跳ね馬の恩返し—元ヤン娘は商店街の華になる

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　和樹が精肉店の店頭に出なくなってひと月。

「萩原さん、久しぶり」

　駅前広場での営業開始直後に真綾が現れた。

「…いらっしゃい」

「ロコモコ丼をひとつ」

「まいど」

「…あの、わ、私のこと…避けてる？」

お金をトレイに置いて、真綾は和樹を睨み上げる。

　二十歳そこそこの娘に大人気ないとは思ったが、和樹は正直に

「ごめんね」

と詫びた。

　誤魔化しても嘘をついても良くない、察して遠ざかってくれればと判断を彼女へ丸投げした。

「……」

真綾は和樹に会えないのを何かの間違いだと自身に言い聞かせて心を保たせていたのだろう、肯定されて無言になる。


　和樹は黙ってロコモコ丼を作り、フタをしてスプーンを付けてビニール袋に入れた。

「はい、お待ち」

「ありがとう…」

　何もしてないのに失恋した、真綾にとってはそんなところだろう。

　とぼとぼとベンチへ向かい、しょぼんとロコモコ丼を摘み出す。


「（…何で、俺が心を痛めなきゃいけないんだよ）」

いたいけな少女を虐めてしまった気分で、和樹はモヤっとしてしまう。

　やはり大人気なかったな、しかしダラダラと付き纏われても面倒だ。

　横目で真綾を確認して、和樹は近付いて来た次の客対応へと入った。


　季節は梅雨に入ったばかり、天候は徐々に悪くなっていく。

　ひと雨来そうだと、和樹は早めの店仕舞いを想定する。

　幸いにも在庫は順調に捌けているし、完売間近だ。

「（もう、良いかな、降りそう……あ、パラパラ降り出したわ）」

ハンバーグのタネを収めて、和樹は閉店のプラカードをカウンターへ出した。

　濡れる前に幟のぼりも回収、ゴミ箱もフタをして車へ載せる。

　ベンチには真綾は居なくて、ホッとしつつも心配になる。

　若い子相手に意地悪をし過ぎたか、恋愛目的で会いに来ていたとも限らないのに。

「（ただの恩返しに、俺、自意識過剰だったかなー…）」


　和樹は渋い顔で、後片付けをこなして家へと帰った。

　雨は次第に強く降り出して、ワイパーのスピードを上げねば水捌けが追い付かない程だった。