好き、やねん

あかね

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千鳥と金魚はカンフルに酔って*(全6話)

6(最終話)

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 花火は数分の休憩を挟んで後半が始まる予定、彼は静かになった窓辺でお団子の部分をくしゃくしゃと揉んで、うなじの上でその呼吸を整えてペロペロと汗を舐めとる。

「あアー…どや…打ち上げたったわ…はは、ん…寝よ、横になろ…」

 彼はゆっくりと腰も離し、ベッドへ私を寝るように促してから明かりを再び点けてスキンを処理した。

 砂袋のようにドサっと隣へ勢いよく倒れ、その頭をひじ杖で支えて私の後れ毛をまたしても触り始める。

「あぁ…あちぃ…汗かいたな…浴衣…滲みてんなぁ…」

 私の金魚も彼の千鳥も所々が汗で湿って、色が変わっている部分も見えた。

「悪いね…さかってもうて……祭り…外歩きだけでもするか?」

彼は罪滅ぼしのつもりか散歩を提案してくれる。

 せっかく買ってしまった下駄も、一度くらいは慣らしておきたいのだろうか。


「んー…ここでいいよ、疲れちゃった」

 まだ花火は後半の部が残っているが浴衣も髪も整える元気が無いし、何を隠そうここの窓からでも私は充分楽しめた。

「…また…商店街の方の夜店な…あれは毎週土曜日にしてる…あれ行こ…な、浴衣吊るしといて…ほんま…べっぴんやったから…」

 代替案をくれた彼は私の浴衣の衿を掴んで開き、重力に負けて下へ流れた胸の谷間へその顔を埋める。

「やっぱ、ええ匂いすんねん…なんやろ…?」

「あ、ショウノウの匂いじゃない?タンスの防虫剤…実家から持ってきた浴衣だから…私は鼻が慣れちゃったから分かんないけど」

「あー、それか…なんや…懐かしい…婆ちゃんの化粧品みたいな…せや、タンスの匂いや…ん…」

 そこが収まりが良いのか、汗で湿っているというのに彼は穏やかな表情でピトとくっついて離れない。


「後半の部、始まるね…」

「うん、うん…後半戦な、もうちょい待ってな…」

「うん?」


 たぶん噛み合ってない会話、私は彼の頭を撫でながら夜風に揺れる窓辺のカーテンを目で追うのだった。



おわり






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