君は、裸の王子さま—イタズラ御曹司は気弱な幼馴染みが欲しくてたまらない!

茜琉ぴーたん

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おまけ・遠距離中の二人

落書き


 悠里が大学4年生だった頃のこと。

 泊まりに来た心平は悠里を脱がしてやり、さぁいよいよ、というタイミングで着信音が鳴った。
「僕じゃない…悠里くんのだ」
「なんだろ、仕事のことかな……ごめん心平くん、大学の友達なんだけど」
「…良いよ、急ぎの話だと悪いし」
心平は余裕ぶって、通話を聞いてない風に背を向ける。
 隣に居てもちろん聞こえているのだが、「聞きません」という意思表示なので良いのである。
「ごめんね……もしもし?どうしたの」
『……、………、』
「あー、そうなんだ。ありがとう」
『………、………』
 漏れ聞こえる声によると、ゼミの課題の提出日が延期になったとか、そのような内容らしかった。
「(卒論の時期だもんね、僕も忙しかったし、気持ちは分かる)」
 この頃悠里は下のジムの代表を任されており、就活はすっ飛ばして仕事と単位とゼミに奔走していた。
 一方の心平は社会人3年目、業務を覚えて要領良くこなし始めている。自身の学生時代のことなんかに思いを馳せては、悠里の電話が終わるのを待っていた。

「(…長い)」
 ちょっとした連絡かと思いきや、意外と通話は長引く。3分、5分、もう心平の興奮は冷めてしまっていた。
 お喋りが楽しいのは分かるが、「用事があるから」などと断れないものか。手持ち無沙汰な心平の頭に、ピーンと悪いアイデアが浮かぶ。
「(イタズラしちゃお)」
 心平は通話中の悠里へと振り返り、その股間を指で弾いた。
「ひッ⁉︎…い、いや、なんでもない、虫がいただけ!」
悠里はスマートフォン片手に心平を睨み、おイタをする指を捕まえる。
「(……左手もありますけども)」
 心平はフリーの左手でピンピンと竿や玉をつつき、その度に悠里は「ひゃあ」「はァ♡」と鳴く。
 睨む瞳に涙が溜まる、けれどイタズラっ子心平は意に介さない。
「(電話、終われば良いのにさ)」
 学友なら学校で会えるのだろう、ならば自分を優先して欲しい。ただでさえ寸止めを食らってモヤモヤしているというのに。
 しかしそれでも通話は終わる見通しが立たない。メモを取る様子も無いから、重要性はそれほど高くないように思えた。
「(どうしよっかな…あんまり声を出させると相手に聞こえちゃうしなぁ……あ、ペン見っけ)」
心平はモノを揺らして本棚に手を伸ばす。
 そして黒の水性ペンを1本握り、ベッドへストンと腰を下ろした。
 この動きは当然悠里にも見えており、通話しながら目線だけで追っていた。
 その目線の先にある水性ペンが、ぬっと動く。
「(落書きしちゃお…水性だから落ちるし)」
 アダルト動画で見た、"体に卑猥な落書き"である。抱いた回数を正の字で表したりそのものズバリを書き殴ったり、キャンバスを酷く侮辱する意味合いのものが多い印象であった。
 心平はそこまでするつもりは無かったが、あまりに待たされるので少し悪意を込めても許されるかと冒険してみることにした。

『ちんちん』
「(子供っぽいな)」
『心平専用』
「(これはどう?)」
 ふいと見上げると、悠里は真っ赤になって唇を震わせている。
 通話を切って怒るほどではない様子に、心平もついつい文字通り筆が乗る。
『わがままボディー』
『締まり最高』
『フレッシュボーイ』

 通話はかれこれ10分は続いており、心平も辛抱堪らなくなって来る。
 なので本気の悪口として『ちんちん』の上に『早漏』と書き加えようとした途中で、
「なにしてんの‼︎」
と雷が落ちた。
「…あ、電話終わった?」
「今終わった、ちょっと心平くん、何書こうとしてた⁉︎」
「…『そうろう』って」
「…ひっど、いくら心平くんでも言っていいことと悪いことがあるよ!」
「それはごめんなんだけど、落書きだから良いかなって」
「倫理観捨てちゃったの⁉︎」
 真っ赤な悠里を、心平はヘラヘラといなす。
 どうせ消さねば始まらないし、ここからまたムードを作って致すには仕切り直しの時間が必要だと思ったのだ。
「ギリギリ許されるかと思って。悠里くんが僕にさせたことに比べればマシかなー、とか」
「ぐぬぬ」
 昔の暴挙を引き合いに出され、悠里の反論は終わる。きっと一生言われるのだ、秘密の弱みは心平によってのみ裁かれ心平にのみ罰する権利が与えられている。
 いずれはこれが火種になって大爆発する日が来るかもしれない、悠里は充分にみそぎをしただろうにと悔しがった。
「嘘だよ、これからって時に長電話するから、イタズラしただけ…萎えちゃったからさ、仕切り直そう。ごめんね、シャワーしておいでよ」
「こ、こっちこそごめん。なんでもない内容だったんだけど、次々と話題が出て来るから切るタイミング逃しちゃって」
「ううん、調子乗って書き過ぎたよ」
「…なに、フレッシュボーイって……でも僕、これは…すごい興奮しちゃった」
滲み出した落書きを指して、悠里ははにかむ。
「…『心平専用』?」
「うん…落書きでも、罵倒は書かないところが心平くんらしいよ。僕にやらせたら『公衆便所』とか『1回100円』とか書いちゃう。それに、水性ペンだし」
「…落ちなかったら困るでしょ?」
「…心平くんにしか見せないから、構わないよ」

 悠里は膝立ちでちょこちょこ移動して、ペン立てから油性マジックを取る。
 そして心平へ
「ここ、『心平専用』って、上書きして、落ちないように」
と手渡した。
「…本当に良いの?」
「何日かで落ちるでしょ。汗もかくし」
「うん…」
「僕は心平くんのものだよ、書いて」
「分かった」

 心平は水性ペンの跡の上から強く『心平専用ちんちん』と書き足した。
「…エッチで良いね」
「うん…ねぇ、写真撮っても良い?ダブルピースして」
「心平くんはこういう陵辱系が好みなの?してあげるけどさ」
悠里はスマートフォンを構えた心平に、ニンマリ笑ってダブルピースして見せる。
「好きではないけど、罰ゲームっぽいかと思って」
「長電話の罰ね、まぁ良いよ」
「…お尻にも、書く?」
「……それはちょっと」

 心平は「まぁまぁ、ついでだし」と後ろを向かせて、白い尻肌にも『心平専用、関係者以外立ち入り禁止』と独特なワードを書き入れる。
「出来た」
「え、なんて書いたの?」
「後で鏡で見てみて」
「…『ケツま◯こ』とか書いてたら怒るよ?」
「そう言うと思って書いてないよ…よし、なんか興奮してきたから続けようかなッ」
「あッ」

 この夜の心平はいつになくノリノリで、前戯も無しに汗だくで燃えた。
 その汗とローションで落書きは事後にはほとんど読めなくなっており、その代わりシーツは酷く汚れていた。


「…後ろ、結局なんて書いてたの?」
狭い風呂でシャワーを浴びながら、悠里は尋ねる。
「…『心平専用、関係者以外立ち入り禁止』って」
「あは、なにそれ」
「ごめんね、いきなり挿れて…痛くなかった?」
「平気だよ、いきなりの日があっても良いじゃん…心平くんは関係者なんだから♡」
「ふふ」


 この頃の二人は、共に社会人になることや地元で暮らすことを念頭に置き、このアパートでの性生活の"終わり"を意識し始めていた。
 ここは誰にも邪魔されない、二人だけの世界、城、愛の巣。心平にとってここはオアシスであり、浮世を忘れられる楽園みたいなものだった。現実逃避、まるで時が止まった夢の中かのような世界。
 悠里は勤務地の近くでひとり暮らしをする予定ではあるが、それがどこになるかは分からない。一緒に暮らすにも親に挨拶せねばと思うし、なかなか気が重い。

「落ちた?」
「まだ、残ってるね」

 億劫な未来から逃れるための場所で、モラトリアムを惜しむように、今夜も二人は二人だけの世界で愛し合うのだった。



おわり

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