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3・強くあれ
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しおりを挟むそして…
「では、とりあえずアパートに帰ります」
翔はバッグを手に玄関へと向かう。
私も追いかけ、彼の意に沿うよう
「会いたくなったら、いつでも来てね」
と上からものを言う。
さらに右手の平を黙って差し出せば、翔は「はいっ」と元気に握り拳を乗せた。
「多香子さん、お体に気を付けて」
「お互いにね」
これを機に疎遠になったりしないだろうか、私のことを忘れてしまわないだろうか。にわかに沸き出した寂しさを押し殺して、薄暗くなった空の下に翔を送り出す。
「(とりあえず、連絡はマメにして…でも翔的には私はどっしり構えてた方が良いのかな……あ、)」
ベッドに置いていたスマートフォンの着信音が鳴る。メッセージを受信したらしい、どれどれと開く間にピコピコと通知が積み重なる。
「なに、翔くん…」
『寂しいです』
『帰ってから電話して良いですか?』
『電車に乗りました』
『またデートしましょうね』
『多香子さん、読んでますか?』
手を変え品を変えで増えていくメッセージ、私は既読だけ付けて流れるそれを見つめていた。
時間の経過と共に受信量は減っていき、飽きたのかと思いきや
『家に着きました。私が泣き顔なので弟が引いています。夜に電話しても良いですか?』
と無事であることが分かった。
同居の弟さんも、卒業式の日に兄が目を腫らして帰ることは予測していただろう。しかし引かれるなんて余程だったのだろうな、ぐずぐずに汚れた翔の姿がもう懐かしく感じた。
私は許可を表すスタンプをポンと押して、あとは未読スルーにて夕飯の支度へ入る。
必要とされている感じが嬉しい、欲されているのが有り難い。私だって翔が愛おしい、キモいと思うことはあっても嫌いではない。
「求められる幸せ……ん?」
パスタを折る手が止まる。
いかがわしいスキンシップを解禁した私たちだが、翔は私に触れようとしない。
跨る際に脚が体に接することはある、抱き締める際に背中に手を回すことはある。しかし彼の手はいまだに私の胸にも脚にも、それを目的として触れていない。あくまで彼は見るだけ、胸はブラジャーと服を捲るだけ、私のショーツに至っては脱いだことも無い。
あれ、私に触りたくないのかな、遠距離恋愛に突入してから疑問が湧いてしまった。帰り支度をしてる時の腑に落ちない感じ、あれはこのことだったのだろう。
翔は私という存在を尊く崇めているだけで私の本体には興味が無いのでは。密室で自慰行為の手伝いをしているのだから、辛抱堪らず襲ったり胸を触ったりしても不自然じゃないのに。制欲が上手なのか、そもそも私の肢体に関心が無いのか。
「(いや、私が胸を見せるのはオカズになるからだよね…最初に見せた時にはめちゃくちゃ恥ずかしがってたし…)」
童貞だから恐がっているのか、私を大切にしているつもりなのか。
『多香子さん、電話かけていいですか?』
「え、まだご飯…」
予定より早いお伺いメッセージに、渋くなっていた口元が緩む。
ここだけ切り取れば普通のカップルなんだよなぁ、ゴミ箱に溜まったティッシュは見ないようにする。
私の体に触れない件については、また改めて膝を突き合わせて話そうと思う。問い詰めるのも楽しいだろうし、翔も悦ぶだろうし。
「ふぅー……よし、」
私は『いいよ』と返し、キッチンで彼からの着信を待つのだった。
つづく
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