愛の議論は長々と—あなたには理屈じゃ敵わない—

茜琉ぴーたん

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2・秀才ワンコ

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「はい、白衣を着て、ちびっ子に顕微鏡を覗かせてましたよね、その…指示の仕方ですとか、おおよそちびっ子には理解されそうにない細胞の話を噛み砕いて説明していらして…目を引いたというか、気に掛かったんです」
「…好みだった?」
「突き詰めるとそうなんでしょうね。他にも女性はいましたし、受付の方もお綺麗な方でした。でも私は…多香子さんの話し方ですとか、おおらかで懐の深そうな雰囲気…良い感じだなと、思ったんです」
 さっきまで唾液を啜っていた男とは思えない、微笑ましいエピソードを語る姿に表情を失くす。
 でもなんだか幸福そうで、「良かったね」と同調してあげたくなった。
「そう?偉そうじゃなかった?」
「全く。ちびっ子たちの無邪気な好奇心に真摯に向き合われていて、素晴らしい方がいらっしゃるなと」
「知的好奇心は宝だよね、無碍に出来ない」
「ええ…私も、直接の指導は行いませんけれど、学生の疑問に真っ直ぐ向き合える教育者になりたいなと…運営ですけどね…なので、私の多香子さん好きは尊敬がベースなんですよ」
「それ、今考えてない?やだな、照れる」
 知りたい欲求は何よりの原動力となる、我々学徒は良く分かっている。
 科学だとか生命学だとか、生活において必要を感じにくい分野の研究は目に見える成果に押されがちで…果てが見えず投げ出してしまいたくなることもある。
 研究しても何も無いかもしれない、でも調べなければ判明しない。あるかどうか不明な何かを掴むように研究や実験を続ける私には、翔からの"尊敬"という言葉が嬉しかった。彼がいかに変態的であろうとも。

「ずっと、あの日から、思ってます」
「そのエピソード、告白の時に話してくれればすぐにOKしたと思う」
「えっ、そうですか⁉︎…回りくどいかと思って」
「端的にプロポーズするよりずっと良いよ…あ、翔くん、鼻血!」
 ハッスルし過ぎたか、血がつるっと右穴から流れ始める。翔は慌てて起き上がり、手を受け皿にして下を向いた。
「……ずびばぜん」
「ほらティッシュ…出やすいの?」
「のぼぜたりすると、でやずいでずね…」
「うん、分かった。黙ってて…」

 鼻に栓を詰めて、私はタオルを濡らして翔の頬と手を拭いてやった。彼と居る時はティッシュとウェットティッシュを持ち歩いた方が安全だな、そんなことも考えた。
「(この人とセックスしたら、血だらけになりそう…なんてね)」
 しばらくすると血も止まり、翔はタオルを駄目にしたと酷く落ち込んでしまった。
「すみません、私なんかの血で、多香子さんの家財を傷付けてしまって」
「良いって、今度からウェットティッシュも買って置いとくよ」
「……好きです、多香子さん」
 近眼の翔が、ふよふよと自信なさげに顔を近付ける。
「うん」
私は目を閉じて、彼の唇を待った。
 最後のキスは湿っていて、少し血の匂いがした。


 私たちは互いに恋人としての認識を強めることとなった。
 何ヶ月も前から恋人ではあったのだが、私が翔からの愛情を理解しやすくなったというか、情が湧いたというか。
 要は私も、翔のことが愛らしく感じて来て…好きに、なれたのだと思う。
 尻尾を振ってついて来る大型犬、私という飼い主に忠誠を誓うちょいバカなイケメン。色気の無かった人生を彩ってくれたから感謝はしている。
 少しでも長く仲良くしていけたら良いなぁ、そう願い…名残を惜しむ翔を引き剥がして帰らせた。
 鼻に詰めたティッシュを抜き忘れたなと気付いたのは数分後で…
『駅で皆さんにジロジロ見られて、恥ずかしかったです』
とメッセージが届いてから知る。

 アホ可愛いな、私は彼への理解をどんどんと深めていった。



つづく
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