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「…心平先生、これ…どういうこと?」
心平が苦悩して書き上げた小論文という名の弁明文を、悠里はツンツンと指で叩く。
冒頭一文で結論を提示する引きのある形式、そこだけ読んだ悠里は心平が逃げたと見て攻めの姿勢をとる。
本日は例のレポートの提出日で、心平は目線を泳がせて「うーん」と惚けた。足元の袋には返却するオナホールが入っており、心平はスススとカーペットの上を滑らせて悠里の足元へとそれを移動させる。
「…僕は、コレを使った感想を書いてって言ったはずだよ?」
「うん、でもその…出来なかったから、その旨を。冒頭に主旨を書いておいて、後の文でそこを説明するっていうスタイルを取ってみたよ…」
「長々と何書いてんのさ…マジで、出来なかったの?」
心平は誠意をもって、自身の身体の具合について書き記した。射精以前に挿入できなかったこと、それ以前に興奮しなかったことなどを語彙を尽くし字数を埋めた。
自分のことなのに主観を省き、保健体育と生物学の観点からオナホールを使えなかった理屈を捻り出したのだ。
「うん。興奮しなかったから、出来なかった。簡潔に言えばそんな感じだよ」
珍しく堂々と言い張る心平の態度に、悠里は「ぐぬぬ」とたじろぐ。
悠里の思惑としては、性的なことへのハードルを下げて自分との恋愛に誘導し易くするための試みだったのにまさかの失敗である。
なんだかんだ、心平はしてくれると思っていた。そして恥ずかしいさまを報告してくれて、それをニタニタと愛でようと企んでいたのに。
「(男のオナホールじゃダメか…)」
女性器のホールなら出来たのに、男性のそれで出来ないなら悠里の理想はぐっと遠くなる。心平が芯からの異性愛者で、男性の自分と恋仲になれないなら…悔しくて虚しくて、切なくていけない。
心平のレポート冒頭には、『男性の排泄器で興奮することができず』と記載がある。それは同性愛者になれる可能性が低いということで、自分とイチャイチャなど出来ないということで。
けれど股座に収まった心平はうっとりしていたろう、期待は捨てずにいたい。あれは生身の人間だから興奮したのか、初めての経験だから興奮したのか。それとも男性だからなのか、悠里だからなのか。
今がフラットな状態ならば、寄せることは出来るはずだと…悠里は諦めず押してみることにした。
「…興奮、しないかぁ…」
悠里は戻って来たオナホールの竿を掴み、プラプラと心平に見せつける。
生身の男性である悠里が男性器を見せつけるのだ、複合的に心平は興奮してくれるのではないか。
「…えっと」
突発的な作戦だったが、経験過小な心平は簡単に反応してしまう。ぽんと頬は赤らんで、視線は揺れるソレに釘付けである。
「…心平先生、ココには興奮した?」
「あ、いや、なんていうか」
「そうなの?心平先生…そっか、僕のココに埋もれて嬉しそうだったもんね」
「う、れしくは…なかったよ…」
「…ふぅん」
これはレポートに書かれなかった部分があるのでは、よくよく考えれば排泄器と生殖器は別物である。
悠里は今さらだが、心平の小論文にしっかり目を通すことにした。
「悠里くん?」
「待って、ちゃんと読むから」
「……」
「(やっぱり)」
レポートには、「アナルで興奮せず挿入できなかった」弁明が表現を変えつつ書いてあるだけだ。「男性器に興奮しない」とは書かれていない。
ならば竿の方に感じ得たものがあっても伏せられているだけなのでは、揚げ足取りだが心平ならやりそうだと悠里は疑う。
「ふぅん…これさ、心平先生自身の感想が抜けてるんだけど。様式としてどうなの?」
「あ、えっと…あくまで評論というか」
「なおさら主観が要るでしょ。ホールの使い方とか書いて文字数稼いじゃってさ、これじゃ取り扱い説明書だよ。全く興奮しなかったの?」
穴には興奮できなかったが棒には何か感じたのでは…心平のもじもじした様子から悠里は更に押す。
「心平先生、ち◯ぽには興奮できる?てか実績があるよね」
「ち…いや、正直言うと、興奮はしたんだけど…」
「したんだ?そっちは最後までイけた?」
「…ううん、無理だった。あの、期待に添えなくて申し訳ないけど、男性を相手にセックスするっていうのが具体的に想像できなくて」
「…僕とかでも…無理だった?」
これを渡したのは自分で、小綺麗な少年で、嫌でも脳裏に浮かんだのではないか。それでも駄目だったのか、悠里は希望を込めて尋ねた。
「……」
「心平先生…?」
無理矢理にでも意識させたって良い、これが一歩になるかもしれない。
ここからまたコツコツ行けば実になるかもしれない、悠長に費やした夏休みが惜しいがまだ時間はある。
負けず嫌いでしつこさには定評があるのだ…悠里は下唇を噛み込んで心平を睨んだ。
「…悠里くんが浮かばなかったって言うと嘘になるよ。でもね、前にも言ったけど…そういう想像をするのは失礼だから。知ってる人を妄想のネタにするのは…僕は、そういうことが人の道に反する気がして、出来ないんだよ」
「…浮かんだ?ちょっとでも?」
「…うん、ごめんね、でもすぐ掻き消したから。悠里くんで変なこと考えてないから安心して」
「してくれて良いのに」
心平はキョトンとして困り眉になり、小首を傾げる。
心配して様子を窺うこの表情は、悠里好みの顔だった。
「…?」
「僕を想像したら?出来る?」
「えっと…」
「道とかそういうの抜きにして、僕の体だと思えば、出来る?」
「…質問の意味が分かんないけど……ごめん、あの……その、お尻に、挿れるという発想が無いから…無理だと思う」
「そう…」
心平の答えに悠里は一瞬だけ項垂れて、しかしすぐに復活する。
「(じゃあ、心平くんが下になるしかないね)」
悠里は心平と恋仲になるにあたり、オス・メスをどう割り振るかを兼ねてより考えていた。
カップルとして仲良くするにはどちらでも良いが、きっとリードは悠里がすることになる。デートの行き先を決めたり、いつものようにおちょくったり恥ずかしがらせたり。
けれどセックスは、心平が攻めてくれたらなと…悠里は密かに望んでいた。
気弱で控えめな心平の奮う姿、欲に突き動かされる姿を見たい。汗だくになり自分を求める姿を、困り顔で果てる姿を。
悠里は女性を嫌悪しているので自身をメスの役割に貶めることが酷く屈辱的ではあったのだが、そうしてでも心平の雄々しい勇姿を見たかったのだ。
しかし心平はアナルには関心は無い様子、ならば悠里がオスをするしかない。
「(交代でも良いけど…時間かかりそう)」
女性器のオナホールでは抜けたのに悔しみが過ぎる、しかし同性愛を我が事として考えたことが無いならば心平の反応は当然か。
慣らして、心平を抱けるよう進めて行くか、悠里はニンマリ笑って心平を見つめた。
「…?」
「コレ、僕のだと思って、触って?」
悠里はピンクの竿を握り直し、心平へと差し出す。
触ることに大きな躊躇は無いものの、その先を考えて心平は手を出さない。
「…悠里くんだと思って、は無理だよ。そんな…名誉を傷付けるというか、何だろう…一種の暴力だよ」
「御託は良いんだよ…握ってるとこ、見たいんだ」
「あのさ、もう、こういう…せ、性的なイタズラ、やめない?さすがに度が過ぎてるよ」
「じゃあ、これが最後。言う通りにしてくれたら、これまでの弱みとか全部ナシにしてあげる」
そうは言っても確約が無いじゃないか、心平もさすがにホイホイと話に乗らない。訝しげに、悠里とオナホールを交互に睨む。
「信じられないよ…僕も流されて言うこと聞いちゃったけど、よくよく考えなくてもおかしいし…」
「机の下に隠れて股間の匂い嗅いだり、両親に隠れて股間触らせたり?」
「ぼ、僕がしたくてした訳じゃないだろっ!悠里くんが、」
「なーんか、今日は反抗的だね。断らなかったくせに」
悠里は張り型の先端を、ぴっと心平に向ける。
滑らかですべすべとした質感の竿、その感触は心平もよく知っている。数日は寝所を共にした仲だ、握ったし摩ってもしてしまった。
けれどコレを悠里だと思って触ることは主義に反する。定まった心情など無いが、心平は道義に背く人間にはなりたくないのだ。
「僕は弱い男だよ、でも、人を傷付けることはしたくないんだ」
「本人である僕が良いって言ってるんだよ…ほら、」
悠里は立ち上がりずいっとピンクの塊を押し出して、椅子に掛ける心平の頬にピタピタ当てた。
生身ではないがこれは侮辱行為だろう、心平はカアっと頭に血が上るのが分かる。
「や、やめてよ」
「心平先生、ほら、僕のち◯ぽだよ」
「やめ、や、」
ぐりぐりと捻り押し付けられて、心平は早くも戦意を失いそうになる。
そもそも毛程の反抗心しか持っていないのだから、上から目線でグイグイ来られれば負ける見込みしかなかった。
「ん?んー?」
「悠、里く…」
シリコンは人肌より冷たく、そこに人間らしさなど無い。けれどそれを持つ悠里の身体の、本体のその高さとのマッチ具合が絶妙だった。
「(やだ、悠里くん…の…みたい、)」
立った悠里の股間の高さと、ホールを構えた手の高さがさほど遠くない。
まるで悠里のモノでペチペチ叩かれているようで、それを意識してしまうと心平はより恥ずかしくなり怒りなど立ち消えてしまった。
さて、そうなると当然悠里も図に乗ってしまう。
「(近付くために立ったんだけど、なるほど…僕のみたいに感じてるんだ…かぁわいい…)」
悠里はニマニマが止まらず、ゆらゆらペチペチと心平の頬をシリコンで叩く。
「(変な気分)」
「(変な気分)」
偶然か必然か二人は同じ感想を抱いて、互いに息を潜め膠着状態は3分ほど続いた。
「ゆ、悠里くん、離れて」
「心平先生が逃げれば良いじゃない」
「どうせ、脅すじゃん…」
「そうだね、ふふっ」
潰された頬が紅く染まる、瞳は意地悪な悠里のそれを見つめる。
嗜虐心に駆られた悠里は張り型をぐにぐにと、心平の口元へとにじり寄らせた。
「あ、あの、」
「心平先生、喋るとお口に入っちゃうよ」
「え、あ、んー」
「心平先生、あーん、してみる?」
悠里はしっかりと心平の前に立ち、両脚で心平の脚を挟み込む。
あからさまにオナホールの竿を実物と同じ高さに構えて、心平の口が迎えやすいように調整した。
「やっ…ゆーり、ぐっ」
「あーん、心平先生、オモチャだよ、誰にも言わない」
「そういうことじゃない、」
「心平くん、あーん、もうこれっきりだから」
久々の君付け呼びに心平がハッとすれば、同時に発した悠里も照れて頬を紅くしていた。
どうしてこんなことで照れる、もっとキツいことをしているのに…動作と実際の感情の差があることに、心平は年下少年の可愛らしさを感じた。
「(悠里くん、照れてる…?しなきゃ良いのに…僕だって、逃げれば良いんだけど…)」
「(つい昔みたいに呼んじゃった…恥ず…)」
「(抵抗あるなぁ…でも、本当にこれが最後なんだったら)」
「(流されて、くれないかな)」
イジメみたいな目的でしていることだろうが、そこに他の理由があるのか。あったらどうだというのか。
上がる心拍数、滲む汗。
悠里は退かない、実行すればこの時間は終わる。
エッチなことへの好奇心、ここは密室、相手は幼馴染。悠里は口外はしない、そこの信頼感だけはある。
拒絶して悠里と縁を切る選択肢もある、今日はそれくらいの覚悟を持って来ている。小さなプライドを守るため、辱めを受けないため。
しかし若さと興味が、厳しい拒絶を惜しがっている部分もある。だって家は近所だし、親同士も仲が良いし、絶縁した理由を親に話せもしない。
文字通り目の前に突き付けられた誘惑に、決意が揺らぐ。
「(…してみても、良い…かも…悠里くんが、言うから、僕に、させる、から…もう、これっきりって言ったし…)」
全部悠里のせい、湧き上がった欲求を満たすことに理知的な理屈なんて要らない。
悠里が強いたから、悠里が脅すから。
何を言われても被害者ムーブで切り抜ければ良い…
「最後、だからね、あ、あーん、」
心平は悠里の真っ赤な顔を見上げたまま、口を開けて舌を出した。
これを拒めるなら最初から断ってるわな、情けない自分を俯瞰で感じつつ息を止める。
「わ…」
「ん…」
味も付いてない、化学製品の匂いが強い。迎え受けた舌がじわじわと塊を温めていく。
「ん、んあ」
「心平先生…えっちだなぁ…ふふッ」
「あム」
ちゅぷっと、開いた歯の間からカリ首が口内へ入る。思っていたより大きくて、心平は目を丸くして驚いた。
「(おちんちんって、こんなに、太いんだ…そう思うと、普段の食事って、そんなに口を開けてないんだな)」
心平が割と現実的な感想を抱く中、咥えさせた悠里の心中は穏やかではなかった。
「(あー!心平くんが、フェラしてる、お口に、あー!もっと、挿れたい、怒るかな、吐いちゃうかな、あ、可愛い、えっろい♡させたい、僕の、咥えてもらいたい、)」
ゆるゆると、悠里は腰を揺らして竿を奥へと突き込む。
鼻の下が伸びた無様な心平を見下ろして、堪らなく興奮した。
悠里は性的な知識はアダルト動画で学んでいる。一応男女のものも履修したし、男同士のものでセックスのパターンや流れも把握した。けれどそれを鵜呑みにして教科書にするのがダサいことも分かっており、断片的にでも実践して戦績を積むのがスマートだと考えている。
心平の操作は強請りが効果的だった。優しさにつけ込めば、人前で局部を触られても黙っていた。
擬似フェラチオは心平の好奇心によると悠里も何となく分かっており、そこは両者の希望が合致したなとホクホクである。
この時、心平の気持ちを少しでも推察していれば…先の展開は変わっていたのかもしれない。
「んッ…もゴ…ん、んー、」
「喉奥まで行っちゃったかな?上手だね、心平先生♡」
本当は涎に濡れる唇にキスをしたい、けれど悠里はフェラチオ時の現実的な体勢を崩さず見下ろすのみに留める。
そしてやはり心平はメス側だなと、慈しむ想いを手に込めて心平の頭を撫でた。
「んッ…んッ…」
「心平先生…ち◯ぽ、美味しい?」
「ん~、ふガ」
「慣れたかな?でも僕のは、もっと大きいからね」
「んゴッ⁉︎……フごッ!」
予想外の宣言に、心平は咳き込み呼吸が困難になる。
これには悠里も慌てて張り型を抜き、ケホケホ震える背中を叩いてお茶を手に取った。
「心平先生、大丈夫⁉︎ごめん、無理させちゃって」
「んげほっ…らい、じょ、ぶ…」
「お茶飲んで…」
「ん、ん…」
床にはピンクのオナホールが転がり、竿は心平の唾でテラテラ照っている。
共に正気に戻った二人はそそくさと体を離し、何をしてたっけと息を整える。
「(悠里くんの、シてるみたいだった、うわ…何で、受け入れちゃったんだろ…ちょっと、気持ち悪い…)」
「(やば…フル勃起してる…触って欲しー…もう無理か…)」
「(もう、伝えちゃった方が良いな…意志薄弱な自分が恥ずかしいや)」
「(心平くんは、勃ってないか…本当に僕のをフェラすると、どうなるのかなぁ)」
達してないものの賢者の気分になった二人は、気まずさを誤魔化すように視線を泳がせて元の位置へと戻る。
なぜどうしてこんなことになったか、従わせる理由も従う理由も曖昧で整合性が取れない。
ここらが潮時なのか、悠里は自身の想いを伝えようと台詞を練り始める。引き際ではなく、ここが好機なのだ。
心平がお茶を飲んでグラスをサイドテーブルに戻したところで、悠里は膝を揃えてしっかりと向き直った。
「心平くん、これまで…意地悪なことをしてごめん」
「え、あ、うん、良いよ」
「僕ね、…心平くんのこと、ずっと…好きだったんだ」
「えっ」
心平は当然、驚く。
けれど哀しいかな、これもドッキリなのではないかと反応に困った。
その喜びもしない表情を見て、悠里はキリキリと胸の痛みを覚える。
「小さい頃からだよ。でも学校も一緒になれないじゃん、3学年離れてるから…だから、ちょっとでも繋がりが欲しくて、家庭教師を頼んで…父さんに、頼んでもらったんだ」
「なるほど…いや、素人の僕にわざわざ頼むから不思議だとは思ったんだ。悠里くんはそもそも秀才だし」
「…ぶ、不器用で、アプローチの仕方が分からなくて…エッチな方向から気にしてもらえたら、好奇心で釣れるかもなんて…考えて…」
本当は、狙って仕掛けた訳ではない。自分の好奇心の方が優っていたし、チャンスがあったからアクションを起こしたに過ぎない。
あの日リスニング中に消しゴムを落としたのは意図的だったが、あんなにまんまと机の下に入ってくれるなんて思いもしていなかった。
まだ未成年だから表立って関係を持つ訳にもいかなかったし、来年までにゆるゆると進展させるのがベターだと考えていた。
小狡い悠里だが、まだ少年の純真さも持っている。しかしそれは若さゆえの浅はかさとして、心平に届いていた。
純な心平も、今回のやり口には嫌悪感が大きく飲み込めなかった。
そもそもが心平は自分が異性愛者だと自覚しているので、同性である男性器をどうこうという展開の拡がりに抵抗が大きくなっていた。
服の上から感じた肉の温かみは許容できたが、人工物を口に挿れた時の冷たさに興奮とは裏腹にモヤモヤが募っていた。あれは許せてこれは許せない、自分でも考えたことの無いボーダーラインを超えてしまったのがそのモヤモヤの原因なのかもしれない。
「押し付ける」「触る」は良くて「舐めさせる」はNG、結果的に舐めてしまったが苦痛を感じていたとすれば。
悠里はその苦痛をスルーどころか発想もせず、当たり前に受け入れてもらえると思い込んでいた。
拒めなかったのは心平の非であるが、そう仕向けた悠里は暴走が過ぎたのだ。
「…この…フェラみたいなこと、ちょっと僕の中で拒否反応がすごいんだ。したこと無いから知らなかったけど…こうなるまで悠里くんを注意しなかった僕にも責任はあると思うんだけど、うーん…やり方が間違ってるよ、悠里くん…僕は、彼女も出来たこと無い童貞でさ、それを笑われてると思って恥ずかしかった。男の子の体でも喜ぶチョロい奴だと舐められてるんだなって…あたふたする僕を見て笑う、悠里くんは嫌な子なのかなって…疑ってた」
「……」
「人を辱めて楽しむ質の子とは…僕は理解し合えないよ」
「っ…そんな、そんなことないっ!」
「体から始まる恋もあるかもしれないけどね…僕もドキドキしなかったって言えば嘘になるよ、でも、色々と…段階をすっ飛ばして、走り過ぎだよ」
「…ご、ごめんなさい…」
確かにそうだ、自分が同じことをされたら脅しなど関係無く警察へ訴える。
心平なら従う、心平なら逆らわないと無自覚に舐め切っていた。悠里はこの感情を「信頼」と思い、「心平くんは優しいから」などと安穏としていた。
嫌がりながらも心平は愉しんでいると信じ込み、その「嫌がる」の深さを考えようとしなかった。
「脅迫される材料をあげちゃったし、僕も気が弱いから従ったよ。でもこんなイジメみたいなことを愉しむ悠里くんは悲しいなって思ってた。言われるから従ったけど…そりゃエッチなことへの好奇心もあったよ、それは偽らないよ、でも、これで本当に僕が心を病んで、どうにかなってたら…どうしてたの、それが分からないほど子供じゃないでしょ?」
「…考えて、なかった…」
「…そう」
気持ちを押し付けて相手の感情を軽んじるのはコミュニケーション弱者の作法だ。普段大人ぶって飄々としていただけに、悠里は自身の幼さと拙さを実感して恥に震える。
「ごめん、なさい…心平くんと、仲良くしたくて、やり方が分かんなくてっ…エッチなことで気を引けば、早いかなって、思って…傷付けたい訳じゃなかったんだ、僕は、女は嫌いで、男が好きで、でも心平くんしか好きになったこと無くて、手に入れたかったんだ、どうやってでも…」
「やり方を、間違えたね」
「ごめんなさい…」
諭す心平は本当に先生然としていて、悠里は小学生のように手を膝に置きポロポロと涙をこぼす。
背伸びした子供の悪戯だが、された方の人生を狂わせる危険性だってあるのだ。
むしろ何とも思ってない者から性的な嫌がらせをされれば、普通はトラウマものの精神的苦痛を伴うものだ。
その辺りの想像力が欠けていた、心平は自分に靡くと信じ切っていたガキっぽさが愚かしく恥ずかしい。
「…せめて、先に告白するとか…段階を経ていれば、僕もそこまでじゃなかったと思うんだ。なんだかんだ、悠里くんのことは嫌いじゃないし…でも男の子を恋愛対象に考えるとか、そもそものところからの構築が必要だったと思うよ。今日のことは、僕がたぶんオーラルに抵抗があったから余計に無理だったんだと思う。好奇心に従ってはみたけど、気持ち悪さが興奮を上回った感じがする。そういう、相手の好みとか、趣向をきちんと把握してからこういうことはした方が良いと思う…あは、恋愛したことない童貞の意見だけどね」
咥えておいて高説を垂れるのは、心平もバツが悪い。
相性が合わなかった相手と事後の感想戦をしているようで、心平はまだ悠里にも気を遣っていた。
「ごめんなさい」
「もう謝らないで、流された僕にも責任はある。悠里くんは、流されて従ったことを好意的に捉え過ぎたんだよね。これで例えば最後まで…エッチまでしてたとしても、それは恋愛じゃないと思うんだ。一時の気の迷いとか…脅しね、心から結ばれたことにはならないと思う……帰るね。今後のことは…お父さんに僕から話すよ。忙しくなったとか言って」
「辞めちゃうの⁉︎」
「続けられないでしょ。お互い、気まずいよ。悠里くんが嫌いになった訳じゃないんだ。でも、もっと大人になった方が良いと思うんだ…僕も、簡単に流されない強さを持たなきゃいけないし。悠里くんも、他のことに目を向けてみたら良いんじゃないかな」
寛容なようでドライな言葉を最後に、心平は悠里の部屋を出た。
階段を降りたら悠里の母がキッチンから出て来たので、挨拶をして心平は屋敷を後にする。
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