですので、重点的に見守って差し上げて?」

『ぐひひ……いいこと聞いたぜ……』 

「やめろ! くるな! 見るなーーー!!……見るなって、こんなにも恐ろしい言葉だったのか!」

ユウキは、最強のメイドと最強の変態霊によって、かつてない絶望の淵へと叩き落とされるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...