わかりあえない、お互いさまね

茜琉ぴーたん

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 付き合いも1年を越えて、そろそろ結婚かなんて話が出て来る今日この頃。
 それ自体には前向きなのに、今ひとつ動き出せない自分がいる。
「(幸せになれるのかなぁ)」

 私の親は随分と昔に離婚しており、私は母子家庭で育った。とは言っても、母方の祖母との同居だったので淋しい思いはした憶えが無い。
 祖母も離婚歴があってシングルマザーとして母を育てて、現在も母娘で仲良く暮らしている。
 親子で恋愛観が似るなんて思わないけれど、パートナーに対する心持ちは多少似るところがあるのではと思う。母も祖母も、パートナーには多くを求めず離れたら追わない人だった。サラッとしている、と言うよりは切り替えが早い。プライドが高い訳でもないけど「お願いするより突き放す方が早い」と合理的に考える人たちだ。
 それだからなのか関係ないのか、私も恋人への期待度が低くなりがちで…ダメ男を捕まえがちだった。だらしない、嘘つき、暴力的、ヒステリック、浮気性、などなどあらゆるタイプを経験した。
 発覚すれば別れて次の出逢いを見つけに動いたし、縋られても丁重にお断りした。警察のお世話になることもあったし、裁判手前まで進んだこともあった。

 そんなこんなで私・沙耶さやも30歳。結婚も考えてはいるが…という人生の分岐点に立っている。
 今の恋人は上場企業勤めで安定した会社員、大卒で次男で高身長のイケメンだ。
 悪い部分はこれといって見つからない、しかし「よし、決めた!」と踏み出せない。身近な人が結婚の幸せな話をしないからなのだろうか。
 母は父のことをもう愛してはないが、私に悪口を吹き込むようなことはしなかった。祖母だって、祖父に負わされた借金で苦労したと聞いているが悲劇のヒロインぶることは無い。
「(不誠実、だよなぁ…)」
 結婚に二の足を踏んでいるのに、いい歳で交際を始めるなんて。せめて、セフレ止まりにしておけばこんな考えを持たずに済んだのに。
 もったいない、でも結婚する気持ちが湧かない。そこまで考えてやっと私は、「気が乗らない」どころか「する気が無い」ことに気付いた。
 真面目な彼だから、結婚の確約も無くダラダラ付き合うなんてしてくれないだろう。彼を早く手放してあげねば…私はスマートフォンを掴んで彼にダイヤルした。
『もしもし?』
「もしもし…あの、急なんだけど、言いたいことがあって」
『うん?』
 仕事終わりの彼は、疲れているだろうに私のひとり語りを静かに聞いてくれた。
 親のこと、結婚観について、自身の考え方。そしてこれから私が進みたい道のこと。
「……、それで…ごめんなさい、私と別れて下さい」
『……僕とでは、先が見えないか』
「違う、貴方は悪くない。これまで付き合った誰よりも良い人だもん……でも、私は結婚に憧れも持てないし…貴方の人生を無駄にしちゃう」
『他の男に目移りしたとか』
「違うよ、そんなんじゃない……ごめん、分かんないよね、この感覚…貴方がイヤとかそんなんじゃないの。私が、結婚に向いてないの…電話でこんなこと言って、卑怯でごめんなさい」
『……そう、』
 彼は黙って、電話を切った。
 適齢期の男女だから、交際の先には当然結婚を見越すはずだ。自分の思いを告げずに付き合った私が悪いのだ。
 幸いにも仕事はあるし、働いていて楽しい。色んな人と出逢って、もしかしたらこの先で考えが変わるかもしれない。
 独りが好きなのではなくて、交流はしたい。性欲だってあるし、お洒落なデートだってしたい。結婚したくないからといって、奔放に遊びたい訳じゃない。
「(結婚を見越さない異性って、どうやって出逢えば良いんだろ)」
 性欲剥き出しの男に捕まりたくない、繋がることが全てじゃない。
 そもそも、制度としての婚姻が嫌なだけで、事実婚なら許容できるのではないか。ただの偏った拘りがあるだけで、同棲でも結婚と変わらないのではないか。法的に縛られるのが嫌なのか、自分で考えていても譲れないこの抵抗感の正体が分からない。
 制度として婚姻を結べない相手ならどうか、例えば同性とか。
 でもそれだけでデリケートな界隈に入り込むのも悪いか、モヤモヤとした想像は尽きない。
「(私、面倒くさいタイプなのかな…変な活動家とかになっちゃったらどうしよ…)」
 性自認は女性、体も女性、性対象は男性、それは揺るがない。
 ナンパしてワンナイトならどうか、それなら結婚までどころか次も無い。

 面倒くさい、面倒くさい…私はしばらく悩んで、切り替えて仕事に精を出した。
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