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しおりを挟む翌月、新緑の5月。
和樹が精肉店で仕込みをしていると、店頭に真綾がやって来た。
「こんにちは」
「…いらっしゃい、白銀さん」
あれから、真綾はこうして恩返しで度々和樹の元を訪れるようになっている。
和樹が店番の時を狙って来るあたり、何らかの理由がありそうなのだが…彼は考えないように努めていた。
「牛肉コロッケひとつ、下さい」
「まいど…白銀さん、仕事は?」
「夕方から、へへ…頂きまーす」
あれから真綾は、厨房清掃の仕事を始めた。
飲食店の閉店後に作業をする、夜勤に近い業種である。
「…辛くない?」
「うん、接客が無いから平気!自分のペースで作業できて、達成感もあるし最高!」
「そっか」
真綾はこうして、少しずつ個人情報を和樹に与えている。
近所に住んでいること、人見知りが激しいこと、高校を5年かけて卒業したこと…などだ。
断片的に得た情報によれば、中学で不登校気味になり、進学できたが単位を落として留年したらしい。
高校では悪い奴らとも連んでいたそうで、捕まりはしなかったものの良くないこともしていたそうだ。
そういった点も、和樹には気になるところであった。
知りたいのではなく、関わりたくない方向に。
「昼はね、ビル清掃も始めたの。タイルがピカピカになるの、超楽しい」
「そう、良いね」
ピュアなだけで馬鹿ではないのだろう、しかし天真爛漫と評するには彼女は人慣れしてなさ過ぎる。
顔は可愛いのだから接客業でも、と勧められはしたそうだが、人当たりが悪いので却下したそうだ。
「私、コミュ障というか、難ありだから…でも、萩原さんは緊張しない」
「そう」
「感謝してるんだよ、本当に」
「そうか」
「……ごちそうさまでした」
真綾は和樹の対応に意気消沈し、店を出て行った。
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