受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

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「二宮さんのお声が気になって、気に掛かって、話し方とかとても好みでしたので、だから…在庫を取りに行く時も、逢えないかとドキドキしたりして…だから初めてお逢い出来た時、すごく嬉しくて…一目惚れなんです、こういうのは何て言うんでしょうね、ひと耳惚れとでも言いましょうか」

「はぁ」

「大牟田フロア長の計らいで連絡先を交換できた時も、嬉しくて…二宮さんの情報が集まっていくのが、とても楽しくて…あの、気色悪いキッカケで申し訳ないんですが、その…交際して…頂けませんか…?」

「……」

「あ、あの!検討でも良いので!」

「…はい、」

「なんなら、候補1号とかでも構いませんので!」

「分かりました、落ち着いて、牧野さん」

真澄の脳内でまつり上げられている自分が恥ずかしく恐れ多く、菫は両手を掲げてストップを唱える。

 出来ればしっとりと噛み締めたかった、ここまで好意をダダ漏れされるなんて想像していなかった。

 適齢期の大人だから打算も妥協もあって当たり前、燃え上がるよりも着実に詰めていくのだと思っていた。

 握手で協定締結、互いの利を害さない付き合い方を模索するものだと…菫は覚悟していた。

 だから目をキョドらせて縋り付く真澄が少し情けなく、しかし情熱を感じられて嬉しかった。


「す、すみません、取り乱して…クールにお伝えしたかったんですが」

「あははっ」

「…二宮さん?」

初めての素の笑い声に、真澄は少し驚く。

 これまで耳にしてきた女性のそれよりも、どっしりして重々しい。

 逆に言えば浮ついた軽薄さは無くて、品性が匂い魅力的だった。

 食事中にも笑ってはいたが、周りが騒がしくもあったのでクリアに聞けていなかった。

「すみません、えーと、大人でも、こういうきちんとしたやり取りがあるものなんですね」

「はい?」

「申し込み、みたいな…自然に良い仲になっちゃうものかと思ってて…」

「か、カッコ悪くてすみません、初めてなもので」

ドラマや映画のようにはいかなくて、真澄はワタワタと取り繕う。

 確かに自分でも、もっとスマートに告白できると思っていたのに弁明から入ってしまい困惑している。

「そうなんですか?」

「自分から告白するのは始めてなんです…」

「あ、そうでしたか…牧野さん、素敵だから引くて数多あまただと思ってました」

「そんな…僕こそ、二宮さんは素敵な方だから、まず既婚者かどうか調べなきゃ動けなくて…良かった、間に合って…」

「候補者は他にいませんから…」


 まず恋愛に持ち込める相手なのか土台が知りたかった、調べるうちに引き返せないほどにハマっていった。

 もし既にパートナーがいたとしたらどうしていただろうか、考えてもせん無いがその時は泣く泣く諦めていただろうか。

 車内は良さげな雰囲気に包まれて、しかし決定的な答えを貰ってないぞと真澄はハッと我に帰る。

「に、二宮さん、それで…返事を頂きたいのですが」

「…はい、よろしく、お願いします」

「あ、良かった、やったぁ…」


 ふにゃふにゃと脱力する真澄を見て、菫はやはり「可愛らしい人だなぁ」と感想を持った。

 見た目こそ男前で陽キャな雰囲気だが、中身の誠実さやマメなところに好感を持てた。

 向こうから好きになってくれたというアドバンテージもあるし、それをストレートに伝えてくれた素直さも好ましい。

 人に取られる前に告白できて良かったと喜ぶところも、気恥ずかしいが自信を持たせてくれて嬉しい。

「牧野さん、こちらこそ、好きになってもらえて、嬉しいです」

「いやぁ…ガキみたいですみません…これから、もっと、お互いのことを知っていきたいです」

「はい…とりあえず、歳も近いですし…敬語をやめましょうか」

「あ、そうですね…では、私生活ではタメ口で。今、ここから」

「…うん!」


 菫の声に惚れた真澄の恋は、ここに成就した。

 大人な二人はもじもじ「えへへ」と笑い合い、ぽかぽかした気持ちでそっと握手だけ交わして解散した。
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