26 / 88
5
25
しおりを挟む「二宮さんのお声が気になって、気に掛かって、話し方とかとても好みでしたので、だから…在庫を取りに行く時も、逢えないかとドキドキしたりして…だから初めてお逢い出来た時、すごく嬉しくて…一目惚れなんです、こういうのは何て言うんでしょうね、ひと耳惚れとでも言いましょうか」
「はぁ」
「大牟田フロア長の計らいで連絡先を交換できた時も、嬉しくて…二宮さんの情報が集まっていくのが、とても楽しくて…あの、気色悪いキッカケで申し訳ないんですが、その…交際して…頂けませんか…?」
「……」
「あ、あの!検討でも良いので!」
「…はい、」
「なんなら、候補1号とかでも構いませんので!」
「分かりました、落ち着いて、牧野さん」
真澄の脳内で奉り上げられている自分が恥ずかしく恐れ多く、菫は両手を掲げてストップを唱える。
出来ればしっとりと噛み締めたかった、ここまで好意をダダ漏れされるなんて想像していなかった。
適齢期の大人だから打算も妥協もあって当たり前、燃え上がるよりも着実に詰めていくのだと思っていた。
握手で協定締結、互いの利を害さない付き合い方を模索するものだと…菫は覚悟していた。
だから目をキョドらせて縋り付く真澄が少し情けなく、しかし情熱を感じられて嬉しかった。
「す、すみません、取り乱して…クールにお伝えしたかったんですが」
「あははっ」
「…二宮さん?」
初めての素の笑い声に、真澄は少し驚く。
これまで耳にしてきた女性のそれよりも、どっしりして重々しい。
逆に言えば浮ついた軽薄さは無くて、品性が匂い魅力的だった。
食事中にも笑ってはいたが、周りが騒がしくもあったのでクリアに聞けていなかった。
「すみません、えーと、大人でも、こういうきちんとしたやり取りがあるものなんですね」
「はい?」
「申し込み、みたいな…自然に良い仲になっちゃうものかと思ってて…」
「か、カッコ悪くてすみません、初めてなもので」
ドラマや映画のようにはいかなくて、真澄はワタワタと取り繕う。
確かに自分でも、もっとスマートに告白できると思っていたのに弁明から入ってしまい困惑している。
「そうなんですか?」
「自分から告白するのは始めてなんです…」
「あ、そうでしたか…牧野さん、素敵だから引くて数多だと思ってました」
「そんな…僕こそ、二宮さんは素敵な方だから、まず既婚者かどうか調べなきゃ動けなくて…良かった、間に合って…」
「候補者は他にいませんから…」
まず恋愛に持ち込める相手なのか土台が知りたかった、調べるうちに引き返せないほどにハマっていった。
もし既にパートナーがいたとしたらどうしていただろうか、考えても詮無いがその時は泣く泣く諦めていただろうか。
車内は良さげな雰囲気に包まれて、しかし決定的な答えを貰ってないぞと真澄はハッと我に帰る。
「に、二宮さん、それで…返事を頂きたいのですが」
「…はい、よろしく、お願いします」
「あ、良かった、やったぁ…」
ふにゃふにゃと脱力する真澄を見て、菫はやはり「可愛らしい人だなぁ」と感想を持った。
見た目こそ男前で陽キャな雰囲気だが、中身の誠実さやマメなところに好感を持てた。
向こうから好きになってくれたというアドバンテージもあるし、それをストレートに伝えてくれた素直さも好ましい。
人に取られる前に告白できて良かったと喜ぶところも、気恥ずかしいが自信を持たせてくれて嬉しい。
「牧野さん、こちらこそ、好きになってもらえて、嬉しいです」
「いやぁ…ガキみたいですみません…これから、もっと、お互いのことを知っていきたいです」
「はい…とりあえず、歳も近いですし…敬語をやめましょうか」
「あ、そうですね…では、私生活ではタメ口で。今、ここから」
「…うん!」
菫の声に惚れた真澄の恋は、ここに成就した。
大人な二人はもじもじ「えへへ」と笑い合い、ぽかぽかした気持ちでそっと握手だけ交わして解散した。
0
あなたにおすすめの小説
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる