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さて不明瞭な世界とはいえ、衣食住の確保は絶対である。
私は一番近くにあった青果店へと向かい、女性従業員へ話し掛ける。
「すみません、この村で…すぐに働ける所はありませんか?」
宿屋に泊まろうにも銭が無い、交渉次第で日払いで給与をくれる仕事があれば有り難い。
「…そ、そうねぇ…うちの村は娼館は無いから、個人でやる分には…」
女性は恥ずかしそうに、肩をすくめる。
母親世代のご婦人にそんなことを答えさせたかった訳ではないのだが。そうでなくても飛躍しすぎである。
「ちょ、は、働く…普通に、果物を売ったり、野菜を売ったり、そういう仕事のことです!」
「あら、そうなの…でも基本は家族経営だから手は足りてるはずよ、小さな村だし。すぐ働きたいなら娼婦になるのが手っ取り早いわ」
「…そ、そうですか…そんな売春をあっけらかんと…」
知らない所で身体を売ってたまるか、生憎とその辺りのモラルも捨ててはいない。
「女は働き口が限られてるの」
「な、なら…新しく店を始めることは出来ますか?」
「んー…例えば?必要な店はほぼ揃ってるけど」
「えーっと…家電屋とか、スマホサポートとか」
「なぁに?それ」
この世に存在しない物はサービスのしようが無いのか、そりゃそうか。
見たところコンピュータも電話も無い、エンジンも電球も未開発な時代のようである。私がそれらを発明できれば新たな仕事が始められるし何なら巨万の富を得られそうなものだが…腕と知識が無い。
私がゲンナリしていると奥から中年男性が出て来た。
「お嬢さん、仕事が欲しいならどっかの店主と結婚するのが一番早いぜ」
「け、結婚?」
確かにそうかもしれないが、それは娼婦になるのと変わらないのでは。出逢いや告白や一定期間の交際を経なければなるまい、そこをすっ飛ばすには身体を差し出すくらいしか取り入る方法が思い付かない。
「この村は働き手は足りてる。そもそも女が働くのは難しいしな」
「…な、何でですか」
これもルールなのか、真面目に聞いたのだが
「女は商売なんか出来ねぇよ、女なんだから」
と言われてフリーズしてしまった。
「…はい?」
「女は男に付き従うもんだろ?女店主なんか相手にされねぇよ、んなことしてたら嫁ぎ遅れちまうぞ」
「えーと、だから働くんですが」
「女は嫁いで子を産むんだよ、それが仕事だろ。大体、読み書きも一人前にできねぇのに、商売なんて出来っこねぇよ」
なんたる男尊女卑思想だろう、頭を殴られたような衝撃だった。
そしてふと記憶の扉が開いて「女はお茶汲みしか…」という言葉がまたストロボみたいに光って消えて行った。
「で、出来ます。どうしてそんなに決めつけるんですか?」
「どうしてって、女が通う学校なんか無ぇんだから。必要無ぇしよ、嫁いで子供産みゃ人生の大半は終わっちまう」
「お、奥さま、そうなんですか?」
先程は私の就業相談に乗ってくれましたよね、縋る気持ちで女性に向けばコクコク頷くばかりだった。
「私もこの人と夫婦になったから働けてるの。女には商売は難しいわ」
店主はそれを聞いて満足したのか、奥さんの尻をひょいと撫でる。妻が自分より下に居ることが嬉しかったのだろうか。
「…就職相談窓口などはありませんか?」
「無いわねぇ」
「余ってる土地とか、あと企業に必要な条件とかあれば伺いたいんですけど」
「さぁねぇ、うちは主人の親の代からの店だし、許可証は領主さまが出して下さるけど女じゃ無理よ」
「はぁ」
さて困った、私はこの村で生きていけそうにない。働き口も無いし村民の意識も時代遅れである。
いや、中世なら時代には則しているのだろうが…私には合っていない。
「…そうですか、えーと…分かりました、ありがとうございました」
「貴女、今夜寝る場所はあるの?」
ふと空を見上げれば、いつの間にか西陽が差して夕暮れが広がっている。店屋が一斉に品物を片付けて店仕舞いを始める、たぶん17時くらいなのだろう。
「(あれ?ついさっきは朝じゃなかった?)」
私が目覚めたのは朝の時間帯だったはず、目まぐるしいスピードで太陽と月が入れ替わりそうだ。
ますますゲームじみてきている、ひとマス移動する毎に数分経過するシステムなのだろうか、もしくは待機しているだけで時間が過ぎるのか。
「…大丈夫?」
「あ、はい…寝る場所はどこか…森の中とかで探します」
「森は野犬も出るわよ、浮浪者もいるし」
「…なら、こちらに泊めて頂く訳には?」
「男が居る家に若い女性を泊めることは出来ないの、ルールなのよ」
どこまでも女性に厳しい世界だ、こんな話をしている中でも店主は店の片付けを進めている。
そして奥さまの手を引いて
「じゃあな、お嬢さん」
と奥へ引っ込んで行った。
「…どうしよっかな…」
おそらく村の中心だろう広場には大きな噴水があり、噴き出す水が止まった。夜間は節電しているのだろうか、いや電気は無いのか。
バタンバタンと扉の閉まる音が重なって反響して、辺りが静かになる。狼の遠吠えが聞こえる、虫の鳴き声もする…気候は寒くもなく暑くもなく、春か秋なのだろうと経験から察する。
「……、……、」
店は閉まったというのに、人の話し声が聞こえてきた。
男女か、カサカサと低木や草を掻き分ける音もする。
「(あ、売春…?)」
始まってしまったのか、夕方から待機していたのだろうか。
スパンスパンと肌が打ち合う音、銭同士がかち合う音。女性の悲鳴みたいな喘ぎ声、一方的に肌を打つ破裂音。液体を掻き回している音、嗚咽と乱暴な男性の怒声。
「(…無理だって、なんで森でスんの、宿屋行きなって)」
どういった区分けなのだ、家族で暮らす店舗兼住宅の隣の森林で男女がまぐわっている。そしてそれが聞こえる、異常事態である。
吐き気を催して、でも村の周囲を森林がぐるっと囲んでいるので避けられない。
数分するとプレイが終わったのか、森は静かになった。
皆が暗くなるのを待ち構えて一斉に始めて一斉に帰るのだろうか、需要と供給のバランスが全く釣り合っているのなら凄いことだ。
私は一番近くにあった青果店へと向かい、女性従業員へ話し掛ける。
「すみません、この村で…すぐに働ける所はありませんか?」
宿屋に泊まろうにも銭が無い、交渉次第で日払いで給与をくれる仕事があれば有り難い。
「…そ、そうねぇ…うちの村は娼館は無いから、個人でやる分には…」
女性は恥ずかしそうに、肩をすくめる。
母親世代のご婦人にそんなことを答えさせたかった訳ではないのだが。そうでなくても飛躍しすぎである。
「ちょ、は、働く…普通に、果物を売ったり、野菜を売ったり、そういう仕事のことです!」
「あら、そうなの…でも基本は家族経営だから手は足りてるはずよ、小さな村だし。すぐ働きたいなら娼婦になるのが手っ取り早いわ」
「…そ、そうですか…そんな売春をあっけらかんと…」
知らない所で身体を売ってたまるか、生憎とその辺りのモラルも捨ててはいない。
「女は働き口が限られてるの」
「な、なら…新しく店を始めることは出来ますか?」
「んー…例えば?必要な店はほぼ揃ってるけど」
「えーっと…家電屋とか、スマホサポートとか」
「なぁに?それ」
この世に存在しない物はサービスのしようが無いのか、そりゃそうか。
見たところコンピュータも電話も無い、エンジンも電球も未開発な時代のようである。私がそれらを発明できれば新たな仕事が始められるし何なら巨万の富を得られそうなものだが…腕と知識が無い。
私がゲンナリしていると奥から中年男性が出て来た。
「お嬢さん、仕事が欲しいならどっかの店主と結婚するのが一番早いぜ」
「け、結婚?」
確かにそうかもしれないが、それは娼婦になるのと変わらないのでは。出逢いや告白や一定期間の交際を経なければなるまい、そこをすっ飛ばすには身体を差し出すくらいしか取り入る方法が思い付かない。
「この村は働き手は足りてる。そもそも女が働くのは難しいしな」
「…な、何でですか」
これもルールなのか、真面目に聞いたのだが
「女は商売なんか出来ねぇよ、女なんだから」
と言われてフリーズしてしまった。
「…はい?」
「女は男に付き従うもんだろ?女店主なんか相手にされねぇよ、んなことしてたら嫁ぎ遅れちまうぞ」
「えーと、だから働くんですが」
「女は嫁いで子を産むんだよ、それが仕事だろ。大体、読み書きも一人前にできねぇのに、商売なんて出来っこねぇよ」
なんたる男尊女卑思想だろう、頭を殴られたような衝撃だった。
そしてふと記憶の扉が開いて「女はお茶汲みしか…」という言葉がまたストロボみたいに光って消えて行った。
「で、出来ます。どうしてそんなに決めつけるんですか?」
「どうしてって、女が通う学校なんか無ぇんだから。必要無ぇしよ、嫁いで子供産みゃ人生の大半は終わっちまう」
「お、奥さま、そうなんですか?」
先程は私の就業相談に乗ってくれましたよね、縋る気持ちで女性に向けばコクコク頷くばかりだった。
「私もこの人と夫婦になったから働けてるの。女には商売は難しいわ」
店主はそれを聞いて満足したのか、奥さんの尻をひょいと撫でる。妻が自分より下に居ることが嬉しかったのだろうか。
「…就職相談窓口などはありませんか?」
「無いわねぇ」
「余ってる土地とか、あと企業に必要な条件とかあれば伺いたいんですけど」
「さぁねぇ、うちは主人の親の代からの店だし、許可証は領主さまが出して下さるけど女じゃ無理よ」
「はぁ」
さて困った、私はこの村で生きていけそうにない。働き口も無いし村民の意識も時代遅れである。
いや、中世なら時代には則しているのだろうが…私には合っていない。
「…そうですか、えーと…分かりました、ありがとうございました」
「貴女、今夜寝る場所はあるの?」
ふと空を見上げれば、いつの間にか西陽が差して夕暮れが広がっている。店屋が一斉に品物を片付けて店仕舞いを始める、たぶん17時くらいなのだろう。
「(あれ?ついさっきは朝じゃなかった?)」
私が目覚めたのは朝の時間帯だったはず、目まぐるしいスピードで太陽と月が入れ替わりそうだ。
ますますゲームじみてきている、ひとマス移動する毎に数分経過するシステムなのだろうか、もしくは待機しているだけで時間が過ぎるのか。
「…大丈夫?」
「あ、はい…寝る場所はどこか…森の中とかで探します」
「森は野犬も出るわよ、浮浪者もいるし」
「…なら、こちらに泊めて頂く訳には?」
「男が居る家に若い女性を泊めることは出来ないの、ルールなのよ」
どこまでも女性に厳しい世界だ、こんな話をしている中でも店主は店の片付けを進めている。
そして奥さまの手を引いて
「じゃあな、お嬢さん」
と奥へ引っ込んで行った。
「…どうしよっかな…」
おそらく村の中心だろう広場には大きな噴水があり、噴き出す水が止まった。夜間は節電しているのだろうか、いや電気は無いのか。
バタンバタンと扉の閉まる音が重なって反響して、辺りが静かになる。狼の遠吠えが聞こえる、虫の鳴き声もする…気候は寒くもなく暑くもなく、春か秋なのだろうと経験から察する。
「……、……、」
店は閉まったというのに、人の話し声が聞こえてきた。
男女か、カサカサと低木や草を掻き分ける音もする。
「(あ、売春…?)」
始まってしまったのか、夕方から待機していたのだろうか。
スパンスパンと肌が打ち合う音、銭同士がかち合う音。女性の悲鳴みたいな喘ぎ声、一方的に肌を打つ破裂音。液体を掻き回している音、嗚咽と乱暴な男性の怒声。
「(…無理だって、なんで森でスんの、宿屋行きなって)」
どういった区分けなのだ、家族で暮らす店舗兼住宅の隣の森林で男女がまぐわっている。そしてそれが聞こえる、異常事態である。
吐き気を催して、でも村の周囲を森林がぐるっと囲んでいるので避けられない。
数分するとプレイが終わったのか、森は静かになった。
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