高嶺の花は摘まれたい

あかね

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2月

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「お、ミーちゃん起きたか?」

「あ……タカちゃん……チカちゃんは?あれ?時間経ってる?」

 退勤した知佳と入れ替わりで高石は部屋の隅の椅子に掛けて、そこから彼女の寝顔を見守っていたのだ。

 肩には知佳の上着に代わって美月のコートが掛かっており、彼女が準備してくれた鞄と鉄分補充に特化した栄養補助食品の箱が机に並べて置かれている。

「うん、1時間は経ってるな。気持ち良さそうに寝てたからさ、起こさんかってん。立てる?これカバンな、忘れもん無い?」

「うん…ありがと…」

「珍しいな、風邪とかもひかへんのに…あ、ミーちゃんの車で送るから大丈夫やで。うちとこには直帰連絡してるから」

高石は扉をその都度開けて先に通してやり、美月の代車までエスコートした。


「軽か、代車やったらそんなもんか」

「うん…頭打たないでね、」

「ん…ギリやな……ん?」

大柄な高石は美月の愛車の時よりももっと腰を屈めて運転席へ収まり、少し煙草臭い車内をくんくんと匂って渋い顔をする。

「どしてん、タバコ臭いやん」

「でしょ、前に借りた人が吸ったみたいなの。借りて3日くらいだけど、これも…体調不良の原因かもね」

「換気しよか…キツいね、」

美月と交際を始めてから煙草の本数がめっきり減った高石は、自身に染み付いた煙も気にしながら窓を大きく開けた。

「タカちゃんの匂いは平気よ、慣れたから…でも密閉空間だと…ね、服にも付いちゃう…今日のお客さんにも言われちゃった、『お姉さん、女のくせにタバコ吸うんか!』って…ふふ、女でも吸っていいと思うけどね。反論もしないわよ、でも『生意気だ』って帰られちゃった…なーんか……うまくいかないの…」

走り出した車の窓から冬の夜景を臨み、ハッキリと弱音を吐く。

 数ヶ月前までも聞き役は高石が担っていたが、話題は専ら失恋や恋愛の話ばかりだった。

 私生活がどうであれ仕事に悩みなど無かった美月の初めてのスランプ、高石は今夜も役に徹して良いタイミングで相槌を打つ。

 そして彼が

「ミーちゃん、今夜…泊まってええかな?」

と切り出せば、美月は暗がりで怪訝そうな顔をした。

「え、いいけど…その…せ、生理だから…エッチなんてできないわよ?」

「ほほ…あー、体調不良ってそっちな、なるほど。どっちにしても、こんな状態の女の子に手ぇ出すほど落ちぶれてへんよ、愚痴とか聞いたろか思うてね…アカンかな?」

「いいの?うん…嬉しい…少し休めばね、元気にはなると思うの……あ、ご飯何にしようか、」

 少しだけ精気を取り戻した美月は穏やかに笑い、信号の灯りでそれを確認した高石もニッコリと笑顔を返す。


 高石は独断でコンビニへ車を入れて、レンジ調理がメインの食品ばかり買い込んで彼女を甘やかしてやることにした。
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