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『マリちゃん、ごめん、俺が悪かった!許してくれ!もう他の女の子とは遊ばへん、マリちゃんだけや、お願いします!』
『邪魔やから帰って、あんたとは付き合えんわ。嘘ばっかり』
『ほんまや、マリちゃんとのエッチが一番ええねん、スタイルええ子とシてみたけどあかんかった、マリちゃんの尻の肉の付き方が一番気持ちええねん、マリちゃんのデカい尻が一番気持ちええねん!』
『黙れや!もう…とりあえず入って!』
…
もはや迷惑行為のその土下座は在学中だけでも10回は行われ、マリは卒業するまで同じアパートの住人とは恥ずかしくて顔が合わせられなかったという。
卒業後、マリは大手アパレル企業に就職して地元市内の店舗に勤務、土日休みの太獅とデートの都合がつかない時も彼はやはりやってしまい…その時も彼女の勤め先の社員駐車場で待ち伏せしていた。
…
『マリちゃん!ごめん、もうせぇへん、この通りや!』
『地べたに土下座て恥ずかしないの?あんたの綿より軽い頭下げて何の価値があんの?まだお客様おんねん、迷惑やから帰って』
『疲れててな、マリちゃんに会われへんかって溜まっとって、エッチしたかってん。そしたら軽そうな女が声かけて来よってな、気がついたらホテルやってん。気がついたらよ、エッチしとってん、不思議やねんけどな!』
『アホなん?通報すんで、帰りや』
『でもイかれへんねん、マリちゃんのま○こやないと、俺抜かれへん、マリちゃんとのエッチやないと満足でけへんねん!』
『黙れやクソがぁ!車乗れアホ!』
…
そんなことが数回、太獅も悪知恵が働くのでマリを逃げられない状況にしてから謝ることを覚えてしまい、「どうせ謝れば許してくれる」という傲りが見えてくるようになる。
とにかくこれまで別れと復縁の繰り返しで、マリはほとほと太獅に愛想が尽きているのだが、自身を求めてくれる時の甲斐甲斐しさと男らしさに当てられて、なかなか踏ん切りが付かない。
マリにしてみると太獅はダメ彼氏、控えめに言っても「クソ」なのだが、それでも離れては戻ってくる奴への情が捨てきれずにいる。外面はいいし公務員で安定しているし…そしてそれとは別に、太獅が性欲をもって女性を求めるのと同じで、マリもまた性欲で彼と繋がっているのだ。
太獅は特別巨根とか絶倫とかいうわけではないのだが、センスが良いのか女性を満足させる…イかせることにとんでもなく特化している。本人曰く「ポイントが分かる。ちんこの先でココだって分かる、そこを叩くと簡単に女は崩れる」らしい。
なので多くの女性をヒィヒィ言わせてきたのだがマリもその一人で、付き合いの長さからくる経験値も相まってとんでもなく具合が、つまり気持ちがいい。マリは性欲はそこそこだが気持ち良いことは嫌いではない。それなりに丁寧に抱かれれば幸福だしその間だけは太獅は最高のパートナーなのである。
・
太獅は喧嘩中はマリを「デブ」呼ばわりするし当て付けのようにスタイルの良いモデル体型の女性とばかり浮気をするが、それでも舞い戻ってくるのは彼もまたマリの体に縛られているためであった。
学生時代から数々の美人、ナイスバディの女性を抱いてもイかせてもハメ倒してもきたが、数人抱いたある時から彼自身はイけない、射精できなくなってしまったのだ。相手を先にイかせてさていよいよ、と思ってもそれ以上にボルテージが上昇しない、イききれない。イったフリをしてその場を凌ぎ、2回戦こそ…と思ってもやはりイけなかった。
数回そんなことを繰り返してマリを再び抱けば、彼女を追うように達することができる。これが最高に気持ちが良くてしょうがない。
マリと同じような肉付きの女性を抱いても同じだった。感触は似ていても絶頂までは遠く、抜いてもいないのに冷めてしまい中折れしたこともしばしばあった。
マリでしかイけなくなってからは太獅は彼女を一層慈しむようになったが、それでも彼女が誘いに応じない時は外で女性を抱いて帰る。
一方マリは太獅しか知らないし他と比べることも無いのだが、おそらく他の男に抱かれても彼以上に自分を乱れさせることはできないだろうと悟ってさえいた。腐っても初恋の相手、処女を捧げた恋人、家族のように自然体でいられる稀有な存在。何より安らぐ腕の中の温もりは今後もう得られないかもしれないのだ。
忙しい仕事の合間のひと時の癒し、無料のマッサージくらいに割り切って太獅を転がしているし、最近では他の女と遊んだ形跡が見えても追及すらしなくなっている。
都合良く付いては離れて受け入れて、周りからも「あんな奴別れな」と何度も言われた、その度に「あんなんでも良いところあるの」と庇ったりしてきたがもう限界。
お互いの価値を落とし合うような関係は終いにしたい。その場しのぎの嘘とおべっかで取り繕って復縁して、腹は立つが抱かれれば絆されて。
喧嘩すればまた浮気されて、その繰り返しにいよいよマリは疲れ、三十路を前に区切りをつけようとしていた。
・
「龍ちゃんは、順調に結婚までいきそうやね」
「せやな、若いしモテんのに…その彼女しか知らんねんて、勿体ない。俺はまだええなー、あー…でも同期の奴は結婚してんな。上からの評価は上がんねんけど…無いな、」
シャワーから戻った太獅は髪を拭きながらベッドへ腰掛け、裸のマリの乳房を撫でて渋い顔をした。
「…女遊びできんようになるもんなぁ?」
「せや、不倫になってまうから。…なに、マリちゃん、嫉妬してくれてんの?嬉しいなぁ、きしし」
否定しないんだ、分かってはいたが若く一途な弟の微笑ましい話との落差に打ちのめされ、
「今さらせぇへん、」
マリもそう呟いてシャワーへと向かう。
「ふー…終わりやな…太ちゃん…」
もし嘘でも「マリちゃんと結婚したい」なんて言ってくれたらまだ自分を誤魔化して続けていられたのに、正直な男のおかげで彼女の気持ちに踏ん切りがついた。
「太ちゃん、明日早いからもう帰るわ」
「は?もう一発シよう思たのに。待って、準備する…」
シャワーから戻りさくさくと服を着るマリを追って、太獅もパンツを穿く。
仕事帰りのデートだったため二人はそれぞれ仕事着で、彼のネクタイを外したワイシャツにスラックス姿は相変わらず見栄えが良く、横目で窺ったマリはチッと舌打ちをした。
「もうすぐ冬季休業やから…忙しなってくるなぁ…」
「せやね。うちも色々…クリスマスセールの準備で立て込むし……片付けと断捨離もせなあかんし…」
「大掃除?……クリスマスか……忘れもんない?ちょい、マリちゃん、」
太獅は精算機の前に立った彼女の動きを制し、先にクレジットカードを財布から出してカードリーダーへ通す。
「ん?払ってくれんの?」
「当たり前やん、これもデートなんやから…お、ラッキー、フリータイム料金でいけたね」
「…」
手切金くらいのつもりで最後に支払ってやろうと思ったのに…マリは苦々しく
「おおきに」
と返して廊下へ出た。
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