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あー、恥ずい恥ずい恥ずい‼︎

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 食事はどんどんと進んで、私は案外メインの肉料理もペロリといけた。

 なんせ高級料理だし、間違いなく美味いし。

 もう残すところはデザートくらいか、彼はソワソワして落ち着かなくなっていた。

 周りをキョロキョロ見回して、トイレに立ったりと忙しない。

「そういえばさ、話したいことって何?」

 仕方なくそう助け舟を出したのだが、彼は

「大丈夫だから、もう少し」

と噛み合わない応えを返す。

 面倒だなぁ、慣れ親しんだ友人になら通用するかもしれないが、私は彼との恋人感をそこまで強く出来ていない。

 単純な期間の問題ではないような気がする、ひと月を待たずにサヨナラした方が双方のためなのではなかろうか。


「あのさ、お腹もいっぱいだし、そろそろ」

 せめて帰りの車内で振ってあげよう、居た堪れなさも最高潮だしバッグに手を掛けたその時。

「♪~♪~」

「…?」

店内の照明が限界まで落とされて、聴き覚えのある洋楽ポップスが流れて来る。

 徐々に音が大きくなって、私の不信感もマックスになったところでガターン!と向かいの椅子が転げた。

 誰の椅子ってそれはもちろん彼の椅子で、突然立ち上がった彼は音楽に乗せて体を揺らし始める。

 そして不自然に空けられたフロアの中央へ、彼は進んだ。

 彼はあからさまに不思議そうな顔をする客に囲まれて、それでもぎこちなくステップを踏む。

「……え?」

 彼ひとりのムーブメントは何故か隣の席の見知らぬ男女客にまで伝播して、揺れがダンスになっていく。

 隣の席、隣の席、終いには店内の5~6席の客が音楽に乗せて軽快に踊り出していた。

 あ、フラッシュモブというやつか、センターで誇らしげに踊る彼を眺めてそう納得する。

 つまりはこの場は彼が私を驚かせるために仕込んだサプライズパーティーで、周りの方はエキストラさんなのか。

 イベント等でフラッシュモブを請け負う企業があるというのはSNSで見て知っていた。

 しかしこの人数…少なくとも10人はダンサーさんがいる。

 店のスタッフさんも手拍子を打って、私の前には花火の刺さったケーキが運ばれた。

 丸いケーキの上には『ハッピーサプライズ』の文字、何が幸いなんだとそれと彼を交互に睨む。

「(え、恥ずかしい…)」

 喜ぶべきところなのだろうか、それよりも私は共感性羞恥により悶え苦しんでいた。

 他人が恥をかく様子を自身のことのように感じて、居た堪れなくなってしまうアレだ。

 彼はきっと恥ずかしさなど振り切って溌剌と躍っているのだろうが、所詮は素人だ。

 微妙にテンポが遅れていたりバタついたりしている。

 おそらく専門のダンサーであろうエキストラさんに比べると、みっともなさが際立って仕方ない。

 共感性というより過剰性なのかも、本人が恥じていないのに恥ずかしさを押し付けてしまって申し訳ないと思うのだが…素人芸に気を遣って「凄い」というリアクションを強いられるのが辛い。

「(手拍子する空気だ…やだ、見ててしんどい、てかこれ、私のために踊ってんの⁉︎)」

 何となく指先を付けてリズムを取ってる風に見せるも、顔が笑えない。

 重ね重ね、私は交際歴2週間の男性にここまでされて感動できるほど出来た人間ではないのだ。

 引いている、それが一番しっくり来る状況だった。


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