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後日談・嬉野一家
45(最終話)
しおりを挟む「なら、少なくとも店の中では大人しくするわね」
「うん。プライベートで遊ぶならそれは自由だしね、褒められたことではないけど」
「ふーん…私には分からないけど、彼にとっては超絶罰ゲームなんでしょうね」
「だね、僕も感覚は分からない」
お米が大好きなのに家にパンしか無くてひもじいとか、僕らが想像するならそれくらいが妥当なのだろうか。
お米が食べたいなら家から出て外に食べに出よう、そんな例えをしたら妻は呆れて笑った。
「ま、それで後日談終わり、復讐劇も完結ってことにしましょっか…葵はもう吹っ切れてるし」
「うん、終わりだよ」
「…新しい彼氏とラブラブだし」
「えっ⁉︎」
聞いてない、ダイニングでつい大声を上げてしまう。
葵は就職活動を控えた大学3年生、そりゃ娘の恋愛を逐一把握してたら気持ち悪いだろうけど…妻が知ってて僕が知らないのはズルい。
「真面目な良い子よ、同じ学部の子」
「待って、会ってるの?」
「この前うちに来たもん」
「ズルい、そういうの教えてよ、みんな会ったの⁉︎」
「うん。手土産持ってね、皆で頂いたわ」
就職した長男も、中学生になった次男も、その日は家に居たらしい。
手土産のケーキを仲良く食べて、男子ズは簡単に懐柔されたようだ。
「僕、それも貰ってない」
「泊まりがけで巡店してたじゃない。関係が続けばいずれ会うことになるわよ」
「…どこのどいつだ、まさかムラタ関係者じゃないだろうな」
「だから同じ学部生だってば。葵はもう、ムラタの人は懲り懲りって言ってたわよ、だからそっちは大丈夫」
「ムラタが悪い訳じゃないのに」
僕は乱れ過ぎた風紀を取り締まっただけで、普通に恋愛する分には構わないのだ。
かく言う僕ら夫婦だって社内恋愛だったのだし、仕事ぶりに惚れるのも立派な馴れ初めのひとつだと思う。
妻は僕の言いたいことを察して、
「ムラタの人と付き合うと貴方が見に来ちゃうでしょ、参観日みたいに。それが嫌なんですって」
とマグカップを片付け始める。
「…まぁ、見ちゃうよね。仕事ぶりも普段の話し方とかも。ムラタ以外でも、職業柄でチェックしちゃう」
「しばらく、放っておいてあげましょ。元カレ情報も黙ってた方が良いわ」
「うん…そうだね」
浜田の没落を待ち侘びていた自分が愚かしくて嫌になる。
もう娘は先に進んでいて、新しい恋しか見ていないだろう。
「もう寝ましょ、」
「うん…あ、ねぇ、葵の彼氏の話、もっと聞かせて」
「はぁ」
僕は自分のカップを片付けて、妻を追いかけた。
寝室で質問責めされる妻は面倒臭そうで、僕が「親御さんはどんな人だろう」とか尋ねた時にはもう寝息を立てていた。
「…おやすみ」
一緒にいる時間が少ないから、不在時の家族のことはどうしても妻からの情報に頼ることになる。
長男の彼女のことだって、次男の部活のことだって、直接見られないことを脳内で補完することになる。
だから調べて、蓄えたい。
明後日からはまたホテル泊まりで出張だ。
「(寂しいな)」
それまでにたくさん家族と触れ合って話をして、ウザがられても「教えて」と食い下がってやろう。
布団の中で妻の手をギュッと握り、決意新たに眠りにつく僕だった。
おわり
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