嬉野エリア長の調査報告書…娘と会社の治安は僕が守る。

茜琉ぴーたん

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いざ復讐・横浜

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 2週間後、本社業務を終えた僕は懐かしき神奈川県へと降り立った。大学もこっちだったし、妻と出逢ったのもこっちだったから思い出深い土地だ。
 さて横浜に殴り込もうとタクシー乗り場へ向かえば、見覚えのある背格好の男が待って待ち構えていた。
「…あれ、宮前みやまえくん!」
嬉野うれしのさん、お久しぶりです!」
「どうしたの、仕事は⁉︎」
「休みなんです。たまたま、」
「…悪い子だ」
 きっと、本社での定例会議の日程を調べ上げて休みを組み替えたのだろう。僕はこちらに来る詳細は伝えていなかったのに、こんなドンピシャで会えるなんて偶然ではあり得ない。用事を済ませてから店に顔を出そうと思っていたが、良くも悪くも勘と知恵の働く男だ。
「まぁまぁ、近いですから向かいましょう」
「分かった」
 並んでタクシーに乗り、浜田はまだのいる店を目指す。

「それで、どうするんですか?まさか面と向かって言う訳じゃないでしょう?」
宮前くんはイタズラにそう言って、僕を挑発した。
「まぁね…実際、決めかねてるよ。娘に『復讐して』って頼まれた訳でもないし」
「浜田さんは、嬉野さんの顔を知ってるんですよね?」
「もちろん。人事担当として何度も会ってるよ」
「娘さんと、嬉野さんの関係については?」
「それは不明。でも、二股してるとはいえ、彼女の苗字と同じ苗字の人が近場に複数人いたら親戚かなとか思わないか?」
「そうですね…でも、『佐藤』『鈴木』姓は複数人いても不思議無いですよ」
「いや、『嬉野』よ?珍しいだろ…」
 僕たちがそんな不毛なやり取りをしている間に、タクシーは浜田のいる店舗に着いてしまった。

 大都市の中心部から少し離れた大通り沿い、かつてお世話していたので僕は懐かしく感じる。
 しかして隣の野心家くんは目つきが険しくなって、「良いですねぇ」なんて侵略者みたいに笑うので恐かった。


 1階、入ってすぐは華やかな携帯電話売り場。キャリアごとのジャンパーを着たスタッフが、口々に「いらっしゃいませ」とさえずる。子供に風船を配ったりビンゴカードを手渡して来たり、平日なのに活気に溢れていた。
「観光客の方も多いですね」
「そうだね…あ、こんにちは。お久しぶり」
かつて担当していた管理職を見つけては、声を掛けて近況を聞く。
 僕はプライベートで訪れているので世間話程度だが、目を付けていた子が昇進していたりすると感慨深いものがあった。

「ブランドは…3階ですね」
「2階は?」
「生活家電ですね。その上がエンタメとカフェとブランド品です」
「いよいよって感じだね」
 敵の総本山といった雰囲気に、少しだけ気が重くなる。
 浜田に会っても娘の問題は解決しないだろうし、そもそも彼が今日出勤かどうか分からないし。もしお休みなら評判だけでも聞いておこうかな、エスカレーターは3階へと僕たちを運ぶ。

「わぁ、外国人客ばかりですね」
「本当…ありがたいことだね」
 お土産なのか転売用なのか、海外からのお客さまはほとんどこのブランド品コーナーに集まる。
 時計、サングラス、ガスライターにハンカチなどの服飾小物。バッグは専門外だが、いずれ取り扱う日が来るかもしれない。
「スタッフも外国の方がいますね」
「そうだね、少なくとも全員英語は堪能たんのうなはず」
 ミルクティー色の金髪の女性スタッフは明らかに僕たち日本人とは人種が異なる。ペラペラと外国人客と会話して時計を売って、別れの挨拶なんかも欧米チックだ。
「(浜田くんは、この中で上手くやれているのかな)」
 彼は飛び抜けて有能という訳ではなかった。「家電を売りたくない」という気概は感じられたが、「ブランド売り場に誇りを持っている」という風には思えなかった。本人の強い希望で担当を続けさせたものの、こちらでくじけてはいやしないだろうか。
 敵とはいえ、浜田の現状が気になってしまうのは職業病というやつなのだろうか。

 ちょっぴりしんみりしてフロアを眺めていると、
「……嬉野さん、あそこ、」
と宮前くんが指を差す。
「……いたね」
 指の先のカウンターには、僕の目的である浜田が立っていた。
 浜田は身振り手振りで外国人客に応対していて、さすがというべきなのか意思疎通は出来ているようだった。
「活き活きしてますね」
 宮前くんは短期間ではあるが上司を務めていた。その際の浜田の面影と現在の彼のそれを比べては神妙に解説する。管理職・宮前としては、「僕の部下だった時よりも楽しそうじゃないか」と嫉妬してしまうのだろう。
「そうだね…困ってないなら良かったよ」
「世渡りが上手いんですかね、だから女性も…惹かれるのかも」
「うん…人誑ひとたらしなのかな、才能かもしれないね」
 販売営業の仕事では、人当たりの良さが売り上げに繋がることが多い。誰だって感じの悪いスタッフからは買いたくないし、かと言って過度にへりくだられても逆に胡散うさん臭く思う。僕は一生懸命に元気溌剌はつらつとしたタイプが好みだけど、それを「圧が強い」と感じる人もいたりする。
 ともかく色んな営業の仕方があるのだが、客から選ばれるスタッフは総じて「感じが良い」。もう少しで軽薄になる際どいラインを守り、もう少しで素っ気なくなるラインに踏み止まる。暑苦しいまで行かない熱意を振るい、嘘臭くない社交辞令で場を和ます。
「随分と…印象が違います」
「同感だよ」
 きっと、浜田の適所はここだったのだ。家電量販店の中のブランドコーナーでなくても良かったと思うが、彼は輝ける場所を見つけられたのだ。
 人事担当としては歯痒い気持ちだ。もっと彼の働き方の好みを尊重して配置してあげるべきだった。
「(まぁ、頑なに家電は売りたくないって言ってたからどのみち皇路オウジ本店では無理だったかな)」
 人事担当としては、仕事ぶりまで下衆ではなくて良かったなぁと…ホッとした。
 しかし宮前くんがここの上司に聞いたところによると、同僚に対してのナンパ行為をしているとのことだったので裏では変わっていないのだろう。

 それからこっそり浜田の上司であるフロア長に会って、少し話をした。プライベートと言いながらも、ちゃっかり仕事をしてしまっている僕は相当な社畜だ。
 僕は浜田が元の店舗で何をしていたか、娘のことは伏せてだが証言に基づいて話した。
「店舗内スタッフへの数股、お客さまに個人の連絡先を渡す、仕事外だけど近場で見境なくナンパ…しかも、本命は地元にいる。ここでも、同僚さんに粉を掛けてると聞いたよ。注意してあげて欲しい。仕事はしっかりしてるみたいだし、女癖は個人の問題だけど…会社内でやられたら堪らないからね」
 フロア長も馴染みがある社員だったので、親身になって聞いてくれて助かった。
 僕は勢いで乗り込んでみたものの、やはり復讐なんて出来そうにない。「あおいをよくも悲しませたな」と飛び出しても、浜田は娘のことを忘れているかもしれないし。むしろ、それをキッカケに彼の脳裏に葵との思い出を蘇らせるなんてことになるやもしれないし…だとしたら忘れてもらっていた方が良い。
 フロア長に挨拶して別れ、僕は同じ階の併設カフェにて宮前くんとお茶をすることにした。
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