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帰還・嬉野家
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しおりを挟む「……!お父さん⁉︎何で⁉︎」
「…ごめん、バイトで何かあったのかと思って、本店のレジ周りに聞き込みしたんだ」
本当は売り場にも北店にも西店にも聞き込んだのだが、口の固い者ばかりだから大丈夫だろう。
「……」
葵は元カレの名前の書かれた名刺を見上げて、ふいと目線を逸らした。
「これ、神奈川まで行って貰って来たんだ。あくまで仕事のついでにね、うん…余計なことしてごめん」
「……」
「裏、見て。お詫びの一筆と捺印貰った」
「はぁ?」
名刺の裏の詫び状を見せると、葵は眉間にシワを寄せて今にも泣きそうな形相になる。
「葵の恋愛に首を突っ込んですまない。でも、話を聞くうちに僕はコイツが許せなくなった。葵を傷付けたこともそうだし、店の中を掻き回して風紀を乱したってことにも腹が立った。でも収穫もあってね、葵の仕事ぶりが丁寧だとか、真面目に働いてることはきちんと社員にも伝わってたよ。それは親として人事担当としても嬉しかった」
「…そう…?」
「うん。この男は…葵を傷付けようとした訳じゃなくてね、ただただ気の多い男だったみたいだね。でも『きちんとしなさい』って釘を刺しておいたから、大人しくなるんじゃないかな…もうどうでも良いだろうけど」
溢れそうで涙は溢れなかった。
葵は唇をむにむにと動かし感情を抑えて、
「ありがとう」
と名刺を奪う。
「あ」
「気晴らしする」
葵は裏表と返し見て、それを中心から真っ二つに引き裂いた。
「ありゃ」
「…ふふ、人の名前裂くって、なんか罪悪感」
「それが普通の感性だよ…気は晴れた?」
「うん、もう要らない」
「ん、シュレッダーにかけとくわ」
僕は2枚になった名刺を受け取って、書斎のシュレッダーにかける。
ゴリゴリとすり潰され細かく切り裂かれる浜田の面影、もう僕も彼に会うことは無いだろう。
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