跳ね馬の恩返し—元ヤン娘は商店街の華になる

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　その後も閉店時間まで粘り、和樹は片付けに入った。

　カウンターに『本日は終わりました』のプラカードを置いて、幟のぼりを回収しに車を降りる。

　キッチンカーは目立つので、遠くから目当てに来られてもいざ近付いて閉店をガッカリされることがある。

　なので客引き用の目立つ装飾を早めに収めて、閉店していることを大々的にアピールしたいのだ。

　これは和樹の優しさで、「もうやってないんです」「そうですかぁ」という気まずい会話を避けるためでもある。

　「また来ますから」とチラシを配ったりもするが、残念そうな客の顔というのはなるべく見たくないものだ。


「（そうだ、白銀さんは）」

はたと真綾の存在を思い出して、和樹は彼女が座っていたベンチに振り返る。

　あれから３時間弱は経過しているし、さすがに食べ終わって帰ったのだろう。

　車の横にゴミ箱も設置しているからそこに捨ててくれたか、真綾が居た所には何も残っていなかった。

　若そうに見えたが再就職は大丈夫だろうか、そんなことを心配する。

「（この辺の子なのかな、また元気な顔を見せてくれたら良いや…その頃には顔も忘れてるだろうけど）」

　初対面の時と、今日では彼女は明らかに雰囲気が違った。

　今日は服装のせいもあるが元気というか溌剌はつらつとしていて、「辞めました」とあっけらかんと話す様子が逆に不安でもあった。

　追い詰められて心が壊れたのではないか、もう色々と諦めてしまったのではないか。

「（どうにもしてあげられないけど）」

　和樹は善人だが、何を投げ打ってでも人を助けたいとか崇高なポリシーは持っていない。

　手の届く範囲での善行は積むが、それで自身の生活が危うくなるなら潔く身を引くタイプだ。

　目の前で人の命が切れそうならもちろん助けはするが、見ず知らずのその人のために治療費を出すかと聞かれれば「ノー」と答える。

　世間一般にいる「良い人」、和樹は善良なそれだった。


「（帰ろ）」

店仕舞いを完全に済ませて、広場を去る。

　駅前は変わらず、人が波のようにうねっていた。